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□エンドロールが終わらない
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エンドロールが終わらない
幕が再び上がる音がする





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キャスト




【プロローグ】パラス・アテナ



ただちに退避しろとの機械音
全ての人が退避し終えたのをダイアナが確認して、安堵するのも束の間
セント・サファイア号の終わりを見守るだけだと思った瞬間、血相を変えたダイアナの声が頭に響いた


「船内に人体反応!生きてるわ!」

「まさか!」

「何だと!?」


操縦室の空気が凍った
矢継ぎ早に助けに行けないか、救助は無理だなどと言葉が交わされたが、無理なことは船の状態を外部から見るによくわかった
焦燥とする中で、ダイアナの緊張の中にも訝しげな声がした


「……この人、役者か何かなのかしら」


ケリーに言われ、ダイアナによって映された映像は変わった風体の男だった
その姿に金銀黒天使にレイラは呆気に取られた
リィは凄まじい剣幕で後ろにいたルウを振り返った
レイラも心当たりはルウくらいしかいないので、悲鳴を飲みこんで声を張り上げた


「ルーファ!」

「ルウっ!」

「違―――――――う!!」


それ以上の大声でルウに叫び返されたが、動じるわけにはいかない


「誤解!濡れ衣!絶対ぼくじゃない!」


さらなる怒号がリィから発せられ、レイラから責め立てられる
あまりの狼狽っぷりに周りが唖然とする中、シェラが映像を確認して叫んだ


「そんなことより早く陛下を!」

「へーか?」

「知り合いか?」


理解できていない三者に説明している時間はなかった
明らかに状況を理解できていない渦中の人間が待っている
わからなくて当然だった
内部の映像がわかるのも限界に達したとダイアナが宣告する


「こちらに、陛下を!」

「わかってる!」


ルウの首に掛けていた鎖が引きちぎられ、指輪が指にはまる
普段なら決して見ることのできない光景
止めることも質問する暇もない
しかし、そこまで手を尽くそうとしている当人のルウは舌打ちした
救助隊が気がついてしまったのだ


「仕方ない。最後の手段だ」


ルウの手によって、一振りの剣が引っ張り出された


「――はい」


差し出されたリィにとっては腕同然のものだが、シェラとレイラは懸念した


「使えますか!?」

「無理があるんじゃ……」

「それはエディ次第」


リィの行動は素早かった
流れるような動きで鞘を払い、抜身の剣を右手に持って振りかぶった
何をするのか分からない者は悲鳴を上げた
しかし、リィは聞いてはいない
船内に突き刺さるはずだった剣は忽然と消えた
リィは「車を借りる!」と叫んで操縦室から飛び出して行ってしまった
床に落ちて音を立てている鞘をレイラは拾って大事に抱えた


「リィ、頼んだわよ」


彼はここで死んでいい人間ではないのだと、彼を知る者は誰もがわかっていた



王との再会



船内で、ルウとシェラとの再会を終えた男、ウォルの前に待っていたのは長年一緒に暮らしたレイラの姿だった
王であるウォルを目の前にただ立っているわけにはいかないと膝を折ろうとしたが、震えてうまくできない
その姿を見かねてか両手を包みこむようにしてウォルはレイラを抱きしめた


「元気そうで、何よりだ」

「陛下もお変わりないようで」

「そうか?しかし、その呼び方……お前に言われると老けこんだ気がしてしまうな」


本当に変わらない悪戯な笑顔を浮かべているウォルに堪らなくなって、レイラは大きな瞳から一筋涙を流した


「……とても、とてもお会いしたかった、兄さま!」


そして、改めて抱きしめ返すと相変わらず大きな図体の温かさが感じられた


「兄さま?」

「レイラ、この方は一体……」


へいか、にいさまと普段、金銀黒天使やレイラから聞きなれない言葉にジャスミンとケリーが訊ねようとしたが、その前に客人に挨拶をしなければならないと思い返した


「ようこそ。俺は船長のケリー・クーア。こっちは女房のジャスミンだ。この子らの知り合いなら歓迎するぜ」


ケリーは相手を観察していた
ずいぶん大きい男だという第一印象から、映像では感じ取れなかった不思議な強かさを間近に感じる


「突然の来訪をお許しください。デルフィニア国王、ウォル・グリーク・ロウ・デルフィンと申します」


本当の国王陛下であると思っていなかったので、二人は驚く
同時に兄と聞こえたレイラの発言が気になった


「兄さまとは同じ養父母の元で育ったの」

「そうだったのか」


レイラの立場を気にしていなかったが、元の世界に家族がいて普通に暮らしていたのだと思うと大事なものを預かった気分になる


「兄さま。ケリーとジャスミンは、今の世界での私の父母になってくれている人たちなの」


規格外の夫婦を見て動じるわけでなく、レイラが今の状況を話すと本当の妹が世話になっているがごとくにウォルは頭を下げる
それがこちらに来る前にリィたちに頼む、と口にして頭を下げた姿に重なった


「それは……妹が大変お世話になっています」

「頭をお上げください、陛下」

「そうです。書類上の親子ですが、レイラにはよく助けられているのです」

「ほう」

「ちょっと、スト―――ップ。時間もないし、色々語るのは後、後!」


ウォルとレイラの繋がりは深い
生まれて途中までは本当の兄妹だと言われて育った
敬いはしているが、気安さはある
しかし、ウォルとリィの繋がりもまた、切っても切れない深いものだ
できるかぎり優先させてやりたいと思うのは妹心、友人としての心として存在した
金銀黒天使はその様子を久しぶりに砕けたレイラが見られたと微笑ましく見ていた
レイラが生まれた世界は仮の世界で、本当の世界はこちら側なのだと、このままでは歪みが生じてしまうと言われ悩み決断した頃に比べると穏やかな表情に安堵した



消失と構成点から



「レイラ。お前にもわがままを言ってもいいか?」


最後にレイラに向き合ったウォルはきまりが悪そうに訊ねた


「……一つって言ったのに?」

「そう言わんでくれ」

「わかってる。と言っても、わたしにはリィのようなきんきらの目立つものはないわよ」


レイラの髪は何の変哲もない茶色に近い黒髪だった
他に何か身体の一部をあげてもいいのだが、それがレイラだと正確にわかるのはあちらの世界でウォルくらいだろう


「指輪をまた交換してくれ」


兄妹の印にと幼き頃に養父から贈られた指輪は、今となっては血の繋がりのない兄妹にとって証のようなものだった
胸の中にしまってあった鎖に繋がれたウォルの女物の指輪を見て、レイラは苦笑した
こちらの世界に来るときに手放した懐かしいものが確かにあった


「ここに兄さまの十年分詰まっているというわけね」


レイラも胸につったペンダントの中身を取り出した
質のよい鉛で作られているからか磨けば光沢は受け取ったときのままの状態を維持している
男物のそれは彼女の指にはまることはなかったけれども、ときどき取り出して眺めると今でも鮮明に故郷を思い出す
お互いにあるべき場所に戻った指輪は、よりしっくりと両者の懐にしまわれた
別れの図形にウォルが足を踏み出した
リィが言った


「みんなによろしくな」

「ああ」


まだ何か言いたげで、それでも絡まった言葉を飲みこんで不自然な肯定がウォルから聞こえた
ウォルにしては歯切れが悪い


「じゃあな」


リィがあの日言った言葉がそのままそっくりウォルから発せられてリィもレイラも苦笑した
何か言わなければ、言ってやらなければと思う
しかし、その姿はあっけないほど簡単に消えた
空間を移動することはルウもレイラもよくあることだ
ただ、今回の消失はそれとは違う
リィがため息を吐いて部屋を出て行こうとしたのを、ルウが止めた


「構成点がまだ生きてる。向こうの様子が覗けるよ」


そんなことをしてボンジュイが黙っているはずがないのに、ルウは今からケーキを作るけどどうするか程度の軽さで聞く
駄目だと当然レイラは反対したが、最後には誘惑に負けた
レイラ自身、まだまだ自分の力を使いこなせるわけではないので、何もかもルウに頼りきりで、それがまた歯痒い
それでも、昔なじみのいる世界を覗くのはまたとない機会だった
十年という年月は見知った友人たちの子供たちが成長している姿でより感じさせられる
どの子どもが誰の子供かわかってしまうのも可笑しかった
レイラがもしあちらの普通の人間であったならば、輪の中で子どもたちや夫と呼ばれる存在と共にあったのだろうかと夢を見た
そして、フェルナンを見てすぐにウォルの子だと察した
ウォルの小さい頃とよく似ている
幼い瞳に苦悩の色が浮かんでいるのが唯一、親子でも違っていた
幸せに暮らしているはずだった
問題はリィたちの働きによって一掃され、今のあちらは平和だと信じていた
信じるしかなす術がなかった
しかし、子どもに見せる優しい親の顔とは一変して、大人同士や一人きりになると険しい顔が垣間見える
状況が理解できない
薔薇の間で、イヴンが苦し紛れに吐き出した独り言で事の重大さがようやくわかった
パラストが攻めてきている
ヘンドリック伯爵が戦死し、アヌア侯が療養、タンガでは内戦と、挙句の果てにドラ将軍が倒れている
そんなことを一言も言わずに帰ってしまった王の、ウォルの心中を察するにレイラの心は痛んだ
笑顔は無理して作られたものだったのか、不自然な間はこのことだったのかと離れた時間で変化に気づかなくなっていた自分をレイラは恥じた
最初は、なぜ十年後の話をするのだと不思議だった
その十年が彼らにはもうないのだと覚っている
ポーラがリィの肖像の前で号泣している
慰めてやることも、加勢してやることもできない無力感が襲った
あちらの世界の誰もが来るはずのない王妃を待ち望んでいた
ウォルがなぜ来たのかようやくわかった
彼らの念が力が束になって、ウォルを運んだのだ



鎖の前



「どうするの?」

「おれに何ができる!?」


リィが絶叫するのももっともだった
助けに行けるのならば、もちろんそうしている
自分の力で、どうにもならないから歯痒く泣きそうになる
リィの震える手がきれいな髪を乱した


「……あの、馬鹿!!だがな、現実にどうやって言えっていうんだ!?」

「決まってるでしょ」


リィがこれほど怒るのも珍しいが、逆なでするルウもルウだ
シェラとレイラは息を呑んで二人を見つめていた


「行っておいでよ。デルフィニアの王妃として」

「ちょ、ルウ!意味わかって言ってるの?」

「うん。そのつもり。あの状況で王妃さまが助けに来ないのはそれこそ不自然だよ」


行けるものなら今すぐ救援に行きたい
ルウも協力的に見える
後はリィの判断を待つばかり
簡単なように思えるが、リィを躊躇わせているものがレイラにはわかった
レイラ自身も助けに行きたいと思う気持ちと同等くらいにある気持ち
賢者の言うとおりだ
今度あちらに行ったら、リィは縛られる
しかし、ルウは笑って決断を待っていた
レイラにはわからないが、ルウにはわかることが沢山あるのだろう
何より彼らは相棒だ
どちらかが危機のときはどちらかが必ず助ける
契約の元、絶対的な信頼を築いている
ようやく決断したリィとルウの間にシェラが壮絶な決意の表情で割り込む


「レイラ」


ペンダントを握りしめても、まだ手が震える
彼らが求めて待っているのは王妃だ
レイラが行ったところで、一兵卒にしかならない
知り合いやかけた愛情が多い分、相当の決意で捨てたものを再び捨てることになるだろうことに堪えられるか自信がなかった
ルウはレイラに手を差し出して、おいでと誘う


「君も考えすぎ」


もう一方の手で頭を優しく撫でられると、胸にすとんと不安な感情が落ちた


「一つ背負うのも二つ背負うのも一緒だよ。後は任せて。必ず返してもらうからね」

「ごめんなさい、ルウ」

「泣かないで」

「……ありがとう」


レイラ自身の魔法が自らを包んで、この世界に来たときの姿まで戻った
リィとシェラも同じ魔法をルウにかけられて、よく見知った懐かしい顔が三人揃った
我に返ったケリーが早急に旅立つ金銀天使とレイラに声をかけた


「必ず戻って来い」

「きみたちの武運と勝利を願う」


ジャスミンも真剣な顔で言った
リィは見惚れるような微笑を浮かべて頷く
レイラは涙の跡を残しても花がこぼれるような笑顔を見せた


「行ってくる」

「行ってきます」


次の瞬間には、その姿は共和宇宙から消えた
鎖は断ち切られた









thank you 淪落 Chien11







キャスト



あなた(レイラ)
グリンディエタ・ラーデン
シェラ・ファロット
ルーファス・ラヴィー
ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン

ケリー・クーア
ジャスミン・クーア
ダイアナ・イレヴンス

ラティーナ・ジャンペール
イヴン
ノラ・バルロ・デル・サヴォア
シャーミアン・ドラ
エミール・ドラ
ロザモンド・シリル・ベルミンスター
ポーラ・ダルシニ

〜子どもたち〜
フェルナン


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