short story

□敬礼
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海の上を、霧がきれぎれに流れていく。
辺りは薄暗く、肌寒く、昼間であるのが嘘のようだ。

しんと静まった中を、時折気味の悪い海鳥の声が響く。
おどろおどろしい雰囲気が漂う海を、黄色い潜水艦はゆるりゆるり、航行していた。

小さな島とも言えない岩礁が増えだしていた。
ポーラータング号は、波に隠れた岩礁に船体をぶつけないよう気を付けながら、先を目指す。
ローは甲板に出て、辺りの様子を見ていた。
クルーも目視しながら、航行の微調整を重ねている。

岩礁が多くなってきたのは、島が近い証でもあった。
次の島は、どんな島だろう。
何が待っているのか。
宝か、冒険か。
はたまた敵か、悲劇か。
島が近づくにつれ、期待と不安が高まっていく。


ローは、ふと先の岩礁に目をやった。
霧の切れ間から、何かが見える。

それは人骨だった。
複数の、全身の人骨。
皆、服は着ているが、長年の風雨のためにボロボロにちぎれている。
首を縄で括られて、岩礁と岩礁の間に引っかけられていた。
そして、骸骨の隣には旗がはためいている。
旗には力強い文が、警告文が書かれていた。


“海賊 には 死を !”

“海賊 は 去れ !”


怒りの込められた文字がこちらを睨んでいる。
人の頭ほどある海鳥が一羽、人骨の肩に留まり、肉ももう付いていないであろうに、骨をつついた。
それを見たシャチが、ひいっと変な声を立てる。


「酷い有り様っすねェ、こりゃ」

「あぁ。歓待は望めそうにないな」

「どうします?武装万全で行きますか」

「どうするか……。だが、まずはこれだろう」


ローは骸骨を見つめたまま、おもむろに帽子を脱いだ。
そして、手にもった帽子をそっと、胸にあてる。
ローは静かな眼差しを骸骨に向けたまま静止した。
船長のその様を見て、クルーが次々と真似ていく。
各々、作業する手を休め、帽子を脱ぎ、胸に掲げた。

それは海賊の骸に対する敬礼であった。
同じ海賊としての敬意を。
最後まで海賊として生き抜いたことに対する尊敬を。
その魂が少しでも安らかになることへ、僅かばかりの祈りを。
それらを込めて、ハートの海賊団は骸に敬礼する。


やや静寂の時が過ぎた。
船が骸骨の前を通りすぎると、ローは進行方向へ向き直り、帽子を目深に被る。
クルーたちも、わらわらと動き始めた。

クルーの声が行き交う中で、ローの瞳は、静かに、まっすぐ先を見つめる。


───さぁて……


さて、どんな困難が待っているのやら。


霧の中で、ローの口角が、ニッと上がった。




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