月の花の咲く夜に

□*-2.聖殿
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「私は約束事として挙げさせていただいたと思いますが」
 少しきつい口調になるのにもかまわすそう告げる。
 ティアが期限に間に合わせられないだろうということはラウドの頭の中では織り込み済みだ。だが、だからと言ってここでわかりました、いいですよとはいえない。
 ティアはすぐに逃げる。真実とは違った理由で自分を納得させてしまうことも多い。けれどもそれではいけないのだ。ルキウスの隣に立つためには、ルキウスだけでなくティアにも努力して貰わなくてはならない。
「申し訳ありません……」
「今書けないものは明日になっても書けません」
「ですが……」
 ティアが珍しく反論しようとしたので、少し待ってみる。けれども、ティアの言葉は続かない。
「――あなたはどうして書こうと思ったのでしたか?」
「殿下に元気になって頂きたくて」
「そうでしょう? それにも関わらず書けないということは、本当は殿下のことをさほど心配されていないのでは?」
「そんなことは!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ。久しぶりに大きな声を聴いたと思いつつ、さらに畳み掛ける。
「でも書けないのでしょう?」
「か、書けます! ただ、少し時間が足りなかっただけです」
 その言葉に少しだけ関心する。ティアが断言することは極めて珍しい。
「そうまでいうのでしたら、明日まで待ちましょう。ですが、昨日の約束と同じで夜はしっかりと眠ることというのは守ってくださいね。それから今日の午後のお勤めと明日の朝のお勤めはきちんとしてもらいます」
「それは」
 ティアの表情に焦りが生まれる。書くための時間をまだもらえると思っていたのなら甘いとしか言いようがない。
「空き時間がそれなりにあるでしょう? その時間でお書きなさい」
 厳しい条件であることはわかっている。だが、ティアを教育するにはルキウスにかかわる部分から始めるのが一番なのだ。
 ティアがいざといったときに強い力をはっきするタイプであるということは先の事件で証明されている。けれども、事件なんてそうそうあるものではなく、日常と呼ばれる時間がほとんどなのだ。その中でうまく立ち回れなければ、王宮でなく市井であってもつぶされる。それではいけない。
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