永遠と瞬の声

□9.守りたかったもの
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 バンっと大きな音を立て、乱暴に扉が開かれた。
「いた。本当にまだいた」
 開けた扉を片手で支え、肩で息しながら睨み付けるようにこちらを見ている少女。あたしも希も唖然として作業の手を止めた。
「つぐみ」
 久しく忘れていた一時的に組んだ相方の名をつぶやく。
「香澄なんて嫌い。いつもいつもいつも! どうして私の邪魔ばかりするの? とっくに会社から抹消されていると思ってたのに」
 先ほどからかなり酷いいわれようなのだが、あたしは特に腹を立てるだけでもなく、むしろこの再会を喜んでいた。いつの間にか名前でしかも呼び捨てで呼ばれていることも気にならない。
「変なメールが来るようになったと思ったのよ。よくよく見れば、なんだか香澄がやりそうで言いそうなことばかりだし、おかしいと思ってた。せっかくshine対策だって目処がたってきたのに、突然の解散命令。瞬様の依頼だって誰よりも早く動けたのに香澄のせいで出遅れて。どうして? どうして私に任せてくれないの? 今、起っていることだって私なら何とかして見せる」
「つぐみ」
「な、なによ」
「ちょうどいいところにきたわ」
 あたしの発言につぐみがぽかんと口を開ける。
「……香澄、私の話聞いてた?」
「ちょうど、現役の指令課を探していたところなの。さすが真奈だわ」
「だ、誰が真奈に聞いてきたっていったのよ」
 図星なのだろう、むきになって言い返す。その行動自体が肯定になってしまっているのだが、つぐみは気づいていない。指摘するのも大して意味のないことなのでそのまま話を続ける。
「してほしいことがあるのよ。今すぐに研究を一つ商用化してほしいの」
「無視? こっちの言葉聞こえてる?」
 その瞬間、パコンと頭をはたかれた。振り返ると希がマウスパッドを丸めて手に持っている。
「あんた、少し黙ってなさい」
 呆れ口調で希がいうと、つぐみがはっと表情を変えた。
「もしかして、あなたが『希』?」
「何か含みがあるように聞こえるけれど、私が希よ。香澄の最初のパートナーの」
「香澄と組んでいてかつ、唯一入社していない社員でしょう? へぇ? 本当に連れ戻せたんだ」
 希が驚いたように答えにつまる。それもそうだろう。入社していないということはあたしも希も知ったばかりだ。それをわかって言っているのだろうから、これもまたあたしや希に対する挑発のようなものなのだろう。気にする必要などないけれど、希はどうするだろうか。
 ふっと目を向けると、希は静かに首を振っていた。おそらくあたしと同じ思考を巡り同じ結論に至ったのだろう。そして話題を戻す。
「……自己紹介は済んだわね。仕事の話をさせて頂戴。よければそこに座ってもらいたいんだけど」
 ずっと入口にたったままだったつぐみを招き入れる。一瞬ためらったつぐみだが、結局、同じ卓についた。
「何、仕事って。商用化するくらい、いくら指令課を抜けてると言っても二人なら簡単でしょう?」
「何でもいいならね。でも、私たち、世間をあっといわせるものがほしいのよ。対企業でも対工場でもなく、対個人の商品として。指令課と実行課は縦割りで、しかも研究結果を競っているからかなり内部でも情報を伏せているでしょう? さすがにここからだとベストな研究を探し出せない」
「それで何をしたいの? 確かに、個人に向けて出せる商品なら一瞬で世間をあっと言わせられると思うけれど、後が続かないわ。うちの会社的な利益を考えるならあまりいい案とは思えない」
「その、一瞬で世間をあっといわせるってところが大事なのよ」
「何か、私の知らない話?」
「えぇ」
 希は頷くにとどめる。つぐみは説明がないとわかりやや不機嫌そうな顔をする。けれどもそのまま黙って希に説明の続を促した。
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