穴眠村の子守歌

□6.冒険を終えて
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 祖母の家に着いて、玄関の前で足を止めた実果は少しだけ緊張していた。桃花を迎えに行くだけのつもりが長いこと留守にしてしまった。両親も祖父母も心配していたかもしれない。怒られるだろうか。
「もう、お姉ちゃん何やってんの。寒いんだから早く入ろうよ」
 そんな実果の躊躇いなどお構いなしに、桃花が引き戸をガラガラと開けて中に入る。
「だたいまー!」
 桃花に続き櫂がスタスタと中に入る。いまだに動けずにいた実果の背を登が優しく押す。
「大丈夫だよ。君のお母さんだって中月家の女の子だったんだから、わかってるよ」
 実果も頷いて中に入る。と同時に桃花の奇声が耳に飛び込んできた。
「うそぉー!」
 そんな桃花の目線を追って実果もまた絶句した。
「お帰り! 桃花、実果お姉ちゃん?」
 ちょこんと首をかしげて出迎えたのは風香だ。しかも山の中と口調が違っている。
「えっと、あれ? 山の神様と前お世話になった人のところに挨拶に行ったって……」
「そんなに時間かかるわけないじゃん。みんな何もたもたしてたの?」
 実果ははぁっとため息をついた。なんだか桃花が二人に増えたみたいだった。それから風香の後ろに両親が立っていることに気づく。
「あ……お、お母さん。えっと、ご、ごめ……」
 言葉に詰まっていると、母は実果の側に来て膝を付く。
「帰ってきて最初にいう言葉は?」
「た、ただいま」
 言うと母はギュッと実果を抱きしめた。
「お帰り、実果。二人を連れて帰ってきてくれてありがとう」
 実果の胸がじんわりと温かくなった。そう実果は妹を迎えにいったのだ。その役目はしっかりと果たした。
「遅くなってごめんね、お母さん」
 ひとしきり挨拶を済まして、それから茶の間に移動する。おばあちゃんからたっぷりのおやつをもらって食べながら、みんなで今回の冒険の報告をする。もちろん話し手は専ら桃花であったが。
「そうだ」
 実果がぽつりとつぶやくと、意外にも桃花が話を打ち切ってこちらを見る。
「どうしたの? お姉ちゃん」
「うん。ちょっと気になったんだけど、風香って今までどうしていたの? ずっと飛鳥をやっていたわけじゃないんでしょ?」
 突然話を振られた風香がきょとんとしておやつを食べる手を止める。
「ん? うん。飛鳥として空……櫂たちのところに行ったのは眠り穴の眠りが覚めたときかな。それまではね、ここでも、向こうの世界でもない別の世界にいて、空馬家の叔母さんのところにお世話になってたの」
 言った瞬間、櫂がお茶にむせる。そして苦虫をかみつぶしたような顔で尋ね返す。
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