穴眠村の子守歌

□5.子守歌
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「あ……」
「どうした?」
 心配そうに覗き込む櫂に実果はとっさにしがみつく。
「いた。風香がいたよ」
「ど、どこにだっ」
「山の神様のところ。眠りの浅い今しか、お世話になった人のところに挨拶にいけないからって、連れて行ってもらってるみたい」
「無事なんだな?」
「うん」
「戻ってくるな?」
「うん」
「良かった」
 心の底から安堵した様子で櫂が息を吐く。実果も涙がこぼれそうなのを必死で抑え頷いた。
「ね、ねぇ、それで……?」
 桃花がもじもじとした様子で尋ねる。実果はきょとんとして見返す。
「また、帰りも同じだけ歩かなきゃなの?」
 見るからに嫌そうな桃花の様子に、一気に笑いが込み上げた。櫂も登も同じだったらしく三人で同時に噴き出す。
「もう、桃花はー」
 いいながら今度こそ山の神に尋ねる。
「うん、いいってさ。じゃあ行こうか」
 念のため櫂の服と桃花の手を握って、また登は実果の肩に手を置き、そして念じる。
(山の神様、麓の村まで送ってください)
 ふっと目の前の岩壁が消え、目が回っている時のような景色が映る。それも一瞬のこと、気付けば山道の入口まで移動していた。
「す、すごいや」
 実果もうなずく。そして山の神にお礼を告げる。
「行きもこうすればよかったのに」
「桃花、わがまま。きっと山の神様は私たちのこと知りたかったんだよ。だから最初から山の神様の力に頼ってたらキッと嫌われてたよ」
「わ、わかってるってば」
 桃花がぷっと頬を膨らませる。それから四人は祖母の家に向かって歩き出した。
 再び雪が降り出していた。山の中ではさほど感じなかった寒さが一気に身に押し寄せた。実果は一度だけ山道を振り返る。そこで山の神が手を振っているような気がした。
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