穴眠村の子守歌
□5.子守歌
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そこにあったのは自分の背丈よりやや低く、幅も両手を広げれば塞げるような大きさの洞穴。想像していたよりも小さくて実果も桃花も拍子抜けする。
「こんな小さい穴を通ってあの人たちは来たの?」
驚きつつも率直な感想を桃花が述べる。櫂も登も苦笑して答えないが、どうやらそういうことらしい。
「それで、どうやって眠らせるの?」
実果は飛鳥を……風香を振り返って尋ねる。それには櫂が答えた。
「三人とも、かぎを出して見ろ」
かぎは取られたままだった、と焦ったのも束の間、手の中に固い感触が現れる。
「あれ? え? えぇっ!?」
桃花も同じだったのだろう驚きの声を挙げる。
「山の神が取り返してくれたのね」
風香があっさりと断言する。三人の手にかぎがあるのを確認すると、櫂がパチンと指をはじく。途端にかぎが淡い光を帯び始め、三人の手から宙に浮いた。
「歌を」
登が促す。実果は自然と桃花と風香の手を取り、洞穴へと顔を向ける。歌は三人の口から自然と出てきた。小さい頃、母が歌ってくれた子守唄。
ねむれ ねむれよ いとしきわが子よ
ここは母なる山のふところで
ただしずかにねむるばしょ
ねむれ ねむれよ ときがみちるまで
歌い終わるとかぎがまばゆいばかりの光を放った。思わず両手で顔を覆う。そんな実果の耳に櫂と登の声が響く。
「山の想いたるかぎは眠り穴(そなた)へ」
「目覚めし時はふたたび空馬家(われらのもと)へ」
「「いざ、ねむりへとつかん」」
二人が言い終わると同時に光が消えた。そこには洞穴も何もなくただ岩壁だけがあった。
「眠ったの……?」
言いながら実果は両脇に立つ妹たちに尋ね、そこで風香の姿がないことに気づく。
「うそ、風香!?」
「馬鹿な。今回は突風も吹いてないぞ」
焦った様子で櫂が叫ぶ。登も表情を失くして辺りを見回す。
「風香ー! どこにいるのー!」
「風香おねーちゃーん」
実果と桃花で名前を呼ぶも返事はない。
「仕方ない。一旦、家へ戻ろう」
櫂が誰よりもショックを受けた表情で言った。それはそうだろう。一度ならず二度までも風香を手放してしまったのだから。
「まだ山の神の力は借りれるか?」
櫂に尋ねられ、実果は山の神に声を掛ける。