ノーマル小説
□光陰 10/14up
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どうしてひとは過去を振り返るのだろう。
あのときああしていれば、こうしていれば。
また未来は違ったのにと。
どう考えた所で今が代わることはないのに。
【光陰】
「アスラン?」
一人、バルコニーに佇み海を眺めている結婚相手の姿が目に入り、ラクスはアスランの元へと歩み寄った。
澄んだその声は静かなバルコニーには良く響き、アスランは振り返る。目が合うとその双眸は細められ、穏やかな笑みを浮かべるとまたすぐに視線を海へと移した
「お風邪を召されてしまいますわよ?」
空気のように自然に隣へと並び、グラスを持つアスランの左手にそっと触れるとそれはいつもの温かな体温を失っており驚きにも似た表情でアスランを見上げた。
「まぁ、ずいぶんと冷たくなっていますわ。ずっと此方にいらしたのですか?そうですわ」
ぱっと手を離すと自分が掛けていたスカーフを取り、アスランの肩に掛けようとした。が、其れに気付いたアスランに手を取られ、実現にはならなかった。
「俺は平気です。それよりこれは貴方が風邪を引かないために必要でしょう」
「まぁ。それはお身体の体調を崩された時には私にうつして下さると言うことですの?」
「いえ、そういう訳では…」
分からないと言った風に小首を傾げて言葉を濁したアスランを見つめると、軽く唸ったのちグラスを持つ手を持ち替え、空いたその手をラクスの腰に回して引き寄せた
「その、これなら…二人とも温かい、ですから」
たどたどしく、頬を染めて呟くアスランが可愛らしくてクスっと小さく笑うとアスランの肩に頭を預けた
ふわりと彼と自分を包み込むようにスカーフを掛け、顔を綻ばせると海を見遣る
「アスランは過去を振り返る事はありますか?」
「え?」