NOVEL

□Eden
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小鳥のさえずりと共に朝のすがすがしい光が窓から差し込んでくるとある男子寮の二人部屋。
窓は少しだけ開けられておりそこから冷たい風がカーテンをふんわりと揺らす。


いつもならまだ寝ている時間帯だが冷たい風に頬をなぞられ、肌寒さを感じたアスラン・ザラはうっすらと瞳を開いた。
そして傍においてあった携帯を開く。



液晶画面には同室のキラ・ヤマトとのツーショットの写真が壁紙にされており其処に10/29 6時25分と映し出されていた。


「あと5分…か」


小さく呟いた後携帯を閉じて時が過ぎるのを黙って待っていると、2段ベットの下で眠る彼の小さな寝息が耳に届いた。




ドキ、っと一瞬胸が高る





そして昨日の出来事を思い出すかのように自分の唇を指先で緩慢になぞった。




0時になった直後「おめでとう」の言葉と共に"プレゼント"と称され勝手にキスをされてしまったこと。

床についていた自分の手にキラの掌を覆い被さり、近づいてきた顔を今でも鮮明に思い出せる。





俺の、








ファーストキス





そんな時けたたましく目覚ましの音が室内に鳴り響き、うるさいなぁ…と気怠そうな声と共に音は消えた。
もう少し寝たいが為に性急にアラームを止めたのだろう。


昨日の今日で顔を合わせ辛いが、同室の彼と顔を合わせないなんてことは到底無理の話で。ベットから降りるとキラを起こすため背を屈め軽く肩を揺すぶる。


「キラ…?」


「…分かってる」



眼は開けず、揺さぶられるのを阻止するべくアスランの手をぎゅっと掴む。起きる気がない証拠だ。



握られた手から体温が伝わりトクン、トクンと鼓動が脈打った。
意識しているのは自分だけなのだろうか。そんな考えが頭をよぎる




「ねぇ、アスラン」



と、夢の中に浸っているのかと思っていたキラの突然の呼びかけにビクっとアスランは肩を揺らした



「…なん、だ?」


「うん。アスランがさ、キスしてくれたら起きようかなって」


其処には双眸を細めながら此方をみている姿があった。その声色からして本気じゃないことは分かる。だからこそ、からかわれているんじゃないかと頭にきたアスランは鋭く低い声で「なら勝手にしろ」と冷たく引き離した。


そんな様子に少し慌てたキラは逃げていくアスランの手をしっかりと掴みなおして困ったように笑い。


「僕、アスランに見限ぎられたら卒業出来なくなるじゃない。冗談だからさ、怒らないでよ?…起きるから起こすの手伝ってくれる?」


キラがアスランの手をすでに握っている為逃げる事も出来ない。
世話がやけるとでも言いたげな表情でキラを見遣ってから、もう片方の手を掴むために身を乗り出し引っ張ろうとした。


…が



キラが思いっ切り腕を自分の元に引いた為にアスランはバランスを崩して前のめりになる。
そしてその隙にキラはもう片方の手をアスランの背中に回して自分の元へと引き寄せた。


「うわ、なっ」

「アスラン、お誕生日おめでとう」

「…それ、昨日も聞いた…」

「うん」


嬉しそうに微笑んで、指に藍髪を絡ませたキラは愛しい人に触れられる喜びをかみ締めるようにじっとアスランを見つめていた。



「なぁ、キラ…。そろそろ起きないと…」

「しっ…、もう黙って?」



掠れた声で囁きそっとアスランの言葉を奪いとる





揺れる瞳はやがて消え





熱い吐息と共に戻ってくるのだろうか









─それは秋色が漂う二人の恋の序幕の話─

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