NOVEL

□《闇のkyrie》〜旋律の奏での時〜
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「行く所がないなら、僕の所へ来る?」





その手を取った時は何も知らなかったんだ
キラの事も…。



そして…、
こんな残酷な運命が待ち受けている事も





《闇のkyrie》
 〜旋律の奏での時〜





キラと出会ったのは雪の降る寒い日だった
あの日俺はターゲットの暗殺に失敗し、彼の雇ったボディーガードに深手をおわされた。




なんとか逃げ延びることは出来たが、足をやられていて思うように動かすことが出来ず立ち往生。

そんな時だった―――














(くそっ…!)


忌々しげに電柱に拳を殴り付ける


「っ…!」




激痛が走り顔を歪ました。情けなさ過ぎて涙も出てこない。
俺は殺害に失敗したのだ、もう組織には戻れない。戻れば標的に顔を知られてしまった俺は確実に始末されるだろう


どのみちもう歩く事も出来ない、
行く宛てもない。
そんな俺に残された道は凍死だけだった









寒さゆえかだんだんと意識が朦朧としてくる















死にたくない、そんな下らない考えが頭をよぎり自嘲気味に笑う。
何を今更、死と隣り合わせに生きてきたんだ。死ぬ覚悟はとっくの昔に出来ていたはずだったのに…












死にたくない。
死んで、たまるかっ











俺にはまだやらなくてはならい事がある。
その為に闇の世界に手を染めたのだから




「シン…」




そっと脳裏に浮かんだ人物の名を呟くと白い息が空中で舞って夜空に溶け込んでいった



「ごめん…」





「誰か、居るの?」


不意にテノールに近い声が耳に届き、驚きに目を見張る


気がつかなかった。
人の気配に。
それほどまでに自分の能力が衰えていたと言うのか


「大変、血が出てるじゃない」


裏通りを少し入った所の薄暗い路地の電柱に背を預けていた俺を心配そうに駆け寄ってくる人影。


瞬時に銃を抜いて警戒する。
追っ手とも限らないのだ。ましてこのような時刻、丑三つ時に一体なんのようがあってこの道を歩いていたというのだろう


渾身の力をだして目尻に凄味をつけるとその人物は両手をあげ、俺の目の前で立ち尽くした。月明かりで青年の輪郭が浮かび上がる。
菫色の瞳にまだ僅かだが幼さを残すような顔だち、
恐らく俺と歳はそうかわらないだろう。
だが油断は禁物だ。


「…消えろ」


「やだ。だってキミ、怪我してるじゃないか」


「君が何者か分からない以上…クッ」




途端に眩暈に襲われ壁に手をついて身体を支える。
勿論銃口は彼に向けたままだったが、ぐらついたその一瞬の隙を狙ってか彼は両手を延ばして俺の身体に触れてきた。
否、倒れないようにと支えられたのだ




「触るなっ!」





拒絶反応。
大きく腕を不利払うと彼はバランスを崩して新雪に尻餅をついた。びっくりした、なんて軽口をたたきながらゆっくりと立ち上がると雪の付いたコートを丁寧に叩いていた




分かってはいたんだ。
追っ手ならその隙を狙って普通は銃を払い落とすだろう。
そうしなかったのは本当にただの民間人だからではないかと言うことが。
邪推がちな俺だがこの時ばかりは警戒心をとくと銃を下ろしその場に座りこんだ。
足はすでに棒のようで感覚は無く冷たさなんて感じることは出来なかった




「すまなかった…、だが君はもうここから立ち去った方が良い。色々と面倒な事に巻き込まれる前にな」


「君は…どうするの?」


「生きるよ、俺は。」


「どうやって?そんな状態で歩けるっていうの?」


だが脳裏とは裏腹に身体はすでに限界を告げていた。鋭い言葉を投げつけてくる彼に言葉が詰まる


「…死なせないよ。君だけは」


そう言って、右手を差し延べてくる




「行くところが無いなら、僕の所にくる?」



その慈悲深そうな菫色の瞳に魅入られ
俺は何故か信じてみても良いと思ったんだ…




生きなくては
生きなくちゃならないんだ、俺は













To be continued.
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