SHORT-LIVED DREAM
□Past Clap SS
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+黎明のレクイエム+
まだ薄暗い廊下を、足音を殺して歩いていく。
冬の教団は、一際冷たく感じる。
閉塞的な石壁が、温もりを掻き消すように。
それでも、あたしは毎朝の日課を怠ることはない。
気配を殺して、誰もいないであろう聖堂に忍び込む。
仰々しいほどに飾られた、神の使徒の証を仰いで、あたしはゆっくりと息を吸い込んだ。
あたしの唇が紡ぐのは、母国に伝わる鎮魂歌。
別に誰の魂を慰める為とかじゃなく、ただ、妙にこのレクイエムの旋律が好きだから。
一曲歌い終わって、ふと、よく知る気配を感じて振り返った。
「いつからそこにいたの?」
壁にもたれて俯くそのヒトに、そっと声を掛けた。
伏せられていた瞳は、ゆっくりとあたしを映す。
「……歩いてたらお前の声が聞こえたんだ」
いつも通りの少し低めな声が、静かに響く。
起きたばかりだったのか、サラシの上に団服を羽織っただけの格好で、いつもは高く結んでいるハズの艶やかな漆黒の髪は、重力に逆らうことなく、彼の背に流れていた。
「起こしたならごめん。いつもなら聞こえないはずなんだけどな」
そんなに感情を込めて歌っていただろうか。
「別にお前の歌声で目が醒めたワケじゃねェよ。廊下歩いてたら偶然聞こえたんだ。」
何処か決まりが悪そうに言う神田に、ほんの少し苦笑した。
それに気付いたのか、神田は小さく舌打ちをすると、壁に預けた背を離して、踵を返した。
「歌…」
扉に手を掛けて、背を向けたまま
「綺麗だったぜ。…また来る。」
少し乱暴に言うと、そのまま出ていった。
「綺麗、か…」
何故かあたしは嬉しくなって、誰もいない聖堂で、小さな笑みを零した。
七色のステンドグラスから朝焼けの光が淡く差し込む
ある朝、いつもと違う
小さな出来事
END
加筆修正しました。