Novel *7

□鳥のように飛べなくて(マヨナル)

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「鳥っていいなぁ、自由に飛べちゃうんだもん」

 いつもの静かな成歩堂弁護士事務所。

 本当は霊媒師としての修行を頑張んなきゃいけないんだけど、あたしはどうしてもここに遊びに来てしまう。

 だって、この事務所に来ちゃえば懐かしいお姉ちゃんの面影に会えるし、あれしろこれしろ作法はどうとかうるさいことを言われないですむし。

(――なにより、なるほどくんがいるから)

 なるほどくんは弁護士のクセに不思議な力があって、それはあたしたちが使うような霊媒の力なんかじゃないけど、それよりもっとすごい力で。

 たくさんの人を助けて救って集めてしまうおかしな力。依頼人は少ないくせにお邪魔する人は多いって変な現象が起きるくらい、とっても強い力。

 御剣検事や神乃木さん、お姉ちゃんにあたしにハミちゃんに、冥さんとかイトノコ刑事とか、それからもっともっとたくさんの人たち。

 なるほどくんの不思議な力にノックアウトされたヒトは数え切れないくらいで。

 なるほどくんの前に立つと、みんな心の鎧を脱いで裸になって。

 なるほどくんはどんな素顔でも笑って受け入れてくれるから、すごく居心地がよくて。

「鳥みたいに自由に飛びたいなぁ」

「自由に飛べても幸せとは限らないよ」

 空を見上げてつぶやいた言葉に、返事があった。

 慌てて振り返ると、入り口には事務所の鍵を開けっ放しにして外出していたなるほどくんがいて、あたしは驚いた顔をすぐさま膨らませて怒った。

「もーなるほどくん! 鍵が開いてたよ。無用心にもホドがあるね、これだから依頼人少ないのよ!」

 依頼人の数と無用心は関係ないだろ。鋭く返されたツッコミは右から左へと流して、あたしは開けていた窓をピシャリと閉じた。

「こんにちわ、真宵ちゃん。今日は春美ちゃんは?」

「あやめさんと『うるとらはいぱー超とれびあんコース』してるよ。あたしは昨日クリアしちゃったから、お休みの日なの」

「そうなんだ。あ、紅茶かコーヒー飲むかい? 御剣と神乃木さんが自分用のをちゃっかり置いていってるんだ。少しくらいもらっちゃってもバレないよ」

 そうそう、狩魔検事からケーキもらってたんだ、と、なるほどくんはいそいそと給湯室に姿を消した。

「……なるほどくん、相変わらずモテるね」

 小さく小さく、自分でも聞こえないくらいの声でぽつりとこぼす。

 大好きななるほどくんは、だけど、あたしだけのなるほどくんじゃなくって、みんなに愛されるみんなのなるほどくんで。

 それが嫌っていうわけじゃないけど、でも、なんだか寂しくて、あたしは足音を忍ばせて給湯室に入り込むと、青いスーツの背中めがけて突撃した。

「おわっ! な、何するんだい、真宵ちゃん」

 お湯を扱っていたなるほどくんは手に少しをかぶったみたいなのに、それでもあたしを怒らない。

 ただ笑った雰囲気のまま、お腹に回したあたしの手をぽんぽんと叩いた。

「何かあったのか聞かないけど、自由に飛ぶよりも大切なことがあるの、忘れないようにね」

 昨日の『うるとらはいぱー超とれびあんコース』、クリアできたのはあたしじゃなくて、ハミちゃんの方。

 あたしは最後の最後で失敗して、家元なのに年若な分家に負けるなんて、って陰口を叩かれて。

「……なるほどくん」

 ハミちゃんのこと、すごく大切ですごく大好きなのに。

 なのに、ほんのちょっぴり嫌な気持ちが生まれて。

「あのさ、真宵ちゃん。飛び続けるのって大変なんだよ、知ってた?」

 そんな自分がもっともっと嫌だったから。

「なにそれ」

 あたしを『家元』じゃなく『普通の女の子』として接してくれるなるほどくんに会いたくて。

「羽を休める場所が、一番大切なんだ。飛び続けるなんて不可能なんだから、少しくらい休んじゃってもいいんだよ」

 一番大好きな人の、一番大好きな笑顔に触れて。

 大丈夫だって、まだ頑張れるって、自分にエネルギーをあげたくて。

「……休んでも、いい、の?」

 自由にも飛べなくて。飛ぶことすらできなくて。

 なのに、なるほどくんは何でもないことのように、鮮やかに受け入れてくれる。

「もちろん。ここは真宵ちゃんの事務所でもあるんだから、遠慮はいらないよ」

 あのね、なるほどくん。

 あたし、本当に。

「いつでも――帰っておいで」

 なるほどくんが、大好きです。









マヨナルというよりは、マヨ→ナルの片思いテイスト。
個人的にBLCPがメインなので、女の子視点は全て片思いになります。
普段は明るくて強い子がふとした時に見せる弱さっていいですね〜v





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