Novel 37

□GoFight!

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「こんにちはーっ、王泥喜ですけど……って、あれ。何、見てるんですか?」

 資料で不明な部分が見つかったのでお邪魔すると、牙琉検事はソファにくつろいでなにやらテレビを見ている様子だった。

「おデコくんか。いやなに、昔の法廷記録の映像だよ」

 キザったらしい仕草で水の入ったグラスを掲げると、検事はリモコンに手を伸ばして映像をストップしようとした。

「ちょちょちょ、ちょっと待ったぁっ!!」

 突進する勢いで慌ててその手からリモコンを奪い、俺は食い入るように大きな液晶テレビを見つめる。
 そこには、今とは全く違う、憧れの『伝説の男』が映っていたからだ。

「な、成歩堂さんっ。うわ、若っ、かっこいいっ」

 映像はいつの、何年まえのものだろうか。
 無精ひげもニット帽もダルモードでもない姿は、全くの別人のようで目を疑う。

「いいだろ、これ。さっき新しく加わったばかりの僕のコレクションだよ。おデコくんにはバレてるから特別に一緒に見てもいいよ」

 その許可に、俺は「やった!」と喜びの声を上げてソファに座った。

 牙琉検事が『隠れ成歩堂ファン』と知ったのは偶然だった。先生の裁判が終わり全ての真実が明らかになったあと、今日みたいにたまたまお邪魔した検事室で『弁護士・成歩堂龍一』の新聞記事をスクラップしたファイルを眺めている検事にでくわして。

 慌てふためいた牙琉検事が言うには、実は七年前から、もっともっと前から、成歩堂龍一のファンだったらしい。

 地位と権力とを駆使して手に入れたコレクションはものすごい量で、あるものは例えば裁判で出てきた携帯番号入りの名刺なんかもあって、成歩堂さん本人に黙っている代わりにコレクションを見せてもらう約束をしていた。

「これって、何年前のやつなんですか?」

「ふふ、聞いて驚きなよ。『DL6号事件』にまで話が及んだ、伝説の事件だよ。刑事くんと物々交換して入手できたばかりの代物なんだ」

「そ、それってあの、御剣検事のヤツですねっ」

 興奮して大声で叫ぶと、牙琉検事はうるさそうに耳を塞ぎながら、それでも自慢げに笑った。

「そうそう。絶体絶命のあの状態からよくもまぁ無罪判決を勝ち取れたものだとかなり勉強になるらしいよ。おデコくんも一歩でも近づけるように頑張りなよ」

「いや、毎回ぎりぎりの状態ってのは弁護士としてイカガなものかと……」

 成歩堂さんを尊敬はしていても、さすがにその状態には賛成できずにつっこむ。
 牙琉検事はそうかい、と軽く笑ってテレビ画面に視線を戻した。

『異議あり! 今の《証言》は明らかに矛盾していますっ』

 スピーカーから漏れる声が凛と響いて、少しだけノイズの入った映像を見つめながら、鳥肌が立つ自分の腕を抱きしめる。

 崇拝に近い熱い想いで尊敬し、この人のように弱者を守りたいと目指した弁護士が、動いてしゃべって法廷を圧巻する。

 勢いとハッタリでなんとか乗り切った、なんて本人は言っていたけれど、それだけで無罪を勝ち取れるほど法廷は甘くはない。
 『成歩堂龍一』なりの冷静な現状分析能力と弁護の優れた力、ほんの少しの運とが絶妙なバランスで真実を導き出して、隠された真犯人をあぶりだしたのだ。

 過去の法廷を映像で体験しながら、けれど俺の眉間には段々と皺が寄ってきた。

 見ると牙琉検事も同じのようで、画面に、とある男が出るたびに示し合わせたように舌打ちした。

「なんだか……面白くないね、おデコくん」

「ええ……ものすごく、面白くないですね」

 成歩堂さんはいいのだ。ものすごく、カッコイイから。
 でも、合間合間に映像に映りこむ男が気に食わない。

 検事という職業で弁護士とは対照的なポジションにあるくせに、被告人をかばったり二人で一緒に裁判を誘導したりと、まるで検事らしくないことばかりをしているのだ。

「これが、御剣検事、ですよね」

「そうだよ、御剣検事、だね」

 二人が幼馴染で親しいことは知っているし、成歩堂さんの事務所でその仲のよさを見かけることも多いのだけれど。

「法廷で、何を見せつけてんだろ」

「仮にも法廷で、このラブラブっぷりはないよね」

 お互いにお互いの弁論と思考を理解し合い、だからこそ状況が変貌しても臨機応変に助け合う。
 一方的にどちらかに依存するのではなく緊迫した空気の中真相を模索する姿は、信頼し合うものだけに通じる独特の輝きに満ちていて。

「……夫婦漫才に見えるんだけど、俺。目の錯覚ですかね」

「偶然だね、おデコくん。不本意ながら僕もそうだよ」

 二人の間に見えない絆が見え隠れして、かなり面白くない。
 すねたように唇を尖らせつつ、それでもストップボタンを押さないのは、映像の中の成歩堂さんがあまりにもカッコよすぎるせいだ。

 御剣検事は見たくない、でも成歩堂さんは見たい、なんていうジレンマに内心もだえながらも、俺たちは画面から視線をそらさずに伝説の舞台をたっぷりと、いやいやながら、じっくりと堪能した。

「おデコくん、共同戦線を張ろうか」

「ええ、もちろんです。敵の敵は味方っていいますからね!」

 映像を見終わったあと、俺たちが打倒・鬼検事を合言葉にダックを組んだのは言うまでもない。









むかぁし、日記にて「何か読みたいお話ありますかー」と尋ねて。
その時に、オドロキくんや響也くんのリクエストを受けて書いていたお話になります。
今の今までUPしなかったのは、ミツもなるほどくんも出てこないし意味不明だしで(その前にこれミツナル?)。
でもいいの。楽しかったから。うん、楽しかった。
タイトルは、私の心の(笑)スーパーヒーローの主題歌より(おいこら。
今アニマックスで再放送してて、毎日楽しいです。


(08/08/11)





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