Novel 57
□BodyAndSoul
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アンタが好きだ、と告げてきたゴドーさんに、僕は笑って、いいですよ、と返した。
そしてその場で足を開いて受け入れたのだけれども、決してゴドーさんが好きだったからじゃない。
(むしろ、あの頃は嫌ってた……かな?)
葉桜院での事件であれほど僕への憎悪をあらわにしていたのに、千尋さんの面影が重なったというだけでいともたやすく気持ちを切り替えたこの人を正直言って軽蔑すらしていた。
それでも求めてくる手を拒絶しなかったのは、そんなことをすればこの人は死んじゃうんじゃないかと思ったからだ。
千尋さんを失ったゴドーさんが、絶望にまみれながらも生を選んだのは僕への復讐のため。
それじゃあ、もし今度僕を――愛する人間を失ったとしたら、彼に生きる理由は残るのかと疑問が生まれた。
(多分きっと、駄目だろうな)
僕ならもう二度と、人を愛せなくなる。大切な人をこの手に抱けないのなら、氷の感情でやわな心をガードして。
そうして一生、疑心暗鬼の中で生きるだろう。誰も愛さず、誰も信じず、テリトリーに指一本入れさせないで。
(僕の場合それだけで済んでも、ゴドーさんの性格なら死を選ぶかもしれなくて)
ゴドーさんには恩も義理もある。千尋さんの師匠だったわけだし、僕を裁判中に導いてくれたりもした。
真宵ちゃんの命の恩人で、それから、弁護士としてかなり優秀で。――正直なところ、失うのはかなりもったいない。
僕はといえば、好きな人も付き合っている人もいないし、セックスに人生の重きを置いているわけじゃないから。
気持ちのいいことは嫌いじゃないし、ゴドーさんテクニックありそうだし、と、そんなテキトーな理由で受け入れることを決めて。
そうして、気づいたことがいくつか。
ゴドーさんは見かけによらず子供で、スネたりイジケたりフザケたりと、忙しいくらい落ち着かない人だとか。
予想通りセックスは上手いけど前戯と後戯がしつこいくらいだとか。
そして――僕自身の、思いがけない気持ちの変化とか。
「なぁ、まるほどう」
僕は基本的に、博愛主義ではなく執着心とかあまり持たない。というか、一点集中主義で、すっごく好きな人にだけ想いが集まって、その人とそれ以外という風に世界が別れてしまうのだ。
だから、ぶっちゃけたところ、ゴドーさんとの関係は、ゴドーさんが飽きればそれで終わりだと思っていた。好きだとか愛してるとか、僕の方には何も執着がないんだから。
「まるほどう?」
ところが、蓋を開けてみるとまるで逆だった。
まずはこの人のセックスに執着を覚え、この人自身に執着を覚え。
挙句の果てにはゴドーさんの過去も未来も含めた全てに執着を覚えてしまったのだ、この僕が。
「うんうんうなっちゃって、初産にはまだ早いだろう、コネコちゃん」
数少ない歴代の恋人――僕に愛された、ある意味不幸な人たち――の顔を一人ひとり思い起こして考えてみても、その誰にも抱いたことのない深く激しい気持ちがゴドーさんに向いていて、僕は表には出さなかったけれどもかなり愕然としていた。
カラダから堕ちて、ココロまで堕ちてしまうなんて、流され安いにもほどがある。
憎悪から愛情へ気持ちを転化したゴドーさんを軽蔑できないくらい、転化しちゃったたくさんの事柄に呆れ果てるしかなくて。
「俺の子供なら産んじゃってもかまわねぇぜ。自分の子種には責任を持つ、それが俺のルールだ」
「うるさいですよ、僕は考え事をしてるんですから、邪魔しないで下さい!」
わざと背を向けて寝転がっているというのに、後ろから腹に回ってくるゴドーさんの手が邪魔で。
パシンと音を立ててはたき落とし、僕は強い口調で怒鳴った。
手がぴたりと止まり、背後のゴドーさんも口をつぐむ。
いつもしつこいくらい絡んでくるこの人にしては、いやに大人しく引き下がったな、と思ったら。
「つれないコネコちゃん、嫌いじゃないぜ?」
ぐっと身体を近づけたかと思うと、耳の中にフーッと息を吹き込まれた。
つい数分前にセックスを終えたばかりで、超絶技巧のこの人に仕込まれたカラダに対して、その不意打ちはない。
「んぅ……っ」
自分でも「何だよこれ!」と言いたくなるような甘ったるい息がもれ、腰に当たるゴドーさんの熱がぐんと力を取り戻すのが分かった。
「まるほどう……」
ゴドーさんの低い声に、痺れるような艶がこもる。
男の色気を漂わせはじめた背後に、僕は慌てて体勢を変えて向き直った。
「だ、だめですよ、もう。さっきしたばかりですし、僕は今考え事をしている真っ最中だし」
「異議あり! さっきはさっき、今は今、だろう。それに、考え事なんて吹き飛ぶくらい愛しちゃうぜ!」
真正面から向かい合う体勢のせいで、迫り来るおおぶりの唇から逃げられない。
「んっ、ふ、ぅ……っ」
後頭部に回された手で強く頭をおさえられて、ゴドーさんの勝手気ままに口の中を蹂躙される。
口腔に溢れるどちらのものともしれない唾液が、ひどく淫靡で生々しかった。
「も、ゴドーさん、てば! や、やめ……」
替えたばかりのシーツに皺を刻みながら、ゴドーさんは本格的に僕の上にのしかかって、タオルでぬぐっただけの肌に吸いついてくる。
時折、歯を当てられてガリと皮膚の上で音がするも、痛みの中に鋭い快感があって芯に熱が集まってきた。
「カラダはこんなにも素直だぜ、まるほどう」
肌を味わう唇はそのままに、ゴドーさんの手がバラバラに動き出す。右手は僕の中心へ、左手はその後ろの奥へ。
器用な男はどこまでも器用な動きで僕を翻弄し、開始数分足らずで簡単に忘我の果てへ連れていく。
「あっ、やめ、ゴドォ、さ……っ」
唇の肉で胸元の尖った乳首を噛まれる。
男女のセックスでは不要なそこは、ゴドーさんと肌を重ねるうちに性感帯の一つとなった場所だ。
たまに、乳首から射精しそうなくらいの快感まで得るようにもなって。
僕の全てはこの人の太い腕によってもたらされる抱擁でなければ満足できないように改造されてしまった。
「さっき出したばかりだからか、グチョグチョに濡れてるぜ。欲しいんだろう、まるほどう」
自分だって余裕なんかないくせに。僕のふとももに当たるゴドーさん自身ははち切れそうなくらい血管が浮かんでいるのに。
「ふ、ぅ……っ、あっ」
なのにゴドーさんは毎回、僕の口から「欲しい」と言わせる。
僕の偽りの気持ちから始まったこの関係を自覚しているかのように、欲しがる言葉を求めるのだ。
「ほ、しいっ、ゴドーさん、欲し……っ」
「コネコちゃん、何が欲しいか、きっちり言いな。中で楽しむだけなら、この指でも十分だろう?」
言葉遊びが好きなのは彼の性格だと分かっていても、カッと脳の神経が沸騰する。
「いや……っ、早くっ」
こんなに欲しいのに、こんなに求めているのに、どうして与えてくれないんだろう。
疼く身体の中へ彼を取り込んで、つながった一つの肉体になって、溢れる体液を飲み干したい。
「指、なんかじゃ、いや、ですっ。ゴドーさんが欲しい。ゴドーさんが、好き、だからっ」
指の動きに合わせて腰が揺れる。どろどろにとろけそうな熱が理性の制御を壊す。
荒い息の下、絶え絶えになって叫んだというのに、ピタリとゴドーさんの動きが止まった。
「な、る……ほどう……」
潤んだ視界のせいでハッキリ見えなかったけれど、のしかかっていたゴドーさんが、きょとんと子供みたいな表情で僕を見下ろしていた。
「ゴドー、さん?」
中に入れっぱなしの太い指をぎゅっと締めつけて、僕はどうしようもないもどかしさに腰を揺らした。
受け入れるための器官と化したそこに、熱い塊が欲しくてたまらなくて気が狂いそうになる。
(セックスで身を滅ぼす人の気持ち、分かるかも)
なんてバカげた感想を抱きながら必死に両手を伸ばすと、押しつぶす勢いでゴドーさんが身体を倒してきた。
M字というよりはVの字に僕の両足を広げると、その中に無理やり腰を入れて強引な挿入を試みる。幸い、ほぐれきったそこは柔軟にゴドーさんを受け入れて、すぐに淫らな収縮を開始した。
「ん、あ、好き、ゴドーさん、そこ、うぅ……っ」
らしくない、技巧もクソもない乱暴な動きで中を出入りする灼熱。
指なんかよりもっと硬くて長いもので刺激されて、汗ですべる指をゴドーさんの背中に伸ばした。
「成歩堂……愛している」
凶暴すぎるケダモノにいいように食べられ、僕は意識が遠のいていくのを感じていた。
種の保存になんら関係のないただれた時間を過ごしたあと、あまりにひどい痛みに麻痺した下半身をもてあました僕は。
初めてコネコちゃんが愛を告げた記念日だと、再三挑んできたゴドーさんをカウンターパンチでつぶしてやった。
うらみつらみと、ほんのちょっぴりの愛を込めて。
『10000hit記念』フリーゴドナル(感謝配布〜8月15日配布期間終了)です。
ゴドナルでエロ、のお達しだったのですが。
微妙にぬるくて申し訳ありません。ニセモノモードはいつものことなので、どうぞスルーお願いいたします。
たまに腹黒なるほどくんブームがワタクシめの脳内を制覇する時がございまして、そういった時はこちらのような強気ナルが君臨いたします。
ゴドーさんの扱いがちょっとひどいですが、それなりにラブはございますので、どうぞお許し下さいませ。
好き放題に書いたお話ではありますが、皆様に気に入っていただけましたら嬉しいです。
次に参ります2万ヒットでも何かできたらと思っております。頑張ります、ハイ。
(08/08/02)