クリスマスイブの夜――


町中がウザイくらいキラキラしてて、行き交う人々の笑顔とクリスマスソングが溢れる中…

俺はサンタの格好をして、目の前に置かれた大量のケーキの箱を眺め、ため息をついていた……





【snow white】






事の発端は一週間前。厄介なヤツに捕まったのが原因だった――


「あっ!阿部ぇ〜!!久しぶりぃ〜!!」


大学の学食で一人昼飯を食っていた俺に、声をかけてきたソイツ……水谷は、ヘラヘラ笑いながら空いていた俺の向かいの席に断りも無く座ってきた。


「3、4ヶ月会って無かったよねぇ。せっかく同じ大学に入ったのに。やっぱ、学部が違うと会わないもんだねぇ…。元気してた?あっ!この前の阿部の誕生日に俺が送ったおめでとうメール見てくれた?返信無いからフミキ寂しかったよぅ!」


水谷は相変わらずの態度で、俺の眉間のシワにも一切気付かず、俺に向かって一方的に話しかけてきた。


「そうそう、阿部。いきなりで悪いんだけどさ、今月の24日…クリスマスイブなんだけど、空いてる?」

「ウルセェな…。さっきから何だよ……」

「一日だけバイトする気ない?その日、俺と同じ学部の奴らがバイト入れてたんだけど、ここにきて彼女が出来たらしくって、バイト代わってくれる奴探してるんだよね。」

「そんなの知るかよ。何で俺な訳?」

「だってさぁ〜クリスマスイブだよ。彼女持ちはまずNGだし、独り身の奴は他のバイトがあるって断られるし…。阿部って彼女いないでしょ、確か。大学入っても野球続けてるから、長期のバイトもしてないし。空いてるなら、ちょうど良いじゃん。一日だけだけど日給すげぇ良いよ、このバイト。」


確かに水谷の言った事は当たってる。実際、この時期になって、何か短期のバイトでもやろうかと思っていた。

変に時間が空いてしまうと、どうしても思い出してしまうから……

それなら、例え一日だけでも金にはなるし、誘いに乗った方が良いのかもしれない。それがコイツからの話というのは微妙だが……


「別に良いけど……。予定ないし。何のバイト?」

「簡単な販売の手伝い。一日拘束されるけど、早く終われば、そのまま給料貰って帰れるからお得だよ。詳しい事はまたメールするから。アドレス変わって無いでしょ。」

「あぁ…」


水谷はそこまで言うと、「代わりが見つかったって連絡するから!」と言ってメールを打ち始めた。

これで静かに食える…とそう思ったら、水谷は器用な事にメールを打ちながら俺に話しかけてきた。

「そういや…阿部って何で彼女作らないの?結構モテるのに。違う学部の子からも告白されてるって聞いたよ。」

「……誰にだよ。」

「同じ学部の女の子から。でも他に好きな奴がいるって断り続けてるんでしょ。それって本当かって、この前聞かれてさ…。阿部ってそんな気配無いらしいじゃん。いつも一人でいて、休み時間とかも携帯で誰かと連絡する訳でもないって。人に興味ない感じだから、あれは振る為の嘘なんでしょ…って。」

「テメェはストーカーか?」

「ヒドイッ!俺じゃないよ!!聞いた話だってば!!阿部は自分で思っているより有名人なの!俺が高校一緒で同じ野球部だったって言ったら、いろいろ聞かれたの!あっ、でも安心して。ヒドイ奴だって事しか話してないから。本当、なんでこんなのがモテるのぉ?」

「知るか。迷惑なだけだ。テメェも余計な事言うなよ。」

「だから言って無いってば!!」

「騒ぐな。うるせぇ。」

「阿部ってば、相変わらずだよねぇ。よし、送信っと。…阿部もキャンパスライフをもっとエンジョイした方が良いよ。何時も一人でいて誰も寄せ付けないなんて、寂しいしさ。仲間としては、阿部には幸せになって欲しい訳よ。年末に西浦の皆でまた集まるから、今度は来てよね。皆も…三橋も会いたいって言ってたからさ…。卒業してから俺以外とは会って無いでしょ。」

「………」


何も言わない俺に、水谷は「じゃあ、そろそろ行くね。ゴメンよ、邪魔して。」と言ってヘラリと人の良い笑顔を見せると、席を立って手を振りながら一言最後に言った。


「あっ、そうそう、バイト俺も一緒にやるから。頑張ろうねぇ!!」

「…はぁ!?」


驚いた俺を気にも止めず、水谷は笑顔で食堂から出て行った。







snow white →2
 

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