〈M Side〉
あと二週間で12月11日。俺にとって大切な日が近づいて来ている。
その日は俺達が付き合って初めて迎える”恋人”の誕生日。
俺はどうしても皆とは別にプレゼントを渡したくて、ずっと悩んでいた。
俺達は付き合ってまだ1ヶ月程度だから、野球が好きな事以外では知らない事が多くって……
だからどんな物をあげたら阿部君が喜んでくれるのか解らなくて、俺は仕方なく本人に聞く事にした。
「阿部君。あのね……欲しいもの、ある?」
「欲しいもの? …あぁ。そんなの気ぃ使わなくても、別にいいよ。」
「えっ!?」
「俺の誕生日だろ?それなら特別欲しい物なんて無いし。それにその日はテスト最終日だし。」
「あっ…でも」
まさかそんな答えが帰って来るなんて思ってなくて、俺は更に困ってしまった。
「なんでも、いい、から…ないですか?」
諦め切れずにもう一度俺が聞くと、「うーん…」と考える仕種をした後、阿部君はニッと笑って言った。
「じゃあ、三橋の気持ちをくれよ。それで充分だから。」
「俺の……キモチ?」
「そう。それを頂戴。楽しみにしてるから。」
そう言うと俺の体をギュッと抱きしめて「昼休み終わるから、もう戻るか。」と耳元で言った。
俺はそれだけで真っ赤になってしまい何も言えずに頷くしかなかった。
教室に戻った後、俺は田島君と泉君に相談してみた。二人は俺が片思いしてた時から俺の話を聞いてくれて、何時も助けてくれたから……
「何それ〜?お前達もう両思いだろ。体なら解るけどさぁ〜。」
「田島!声でけぇよ!」
「か、からだ?」
「三橋。気にすんな。」
泉君は田島君の口を塞ぎながらそう言ったけど、正直よく解らなくて俺は首を傾げた。
「きっと、あれだよ。テスト最終日だし、期末で赤点取らない様に頑張ってくれたら良いって事だろ。変に気を使わせてテストが散々だったら阿部だって困るだろうし…それなら祝ってくれる気持ちだけでって事!」
「そ、そうか…」
「え〜っ!! そんなのプレゼントじゃねぇよ!阿部が欲しい気持ちって、三橋が阿部を好きだって気持ちだろ!!」
「大声出すな!バカ!!」
「だってよ〜。 …そうだ!!いっそ三橋からキスでもしてやれよ!」
「へっ!キ、キス!?」
「お前は黙ってろ!今はテストに専念しねぇと、お前ら二人とも危ねぇんだろ、今回も。」
「おう!ゲンミツにヤベェよ!!マジで!!ノートなんかヨダレの跡しかねぇもん!!」
「そこは威張る所じゃねぇだろ……田島の言った事は全部忘れて、三橋はテストに専念すりゃ良いよ、なっ!」
「う…ん……」
テストを頑張る事。確かに阿部君ならそっちの方が大切だって言うだろう……
でも……
”阿部が欲しい気持ちって、三橋が阿部を好きだって気持ちだろ…”
ふと田島君の言葉を思い出した。
俺が阿部君を好きだって気持ちを…阿部君にあげる……
でも、どうしたら……
”いっそ三橋からキスでもしてやれよ…”
泉君は気にせずに忘れろと言ったけど……
その方法なら”気持ち”をあげれるかもしれない。
でも……俺からなんて……
だって俺達は、まだキスした事……ない。
顔が一気に熱くなる。
そんな事、考えただけでドキドキと鼓動が速くなる。
どうしよう……阿部君………
俺はどうしたら、良い?
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