〈A Side〉



三橋の様子がおかしい……

このテスト週間中、俺と顔を合わせるだけで真っ赤になるし、俺が声をかけるとキョドるし、テスト勉強中もどこか上の空で、全く頭に入ってないみたいだし……

結局、そんな三橋を何とかする為に、俺は三橋と距離を取らなければいけなくなった。

一週間恋人と会えないのはいくらテスト期間中でもキツイ。

更に三橋の様子が変なんだから心配になって、俺まで勉強が手に付かなくなる。

泉や田島が三橋の情報を伝えてくれるけど、俺は正直本人から聞きたいのに……

せめてもの救いは、三橋がそんな状態でも何とかテストを乗りきってくれている事ぐらいだ。

俺、何か三橋にしたか?

いくら考えても心当たりが無いから、俺にはどうする事も出来ねぇ。


今日はテスト最終日。

ようやく三橋に会って変だった理由が聞ける。






「おーい、阿部ぇ〜!!」

最後のテストも終わり、開放感に沸き立つ教室の中、俺は教科書を鞄に入れながら、今から三橋を呼び出そうと考えていた。すると田島が教室に飛び込んで来るなり俺を呼んだ。


「三橋が部室で待ってるって!!早く行ってやれよ。」


それだけ言うと今度は花井の元に駆けて行き、テストの報告をし始めた。


三橋が…?まぁ…呼び出す手間は省けたけど……


そう思いながら鞄を提げて言われた通り部室に向かおうとすると、後ろから田島の大声が響いた。


「あっ!阿部〜!!誕生日おめでとう!!」


その台詞に俺は驚いた。

三橋とテストの事で頭が一杯で自分の誕生日を忘れてた。


そうか…今日だったな……


そう思って「サンキュー」と一言だけ伝えると、俺はそのまま部室に急いだ。


せっかくの誕生日だ。

せめて今まで会えなかっぶん埋め合わせをして貰おう。

そう心に決めて部室のドアを開けた。






「あっ!…阿部君…」


そこには何時もよりも真っ赤な顔をした三橋が立っていた。


「おまっ!!どうしたんだよ。真っ赤だぞ、顔。熱でもあるのか?」


そう言って三橋に近づき肌に触れようとした瞬間、三橋はびっくりした様に後ずさった。

あれっ?と思い、また近づこうとすると三橋は再び後ずさる。

結局、ガシャンと三橋の背中がロッカーに当たるまでその行動を繰り返した俺達は、お互いにそのまま固まってしまった。


おい…少なくとも恋人に対してその態度はねぇだろ……


正直ショックを受けた俺は、何も言えずに三橋の正面から横に移動し、同じ様にロッカーに背中を預けた。

何だか怒りを感じるよりも虚しい気持ちになり、意図せずため息が漏れる。

それに三橋がビクッとしたのを感じ、俺は口を開いた。


「なぁ…どうしたんだよ。本当に。最近お前変だぞ。俺、何かお前の嫌がる様な事…したか?それなら言ってくれねぇと解んねぇよ。頼むから原因を教えてくれよ…。俺が悪いなら謝るからさ……」


力無く言った言葉に三橋がようやく顔を上げたと思ったら、今度は勢いよく俺の正面に立って、ポケットから何かを取り出し「これ、あげる!」と胸元に突き出してきた。

びっくりした俺が思わずそれを受け取った瞬間、三橋の手がそのまま俺の頭を掴んだ。


「えっ!?なに…!!」


その後の事は本当に不意打ちだった。

それは余りに一瞬の出来事で、俺の頭は全くついて行かなかったのだから……


固まった俺の目の前には真っ赤な顔の三橋が立っていて……

俺に向かって一言「誕生日おめでとう!!」と叫んだと思ったら、そのまま踵を返して三橋は一目散に部室を出て行ってしまった。



「な、なん…だぁ?」


一人残された俺は、先程の出来事を必死に思い返していた。


頭を掴まれたと思った瞬間、唇に触れた柔らかいモノ……

異常に近かった三橋の顔……


俺はさっき、三橋にキスをされた……


そこまで思考が巡った段階で、俺はロッカーを背にしたままズルズルとしゃがみ込んだ。


顔が熱くなってくる。
ふと三橋に渡されたモノ…白い封筒に気付き、俺は封を開けてみた。

そこには手紙があり、三橋の小さい字で3行の文章が書かれていた。



”お誕生日おめでとう”

”プレゼントは気持ちを込めて”

”俺のファーストキスをあげます”



読んだ後、更に赤くなった顔を隠す様に口元を右手で覆って、俺は誰に言う訳でもなく呟いた。


「バカ野郎。俺だってファーストキスだったんだぞ……。ったく、覚えてろよ…三橋。」




誕生日のその日、俺は一生忘れられないプレゼントを恋人から貰ったのだった。










End
 

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