焦がれるだけの強さより
□アイドル・ウォーズ
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「最後に二人は、お互いのぬくもりを身体に刻み付けるかのようにきつく抱き合うのよっ!」
死武専、上弦月組。
青のワンピースに白い麦藁帽子の女子生徒が、一人友人に向かって熱弁していた。
「いいよねぇ〜、マルス君」
ティアはうっとりしているのかおっとりしているのか解らないいつもの表情で言った。
「あたしは『幽霊学園探偵ソル』が好きなのぉ」
「へぇ〜、あの主人公の役、マルスっていうんだ」
エンディが、話に首を突っ込んだ。
と、ふいにまたあの麦藁帽子が話し出した。
「そう、期待の若手俳優マルス=ロアは、三年前に世界的デビューを果たし……」
「演説の途中で悪いんだけど、ヴィーナス」
ロングの声にはどことなく棘があった。
「……机の上に立つの、ほんっとにやめてくれない?君は僕の前の席なんだから、立たれるとむっちゃくちゃ迷惑なんだ」
「あら、」麦藁帽子の――上限月組職人、ヴィーナス=アプロディテは、ロングを振り向いた。その足は、机の上。
「わたくしが話している途中で、中断する権利が貴方にあるというのかしら?」
「あ、る」
ロングははっきり発音した。ヴィーナスは滑舌が悪い。
「ロング、ちょっといい?」
エンディの声に、ロングはえ?と聞き返す。
「……黙ってろ」
エンディのどすの利いた声に、ロングは一瞬で石造並みに沈黙した。