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□【 Agapanthus 】『ブローノ』
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- side R -『ブローノ』


「そんなにこの髪が気になる?」

少女の言葉で、黒髪を弄ぶリゾットの指の動きが止まった。
繁華街で客引きをしていた少女に誘われるままに入った娼館に、リゾットは居た。傍らには、先程リゾットを店に引き入れた少女が、一糸纏わぬ姿で横たわる。

「この黒髪は…南部のもの、か」
「そう。気に入った?」
少女はくすくすと笑いながら、リゾットの胸に頬を寄せた。
「知り合いに、似ている」
「へえ、そんなに?」
「いや…髪だけ、だが」
艶やかな黒髪。今日、二度出会った少年を思う。彼は今頃、ホテル『ロッソ・フィアンマンテ』でセモラートとこうしている筈だ。

「お兄さん、いい体してるわね」
指でリゾットの胸に付いた筋肉をなぞりながら少女が言った。
「スーツを着てた時は気付かなかったけど…お兄さん、警察の人? ん、違うな、そんな雰囲気じゃあない…」
今度は腹筋を触りながらあれこれ考えているようだ。
「…殺し屋、だったりして」
冗談めかして少女が言った。まさか本当の事だとも言えず、ふっとリゾットの口から笑いが洩れる。
「だったら、どうする?」
リゾットの問いに、少女はそうね、と少々考えた後、笑って答える。
「もしそうなら、ただで気が済むまで抱いてもらって、命だけは助けて下さい、と言うかしらね」
言いながら少女は腹筋を撫でていた指をリゾットの下腹部に伸ばした。
「ねえ、もう一度」

「いや」
リゾットは少女の手を制してベッドから起き上がった。脱ぎ捨てた衣服を、再び身に着ける。
「もう時間だ」
「あっ、延長料金は気にしないで…」
「片付けなければならない仕事がある」
言いながらリゾットは財布から紙幣を抜いた。
「…細かい金がない。釣りは要らない」
「あら…ありがと」
リゾットが部屋を出る直前、少女は意味ありげに笑って言った。
「黒髪の美人さんによろしくね、殺し屋さん」

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