□揺れる塔
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何の前触れもなかった。

いつもと同じはずだった。
しかし、今日は違う。



大きな爆発音と共に、本部全体が地震のように揺れる。


その弾みで、リノアスはバランスを崩し、倒れそうになる…が、空かさずフィリアが駆け寄り、彼を支える。




「大丈夫ですか?
リノアス。」

「大丈夫だ…。
でも、この揺れは…。」




次の瞬間、部屋に唯一ある扉が、物凄い音を立て開かれる。


いや…扉ではなかった。
扉の横の壁が、開いたようだ…。
壁に穴が開いたと同時ぐらいに揺れが治まる。




「れ…麗。」




厭きれたように口を開いたのは、リノアス。
壁に穴を開けた張本人の名を呼ぶ。




「大総統!!!
大変です!!!」

「うん…色々、大変だね。
相変わらずの激しい登場だね。
麗ちゃん…。」




どこから壁に大きな穴を開ける力があるのか…。

彼女は大総統-リノアス-の秘書を勤める-麗-さん。

黒い髪と瞳が素敵な人で、秘書兼、僕の世話係みたいなことをしている女性だ。
幼い頃から側にいてくれたためか…麗さんは、リノアスの次に大切な人なんだと思う。

今日の彼女は、長い髪を一つに纏(まと)めて、頭の上ら辺で団子のように結っていた。

彼女は、照れくさそうに笑いながら、壁に穴を開けた言い訳を言う。




「あ、すみません〜。
慌てていたもので。


あらぁ?
フィリア様、戻られてたんですか〜?
私にも一言掛けてくれれば良いのに。
大総統の意地悪〜。」




リノアスに、これだけ馴々しく話せるのは、麗ぐらいしかいないだろう…。




「こほん。」




リノアスは、用件を催促するように、態(わざ)とらしい咳をする。
それに気付いた彼女は、は、とした表情を浮かべると、真剣な表情に一変する。
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