short story

□冬は、もう近い。
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夏大会の初戦、俺達は負けた。
敗因は油断と気負い。
なんて幾らでも後付けできるけど、唯一言い切れることは桐青が負けたと云う事実だけ。

そして、そのまま引退した三年にはそのまま受験生というレッテルが貼られた。

毎日毎日、それはそれは気が狂うほどの勉強地獄。

(だって野球で推薦狙えるのは和己だけでしょ)

(だって俺ら所詮一回戦負けだもん!)

無味乾燥な日常。
色あせてゆく毎日。

三次関数?
日常生活の何で必要になる?
買い物するときに使う?
なんて、もう考えなくもなっていた。


でも何か足りなくて、でもそれが何かも解ろうともせずに(というか解りたくなかった、だってそんなの格好悪いじゃないか)ただただ退屈だった。


「もとやーん、飽ーきーたぁ」

3年4組の教室。
夕日が白いカーテンを透かして、眩しい。

そしてそのカーテンの隙間からは野球部であろう(少し前までは同じユニホームを着ていた)少年達が白球を追う掛け声が聞こえてきた。

俺はその声を掻き消すようにノートを閉じ、シャーペンを投げ出す。


「もう、山ちゃんったら。まだ始めたばっかじゃん」

目線を上げるといつ掛けるようになったか解らない眼鏡を彼は人差し指で上げ、目を伏せて笑った。


「あのさぁ、もとやんって眼鏡似合わないよねー」

「へっ?…… んで結局何言いたいの?」

長くつきあってんけど、山ちゃんの頭ん中全然解んねー、と彼はシャーペンを規則正しく動かして続けた。



「じゃんけん、じゃんけんしよ? …これなら解るっしょ?」

日差しが眩しい。外から聞こえる喧騒。うるさい、

「山ちゃん、」

わかったからと諦めたように彼は頷いて手を出す。

お互いが手を差し出す。これが俺らの無言の合図。

じゃんけんで、セックスの役を決める。勝ったら挿れる、負けたら犯される。

それだけ。
まだ子供の俺たちにはこうするしか無かったのだ。欲望の捌け口が。絶望の忘れ方が。


準備が出来た。1、2、3。

(さいしょは、ぐー)

(じゃんけん、ぽん)

でもこんなの只の茶番でしかないのだ。
目を瞑ったって結果は解っている。どーせもとやんはパー出してるんでしょ?

そんで俺ももちろん……。


「俺の勝ちね。」

もとやんはそう低く呟き、椅子から立ち上がる。


ガタンと椅子が音を立てて倒れ、それと同時に床に縛り付けられた。
強く打った背中が鈍く痛む。
顔面には怖いくらい真剣な彼の顔。

「痛っ!何いきなりやる気だしっ……」

「何って山ちゃんが誘ったんだろ?そんで今更何?」

「……もう気ぃ変わったのっ」
「嘘つき」

嘘つき。しょうがないじゃないか。だって、だって

訴えるように彼をねめつける。しかし、彼はそれを気にもとめず首筋に顔をうずめる。
ざらついた舌で首筋をなぞられ、ひっと情けない声が漏れた。

「ねぇ山ちゃん。今日は上に乗ってよ」

彼が誘うような目線で意地悪く笑う。卑怯だ。俺は逆らえないし逆らおうとも出来ない。

馴れた手つきでワイシャツのボタンを外され、ベルトを放されてしまう。
俺だけがみっともない格好だ。狡い。
彼をねめつけようとしても、またみっともなく涙を浮かべてしまう。
はぁ、みっともないな。俺。


「ん…だめぇ、……ふぁ…」

「慣らさないとキツいの山ちゃんだよ……?」

そう言って彼は長く骨ばった指で後孔を撫でる。
むず痒くて、いっそ貫かれてしまったら楽なのに。
俺はかぶりを振って訴える。我慢しなきゃ、目頭が熱い。

「もう……入れ…」

意図せず泣きそうな声が出た。情けない。


「じゃあ山ちゃん。乗って」

掃除の行き届かない埃まみれの床に彼が仰向きになる。
その中心はこれ以上ないように膨れ上がり、時々ビクンと震えた。

俺はこれから襲われるであろう快楽に唾を飲み込んだ。

彼に跨って、膝立ちになる。腕を彼の胸に添えて、ゆっくりと中心に腰を埋めてゆく。

「……ん。はぁ、ぁぁぁ」

入ってくる。
もとやんが、俺の中に。

カリの太い部分がやっと体内に収まったら後は楽だ。
体重を掛けるとぐぐと排出器官を下降してくる。

「ぁ、ぁ、もとやん……入った……ぁ」

「うん。じゃあ、動いて……」
「……まだ…無理……ひゃぁっ」

言い終わらない内にもとやんが腰を揺する。
いきなりの刺激に思わず声が漏れる。

「ね、早く。俺、もう」

我慢できねーと彼は呟き、腰を揺すり続ける。

その動きに合わせて自分も動き始める。何時の間にか拾い始めた快楽に酔う。
俺はこれ以上になく勃起した欲望の化身を腹に打ち付けながら喘いだ。

「ぁ、ぁ、ぁっ、んふぁ、」

(もとやん、もとやんもとやんもとやんもとやん)

頭の中で彼の名前を反芻する。

「もっと……もっとっ!」


激しくして。おれをこわして。
彼の引退してから痩せてしまった胸に顔を埋めて、少し泣く。


生理的に流れて沈む涙なんかに意味はないんだ。

悔しいだなんて、苦しいだなんて、辛いだなんて、負けたのはきっとオレのせいだなんて

もっと、ずっとずっとあの仲間と野球をしていたかった、なんて。


…………思ってるに決まってるじゃないか。


冬はもう、近い。

木枯らしが身に凍みる

そんな、高三の冬。



END


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