short story

□溶けていかないで、純情
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天気予報が嘘をついた。
どしゃ降りの雨が降る。

なんて運が悪いんだろう。

今日に限って傘もないし、折り畳み傘なんていう準備のいいもんもない。

俺は溜め息を吐いた。

コンビニでビニール傘でも買おうかなぁ。
でもそこまでは結局濡れるんだよなぁ……


はぁ、最悪。


「あ、栄口〜。今帰るとこ?」

振り返るとそこにはふわわと微笑む水谷。

ぱぁっと視界が明るくなる。

「うん、そうたんだけどさぁ傘忘れちゃって」

水谷は?と尋ねてみたけど本当は答えなんか解ってた。

だって水谷の両腕には傘らしきものはなかったし、水谷のことだ、きっと折り畳み傘はもっていないのだろう。

しょうがない、二人で濡れて帰るか。
とパラパラ所ではなくボロボロ降ってくる雨を見てそう決心した瞬間聞こえたのは気の抜けた声だ。

「へへっ、今日はおりたたみ持ってきたんだぁ」

入る?と彼は小首を傾げる。

……ちょっと待て、水谷。

高校生が、しかも男同士が同じ傘で帰るなんて気色悪くないか?
お前はそういうの気にしないかも知れないが、ぶっちゃけ俺はかなり気にする。恥ずかしい


「ねぇねぇ、入んないの〜?」

んなの決まってるじゃないか。

「いいよ、水谷が濡れちゃうだろ?」

やんわりと否定。ほら雨酷くなるだろ。早く帰れ。

水谷が振り向く。柔らかそうな髪が雨水に濡れて、水滴が頬を伝う。

なんか犬みたいだ。
しかも飼い主の言うことをきかないような駄犬。



「しょうがないから入ってやるよ」

努めてぶっきらぼうに答える。もう耳まで赤いのばれたかな。

恋に落ちる音がした。


END




supercellのメルトから



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