short story

□残酷なキミに恋する
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「ねー阿部。」

そう問いかけて、彼の目をじっと見つめる。

瞳の奥には黒い黒いガラス玉。

「好きの反対ってなんだと思う〜?」

わざとにへらと笑ってみせると、彼は煩わしそうに溜め息を吐いた。

はぁ、となんて重苦しい。

教室の窓側の彼の席に、カーテンを透かして、生ぬるい風が吹き彼の短い髪をそよぐ。


その姿を見て綺麗だと思った。

俺はいつのまにか、単に同クラで、部活が一緒で、という阿部に恋をしてしまっていた。

優しい訳でも、柔らかい訳でもない彼に焦がれてしまうなんて、今でも有り得ないと思う、

でも、でも、だけど、俺は阿部が好きなのだ。

頭が沸いているのかもしれない
いや、もうすでに手遅れなのかもしれない。


「あ?嫌いに決まってんだろ」

その冷たい言動とは対照的に窓の外を眺めながら珍しく微笑む彼。

視線の先には、俺たちのエースが同クラの田島たちと無邪気に遊ぶ姿があった。

三橋を見ていると時々(いや、何時も)腑が煮えくり返るような強烈な絶望を感じる。


(……違うよ。阿部)


「違う、よ……」

やっと紡ぎ出した声はやけに、か細かった。

きっと、阿部には届いてはいない。


瞳の奥が揺らぐ。


ねぇ阿部。知ってた?

好きの反対はね、

『無関心』なんだよ?

嫌いなんかじゃないんだ。


ねぇ、嫌っても良いから。
だから、お願い
その瞳にオレを映してよ。


それだけでいいから

それだけで、充分だから



深く抜けない棘が刺さる。
嗚呼
キミは、残酷だ。




END


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