short story

□Aplicot
1ページ/1ページ





阿部君は、オトナ、だ。

だってセックスする時も平然とリードするし、ボーっとしてるうちに事後処理だってあっという間に済ましちゃう。
そんで阿部君の出した精液がねその阿部君に掻き出される瞬間が一番恥ずかしいんだぞ、って云う暇すら与えない。

本当に阿部君は厭らしい。




「スキだ、三橋。」

阿部君はベッド周りだけやけに綺麗な部屋でベッドに俯せになって野球雑誌を読んでいる。

何気なく聴こえた声の方に首を向けてみたら阿部君がいた。

(部屋にはオレと阿部君しかいないから当然だけど。)

だけどその阿部君は視線を上げずに雑誌を読み続けている。

だから空耳かと思ってオレはホッと胸をなで下ろした。
だって2人っきりの部屋でそんな事言われたら心臓が破裂してしまうから。
この頃は阿部君と同じ空気を吸ってるってだけで寿命が縮んでくと思うんだ、オレ。
あぁどうしよう。
どうしようもないもない程、阿部君が、スキだ、大好きだ。

阿部君の垂れてるのに意志の強そうな瞳とか。
オレの投げたボールを受け止める力強い腕とか。
その腕が夜になるとイヤらしいことする腕に変わるとことか。

大好き。
ヤバ、いよ……。オレ、阿部君に欲情してる。
下半身に熱が降りてゆくのがわかる、恋愛感情がそのまま性欲に繋がってる気さえもする。

阿部君にならどんな事されてもいい(というかむしろされたいかもしれない)。

そんな風にオレが思ってるなんて彼が知ったらきっと、いや、絶対、幻滅する。
(隠し通す自信は ない けど)
はぁ。
ため息が自然と漏れた。

「三橋、オレの顔になんかついてる?」

「ふぇ?」

「ずっとオレの顔見てただろ」

へ?
いつの間にか阿部君を見てた?
ヘンに思われてない? 
気持ち悪がられて、ナイ?

「な、んでも、ナ、ナイっ」

「三橋、オマエ変だぞ?」

「だってあ、あ、阿部君が、ヘンな事、ゆーからっ」

「変な事?……あっ、好きって言ったコトか?」

『すき』

スキ?

好きっ!?

阿部君、やっぱり空耳じゃなかったんだ……。
ううっ、心臓が痛いよ。

「三橋はオレのコトどー思ってんの? 」

阿部君は前のめりになって、ベット寄りかかるオレに顔を近づけた。
そうすると、もうオレの心臓はバクバクして、頭もショートしそう。
阿部君……近いよっ。
呼吸する音も聴こえる。
うわ恥ずかしい、そんなオレの顔見たって面白くもなんともないでしょ?

「あ……阿部君、阿部君、阿部君、阿部君っ!」

恥ずかしさと緊張と、ほんの少しの期待を持って阿部君の首筋に抱きつく。
そうすれば赤くなった顔だって隠せるし。
阿部君にも触れられる。
一石二鳥だ。なんてちょっと図々しいかな?

「うわっ、何だよ!?」

(うー、ズ、ルい。阿部君……。スキだ、なんてオ、オレ言えない…よ…)


「阿部、君っ、あのね、」

「ん? 」

「セ、セック……ス、しよ?」

「……誘ってんのか?」

「や、……だ?」

オレから誘っちゃ、駄目?
嫌いになる?そんなの嫌だ

阿部君と出逢ってから更に涙腺が緩くなった気がするんだ。
脳からの命令を無視してすぐに塩辛い水が目から溢れて頬を伝わる。
その水は一つずつ玉になって床にボタンと落ちていった。
……どーしよ。止まんない。

「ヤじゃねーよっ。いいから離せ。首が締まるっ!」


その大声にはっとして腕を解くと、勢い余って尻餅をついてしまった。
阿部君は首をさすりながらニヤッと笑う。
その顔もかっこいいと惚けてる間にも阿部君の腕が肩に掛かり、いつの間にか押し倒されていた。
抵抗する間もなく、頬に顔を寄せオレの涙を舐めとっていく。
ちょっとくすぐったい。でも気持ちいい。

「へー。オマエから誘うなんて初めてじゃねーか?」

「……いや?」

「馬鹿。嬉しいんだよ」

だって、それ程オレを好きだって事だろ?と阿部君は言った。
やっぱり阿部君はスゴい、と思う。オレのこと、オレよりわかってる。

「もう止まんないからな」

「う……ん、阿部君。」

こくんと頷くより早く、彼はオレのジーンズのベルトを解いた。
カシャリと堅い音がして、これから起こることへの期待でのどが鳴る。
早く、早く阿部君が、欲しいよ
(なんて絶対に云えない ケド、ね)




END



好きだって言えないのに、セックスしようっていえる三橋





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ