short story

□群青色の空に叫べ
1ページ/1ページ

群青色の空に叫べ


いつからこんなに欲張りになったんだろう。
もう両手には抱えきれない位の幸せがあるのに。
栄口が隣で微笑んでくれる。
そんだけで満足した、純情なオレは何処に行っちゃったっけ?

いつからか、愛しい、だけじゃ物足りなくなった。

全てが手に入らないのならいっそ、栄口を殺してしまいたい、と思った。

頸に手を掛け、オレの手で

『殺しちゃうよ』

だから、早くサヨナラをしよう

手遅れにならないうちに


「ねぇ栄口、気持ちいい?」

「……水谷、はぁ、ん」

甘えるように勃ちあがっているモノを根元からさすってやると、栄口は背中をのけ反らして悦んだ。
目元にうっすらと生理的な涙を浮かべて、それを舐め取ってやると今度は頬を赤く染める。
オレの、可愛い、栄口。
こんな可愛い人はオレの物。

オレはフフと笑って幸せを噛み締める。
不安に飲み込まれそうだってことにすら知らんぷり。
そうしなきゃ、だって、ホントに壊れてしまう。
何がって?
そんなのわかんない、けど。



「もう挿れるからね」

両足を抱えると、充分に馴らした蕾が丸見えになる。
そこは栄口の先走りとオレの唾液でぐしょぐしょになっていて、早く欲しいと云わんばかりに収縮と弛緩を繰り返していた。
屹立を埋め込むと、グチグチと水音を立て呑み込まれてゆく。

栄口は眉間に皺を寄せて異物感に耐えている。
オレ専用にそそられる表情。
可愛いなぁ、もう。

首筋に目をやると汗が玉のように浮かんでいるのが見えた。
それを胸元からすすっと舌で舐め上げると栄口の味がした気がした。
気のせいだと思うけど。
そのまま舌で唇をつつくと、栄口は簡単に薄く口を開いてオレを受け入れる。
舌を絡めて、吸って、上顎をさすると体を痙攣させた。
敏感なんだよね、栄口は。
オレは夢中になって行為を続けた。


「ん、ぁ……みずた、に」

「何? ユウト? 」

「ふっぁ…、ん、もっと、奥」

嬌声を混じらせた声に、仕方なくなって、その願い通りに最奥をグリグリと抉る

栄口のナカはやわやわとオレのモノを締め付けて離すまいとしている。


「やぁ、……きもち、…いい」

栄口は腕をオレの背中にまわし爪を立てる。
彼は跡を残されるとオレが喜ぶ事を知っていた、だから痛くない程度に跡をつける。
もう、なんなのこの子。


「気持ちいいの、勇人? 」

「あっ、ん、きもち、いいっ」

かぶりを振って頷く彼。余裕はない、まぁオレだって同じなんだけどね。
栄口が乱れるのを見るだけで死ぬ程興奮する。

多分、オレは、栄口がいなきゃ生きていけないんだ。
考えるだけで、おかしくなりそう。
こんな恋は初めて、だった。
こんな余裕がないオレなんて、オレは知らなかった。
いつもはへらへら笑っていればすんだのに、栄口の前じゃ上手く笑うことも出来なくなる。

それじゃ意味ナイじゃん、と自嘲気味に笑って、腰を彼のイイトコロを思い切り打ち付けた。
そうすると栄口があの掠れた高い声で啼いて、オレを更に欲情させる。


ははっ、オトコに欲情すんだって、変なのー。
オレはホモじゃないのにさ。
きっと栄口が可愛すぎんのか悪いんだ。
あのエロい声が悪いんだ。

栄口みたいな真面目な子がこんな淫乱になるんだもんね。
こんな姿野球部のヤツらが見たらなんて云うだろ? 三橋辺りは卒倒しちゃうんだろうな。
アイツ栄口の事、イイヒトだって思っちゃってるしね。

まぁ栄口のこんな姿、他人には絶対に見せてやんないんだけど。聴かせたくもないんだけど。
一生。
栄口はオレだけに抱かれてればいいんだ。

束縛だって栄口が責めても離してやんないんだから。
それでも、栄口に嫌われるのはめちゃくちゃ怖い!
それこそ死ぬ程に、怖い。
矛盾だ。
そんなの痛いくらいにわかってるさ。
矛盾に支配されてるオレの胸にあるのは黒いドロドロとした塊だけだった。汚い、オレ。

栄口と赦されない関係になってから、オレの部屋には家具というものが殆ど無くなっていた。
あんなに大事にしてたコンポすらも粗大ゴミに。


(モノに意義なんてない、と気付いてしまった。)

(栄口勇人以外には色は着いて、ない、)


その冷え切ったフローリングの床に純白のシーツを引いて、ベッドに代用。

固い床で、施される愛撫に馴れていないようで、栄口の喘ぎ声は辿々しい。

躯中に映える痣も、きっつい野球の練習で付いたのだって言い訳が効かないくらい甚だしいし。

みんなの前で着替えの止めさせなくっちゃね。
まぁどうせ阿部とか花井とかは気付いてんだろうけど。
だって栄口を見る目が今までと違うもん。
憐れみの目で見てる。
おいハゲと垂れ目、オレの栄口を見てんじゃねーよ、と思いながら栄口の隣を陣取って着替えるオレはもう既に末期だ。


右のわき腹の痣は先週の金曜に付けた。
頸の切り傷は今週の火曜。
他にもオレが付けた傷が、いっぱい。
オレが付けた傷で栄口は綺麗なまま汚れた。

(オレが、穢してしまった。)

可哀想、痛そうだなぁ
てかぜったい痛いでしょ?

だけど、栄口は怒らない。

(オレは怒られたいのに)

優しい栄口は、優しさを武器にオレを殺す。
いっそ、その優しさが栄口の虚像ならいいのに。
オレのヘラヘラ顔みたいにさ。
でも気付かずにしてんだから、オレも栄口も救われやしない。


栄口が抵抗でもしたら、きっと諦めが着く
もっと、足りないなぁ、なんて思うことは無くなるのだろう
そうしたら、オレは大好きな栄口を自分の手で壊すような事、しなくてすむのに。

でも、突っ走ってしまうのは、この青い感情。


「水谷、好き、好きだから」

喘いで、乱れて、欲望に溺れた瞳で栄口はオレを煽る。
こう云われて、オレは

徐に、栄口の白くか細い頸に指を

「ねぇ栄口、殺しちゃっても、いいよね?」

限界なんだ。


腰を最奥に打ちつけて囁く。
オレは、止まらなく、なる。





「答えは聞かないよ」

気道を押さえるように力を込めると、ミシミシと音を立てて軋む栄口の細い頸。
ヒューと掠れた音が喉から零れる。

「……ぁ、みず…た、にぃ」

栄口はもうオレの奇行に慣れてしまったのか、大した抵抗も見せない。
只、困ったようにオレを見つめるだけ。

だけど、確実に、繋がった場所から彼のナカが熱くなってゆくのを感じて、もしかしたらこんな苦痛でも快楽なのかな、と思った。

だとしたら、こんな躰に仕込んでしまったのはオレだ。
罪悪感が脳をかすめる。

「勇人、苦しい?」

栄口は少し頷く。
彼の飲み込めない唾液が口の端から溢れて、頬を伝わりシーツに滲みを付けた。

その濁った煽情に、身勝手に興奮して、更に彼の首に添える指に力を込める。
これ以上したら本当に彼は死んでしまいそうだ。

「み……ず、たに、もう……」

死にそう、と彼は濡れた瞳で訴える。と同時に彼の身体がうねり、勃ち上がった
モノからドロドロした白濁が溢れ出し、腹を汚した。

(あ、イっちゃったんだ……)

そう思ったら、少し取り残された気がして、とっさに腕を放した。

ゲホゲホと咳き込み、シーツに倒れ落ちる栄口。
その頸にはくっきりとオレの手形が赤黒く残っていた。

栄口、
早くオレを詰って、
サヨナラと別れの言葉を云って
と思いながらもなす術はなく、彼を見下ろす事しか出来ない。

「謝まらないから」

「……いいよ、別に」

ったく明日どうやって学校いけばいいんだよ、こんな跡つけて、と喉を押さえ栄口は涙に濡れた瞳を逸らした。

ほらまたそうやって、ワザと怒ったふりをするんだよね?

てかきっと絶対栄口は呆れる程、オレのコトが好きなんだと思う。
そうじゃなきゃ、あんな事でイケる訳ないし。

だって栄口はそんなマゾじゃないでしょ?
むしろサドっぽいと思うし。
(世界だからなんて云えないけどね、だってオレはどーせクソレでしかないし!)

だからどこまで傷をつければ、オレを嫌いになる?

でも永遠なんかない、ってコトはガキじゃないから解ってるつもり。

栄口はさ、いつかひとりで夢から覚めちゃうんでしょ?
女を抱くようになるんでしょ?


おいてきぼりは、怖い、よ。

「ねぇ、今度はオレの頸を絞めてよ」

栄口がオレを、

「殺してよ」

声は震えて、情けないくらいに泣きそうになった。

好きだよ、
だから、サヨナラをしよう

そうしたらきっと、この醜い感情も、青臭い欲望も、栄口に見せなくて、済むのに。


END






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ