お題
□絵の具
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“本やん、そんなに水分多いと…”
“いーからいーから”
乗り出すキミを制止して、筆を紙へと近づける。
“ほらー、滲んじゃったぁ”
あの時のように鮮明に地面を滲ませた山ちゃんは
“でも…キレイだね”
なんて微笑む事は二度とない。
鳴り響くクラクションと誰かの叫び声。
世界が色を失っていく。
赤なんて嫌いだ。
こんな時でもそれだけがハッキリと目に飛び込んできやがる。
“本やんキスー”
“だめ。授業中だろ”
“いーじゃん、画用紙に夢中だって皆”
“……一回だけな”
震える手で山ちゃんの唇をなぞると、ぬるりと生暖かい感触。
ひどく耳鳴りがした。
あぁ、今のが走馬灯ってやつか?
『…オレも真っ赤だなー』
言葉を正確に発せていないとは気付かないまま、意識を永遠に手放した。
2つの塊は静かに染めていく。
(数ある運命の色の中から)
(オレ達には赤が与えられた)
(恋をした罰だろうか)