宝物

□俺にしとけよ
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「な、なに?これ??」


え、幻覚??と言いながら目を擦って見るも、その毒々しいまでの赤は銀時の視界から消えない。



「……幻覚じゃないですよ…」


本気でうろたえている銀時に新八は一切目を合わさず、吐き捨てるように言った。

そして、呆然と着流しを見つめる銀時に背を向けると畳に腰を下ろし、散らばったままの洗濯物を黙々と畳み始める。



その小さな背中からは、もう怒りではなく、深い悲しみが滲み出ていた。



誤解を解かなければと焦る銀時だが、知らない、の一言では恋人の機嫌が晴れる訳がない。

どうしようか、と滅多に働かせない脳をフル回転させ始めた時、妙に冷静な声が掛かる。



「…次からは、ちゃんと言って下さい。紅って手洗いじゃないと落ちないんですから」



また洗わなきゃいけないじゃないか、と不平を漏らした声色の不自然な程のいつも通りさと、


再発の可能性を信じるその発言に、銀時は顔を顰めた。


「おい、次からは、ってなんだよ。また俺がこんなモンこしらえて来るとでも思ってんのか??」
「そーいう意味じゃなくて」
「じゃあ、どんな意味だよ。つーか俺こんなの知らねー…」
「……っ知らない訳ねーだろ!!!」



ダンッ、と大きな足音を立てて新八は立ち上がると、勢いよく銀時に何かを投げ付けた。


新八の怒鳴り声と足音に一瞬怯んだ銀時だったが、難無く向かってきた小さな物体を掴む。



なんだ?と手を開いてみれば、それはマッチ箱で。




表面に、けばけばしい色ででかでかと風俗店の名前が書かれていた。



「……っっ!!!」




そして漸く、銀時はあの口紅の原因を思い出した。



あれは、昨夜長谷川に付き合わされて行ったキャバクラで付けられたモノだ。

キャバクラに行った時には既に出来上がっていた為、記憶は朧げだが。

なんとなく、付けたキャバ嬢にキレた覚えがある。




記憶を辿るように黙り込んでマッチ箱を見つめていた銀時は、新八の隠しようがない程震えた声に顔を上げた。



「それ、洗濯機の中に落ちてたんです」
「……新八、あのな」
「まあ、そういう所銀さん好きだし、大人の付き合いもあるでしょうから仕方ないですもんね」
「…だから」
「すいません、くだらない事で騒ぎ立てて。もう何も無いですからソファーに」「新八!!!」


再び背を向けた新八の腕を掴み、銀時は無理矢理顔を自分に向かせる。

その顔は涙こそ流れていないが、今にも泣き出してしまいそうな程歪んでいた。


「くだらないって、本気で思ってんのか」


低い銀時の声と、鋭い眼差しにビクリと新八は肩を揺らす。



「もし、これが女と遊んでた証拠だったとしても、おまえにとっちゃくだらねー事なのかよ」
「…っ、ちがっ」



新八が否定する前に、スルリと銀時は新八の腕を解放し、一歩離れる。


そして、今度は銀時から新八に背を向けた。



「結局、どんだけ一緒に居てもよ、おまえは俺を信じねーし、そういう男だと思ってんだな」



そう言うと、銀時は和室から出て行き、静かに襖を閉め、そのままソファーには戻らず玄関へと向かう。






閉じられた襖の向こうから玄関の扉を開閉する音が聞こえても、新八は暫くその場に佇んでいた。
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