Long
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「昨日…掃除、ありがとう…」
「ううん、勝手にいじっちゃってごめんね。暇だったから…。それに僕ああいうの好きだから楽しかったよ」
「それに…兄さんを構ってくれてありがとう…。とても喜んでた…」
渚はとても喜んでいたらしい。
「ぷっ。」
思わず吹き出してしまう。そうか、喜んでたのか渚。最後は笑ってやれて良かったな。
いっこ年上で天才のくせに、空気が読めなかったりワガママだったりと妙に子どもっぽい一面を持つ渚。出会い頭からイメージ最悪だったけど、帰り際の、僕を引き止める顔が保父さんか何かに懐いた子どもみたいで可愛く思え、ちょっとだけ好感を持ったのだった。
…正直、僕と綾波の事に関しては一ミリでもいいから空気を読んで欲しいけど…
「兄さん、何に対しても好き嫌いが激しい人だから驚いてるの…。」
「そうなんだ」
やっぱり子どもだ…。友だちとかならともかく、あいつに関わる大人たちはさぞかし大変だったろうな…。
「碇君は凄いのね」
「えっ?」
突然、凄いと誉められた。
「な、何が?」
「兄さんがあんな風に人を引き止めるところを初めて見たもの。」
「そうなの?…僕、別に渚とは話とかあんまりしてないし、ほとんど掃除してただけだよ?」
「それでも、碇君は兄さんの興味をひいた…。凄い事よ」
どうやら渚の興味をひく事は結構凄い事らしい。よくわかんないけど。
「そ、そっかぁ。…ありがとう」
でっかい子どもにたまたま懐かれただけって感じだけどなぁ…実際…
「じゃあ…また放課後…」
「うん、放課後に」
綾波はずっといつも通り無表情だった。…でも、凄いって誉めてくれたし、綾波からまた放課後って言ってくれた。
「綾波と"会話"しとる…」
「俺、あんなに綾波が喋るとこ初めて見たぜ…」
自分の席に戻って行く綾波の背中を見つめながらトウジとケンスケがポカンと口を開けている。
クラスメイトも同じだった。綾波が二言以上喋るところを目撃して驚いていた。冷やかす事すら忘れる程の衝撃だったようだ。シン、と静まり返っている。
何だか僕は嬉しくなった。それに、今日も綾波と二人きりで下校できるのだ。
***
綾波と僕と二人きりで、下校。できると…思っていたんだけど。
「あっ。シンジくーんっ!!」
何か、無理っぽい。
放課後になって綾波と教室を出て(もう冷やかしはなかった)校門のところまで来たら…。でっかい子どもが満面の笑顔で手を振りながら近付いてきた。顔がそこいらにいる芸能人より良いおかげだろう、女の子たちに囲まれていた。
「な、渚だ」
「兄さん…」
良い思いをしていたと思いきや、近付いてくる渚は彼女たちから逃げるように駆け足だ。
「渚、どうしたんだよ」
「待ってたんだよシンジ君を。そしたら何か知らない女の子がいっぱい寄ってきて…」
チラッと後ろを振り返る渚は迷惑と困惑を混ぜたような困り顔で、何だかおかしい。…変なの、今まで何度もこれくらいの事あったろうに。
まぁ、渚は人付き合い苦手そうだから可愛い子が何回寄ってきても扱いに慣れないんだろう。…それに可愛い子ならとびっきり可愛い綾波が妹だもんな、ちょっと可愛い子ってだけなら何も感じないのかも。なんちゃって。
「はは、渚はカッコイイもんな」
素直に思った事を言ってやった。皮肉や妬みではなく本当にそう思ったから。…見た目は、ね。文句なしに良いからね。
「カッコイイ?」
すると渚はポカンと口を開けて僕を見つめた。
「僕、シンジ君から見てカッコイイの?」
「うん。カッコイイと思うけど」
そしてその顔はみるみる笑顔になっていく。
「そ、そうなんだぁ…へぇー」
ぷ、何だよ"へぇー"って、めちゃくちゃ嬉しそうな顔しちゃってるくせに。わかりやすすぎ。…綾波と兄妹とは思えないなぁ、この性格。外見は似てるけど。
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