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次の日の朝




教室に行ったら黒板に僕と綾波の名前が書いてあった。お決まりの相合い傘とそれを狭むようにして碇シンジ、綾波レイの名前が並ぶ。

「………。」

…うん、予想はしてたよ…

僕らは何といっても中学生…やることはやっぱりガキなのだ…

クラス中の意味ありげな視線が突き刺さる中、僕はいつも通り、普通に席に着いた。

途端、良いリアクションをしなかったせいか、期待が外れたらしいクラス中の視線が僕から外れていく。

だって昨日は綾波とどうこうというより綾波の部屋と綾波の兄とどうこうあっただけだったんだ…。僕だって黒板の落書きを見たくらいで赤面してしまうような出来事があったら良かったって思うよ!…でもなかったんだからしょうがないじゃないか!!

「何や〜、昨日は何もなかったんか?綾にゃみとはぁ」
「何だよ楽しみにしてたのにぃ」

トウジとケンスケがやって来た。

「…何もっていうか一緒に勉強もできなかったよ」

情けなくもね…とため息を吐けば、二人はウンウンと頷いて、それからガバッと同時に僕に顔を近づけてきた。


「「勉強もできなかったぁッッ?!」」
「うん…まぁ、いろいろあってね…」

「話が違うやないか!」
「何でだよっ!?」

僕は昨日あった事をだいたい二人に説明した。

「あちゃー…さっむいわ」
「…二人っきりでウハウハ勉強会と思って行ったら兄貴がたまたま帰って来ちゃってて部屋が汚くて掃除して気付けば夜んなってて…んで終わりって何だそれ」

二人は心底哀れむような目で僕を見た。

「…でも楽しかったよ掃除は。綾波のお兄さんも変だけど良い人だったし…。それに今日もまた行くし―…」

でも僕がそう付け足すと

「「今日も行くのか?!」」

その目は驚愕と期待のそれに変わった。

「今日も行くの!!?」

そして二人の声と誰かの高い声が重なる。

「「「?」」」

三人してそちらを振り返ったら、アスカが凄い形相で睨んでいるのが見えた。

「な、何だよアスカ」
「今日もあの子ん家に行くのねぇえ」


「盗み聞きするなよ!」
「誰が盗み聞きなんかすんのよっ!聞こえてきたのよか・っ・て・にッッ!!はん、あの子のなぁにが良いのかわかんないけどせいぜい頑張って気に入られればぁ?」

アスカはべーっ、と舌を出してそれからそっぽを向いてしまった。

「何なんだアスカは…」

僕がムスッとして言う傍らで他の二人が何かまたウンウン頷いていた。そのウンウンは何なんだ、と口に出して言う前に僕はその時、別の事に気を取られた。

ザワ、と、クラスがざわめいた。他の奴も気付いたらしい。

綾波が登校して来たのだ。

クラス中が再び期待のこもった目で綾波を見つめる。黒板の相合い傘に対するリアクションへの期待だ。…しまった、消しておけば良かった。僕はともかく女の子は結構ショックを受けるんじゃないだろうか…

「………」


でも綾波はいつでもどこでも綾波だったので、むしろ黒板の相合い傘に気付いてもいない様子でスタスタと教室を歩き、静かに自分の席に着いた。…勿論表情はぴくりとも動いていない。

…クラスメイトの顔が面白いくらいガッカリしたのが見えた。

「ありゃりゃ、シンジ以上のノーリアクション」
「綾波だねぇ…」

「………………………。」

流石は綾波…やっぱり気にしてない。っていうか僕なんかじゃ意識する対象にならないのかな…

なんて僕もちょっとガッカリしていると、突然綾波が席を立って

「!」

僕の方に歩いてくる。えっ、な、何だろ…

「碇君、おはよう」
「お、おはよう綾波…」

綾波が僕に挨拶してきた。無口・無愛想・自分から喋るなんて一年に一、二度あるかないかと言われている彼女から話しかけられた!…クラス中が三度目の期待を僕らに向ける。…僕自身も、だ。




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