Long

□ 後
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僕の不吉な予感は的中した。

あれからカヲル君との連絡が一切取れなくなってしまったのだ。

毎日やりとりしていたメールも、何度か送ってみたものの返事は来ない。勿論電話なんていつも留守番電話状態。

こんな状態だ、今後カヲル君がまた学校に来る事があっても僕に会いにきてはくれなさそうだ。

それにカヲル君はあの時『学校へなんかもう来てはいけなかった』と言っていた…。もしかしたらもう、学校に来ないかもしれない。

話をしたい。

僕は気にしてないんだって事、ちゃんと言いたい。

そりゃあビックリはしたよ。いきなり友だちからあちこち舐め回されたんだ、当たり前だ。キス、みたいな事もされたんだし…




あの時の事を思い出すと、今でも少しドキドキしてしまう。




同じ男からされた事だけど、相手がカヲル君だからか不思議と嫌悪感はなかった。…でもちょっと怖かったかな。

それでも。

あんな事があったくらいで僕はカヲル君を嫌いになったりしないし、気まずい雰囲気のまま一生のお別れというのも嫌だ。


こうなったら直接会いに行こうか。カヲル君の家に。

ふと、思いついてでも僕は、カヲル君の家がどこにあるのか知らない事に気付いた。後で先生に聞いてみよう…




僕は昼休みの校庭を横切り、薔薇の温室にやってきた。

ズボンのポケットに入れておいた鍵を、鍵穴に差し込み捻る。…カチリ、と音がして南京錠が外れた。

「…また…」

そして温室に入った僕はいつものように溜め息を吐く。

目の前の薔薇が、昨日よりまた更に数が減っていたのだ。それに、気のせいでなければ減る数が段々と増している気がする。

本当に、一体誰が、何の為に。

僕は昼休みの内に加持先生の所へ行き、新しい鍵を頼んだ。




***




カヲル君と最後に会ってから二週間が過ぎようとしていた。

それなのに僕はカヲル君の住所が未だにわからないでいた。何故なら先生に聞きに行っても教えてくれないからだ。

お見舞いに行きたいのだと言っても、悪い事は言わないから止めておきなさいと返ってきた。先生曰わく、してもらって嬉しいお見舞い、嬉しくないお見舞いがあり、カヲル君にとっては今、後者なのだという。


自分の弱りきった姿を友だちに見せたくない渚の気持ちを察してやれるな?

諭すような先生の言葉にでも、僕の勢いは弱まる事はなかった。むしろそれは火に油を注ぐようなものだ。

だってそれって、いよいよ時間がないって事じゃないのか、なら急がないと本当にもう会えなくなるじゃないか。

しつこく毎日聞きに行くけれど先生が首を縦に振る事はなかったし、この頃は僕を相手するのが面倒くさいのか避けられてしまっている。




薔薇の事も相変わらずだった。




加持先生も事情を知って、何種類か鍵を買ってきてくれたけど、犯人は僕を嘲笑うかのように以前と変わらず毎日薔薇を盗んで行った。

それでなくても一年も経たずに高校受験がやってくる僕は、今までより増えた勉強の時間と周りからのプレッシャーに耐えながら、いろいろなストレスに悩まされる日々を送らなければならなかった。




そんなある日の事だった。




温室の鍵を閉めて溜め息を吐いた僕に、背後から突然誰かが話しかけてきた。

「相変わらず辛気くさい顔ねぇ」

聞き覚えのある声だった。


その声に振り返ってそして、僕はギクリと体を緊張させてしまう。

「何よその顔は、このあたしが声かけてやってんのよ?ちったぁ嬉しそうにしなさいよ」
「そ…惣流…」

惣流・アスカ・ラングレー。

僕を嫌ってる女の子。とても苦手な女の子。

惣流は持ち前の綺麗な長い髪をサラリと流し、片手を腰にあてて偉そうに(悪いけど僕にはそう見える)立っていた。

今日は機嫌が良いのかいつもみたいに僕を睨んでいない。…笑ってもいないけど。

「あ…じゃあ…僕はこれで…」

関わりたくない。

彼女の目が鬼のように吊り上がらない内に、予想だにしない酷い言葉で傷付けられない内に、さっさと逃げなくては。

今、隣に僕を庇ってくれるカヲル君はいないのだから。

「待ちなさいよ!」
「ひっ!!」

さりげなく逃げようとした僕は、でも惣流にガッチリ腕を掴まれてしまい、それが叶わなくなる。




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