Long
□薔薇の香り、罪の味 前
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※現代パロ。
病弱カヲル君×園芸部員シンジ君
目を覚ますと、僕は知らない部屋のベッドの上で寝ていた。
真っ暗な部屋だった。
けれど、大きな窓から月明かりが眩しい程に差し込んでいて、ここがとても広い寝室だと知る事ができた。…すぐ側にいるのがカヲル君だという事も。
僕の右手を握りしめて泣いている。
そんなカヲル君を見れば穏やかでいられるはずのない僕だけど、今、僕の心は寝起き独特の穏やかさを保ったままで少しもそれが乱される事はなかった。
「カヲル君…どうして泣いてるの…?」
温度の低いカヲル君の手を握り返すと、カヲル君は目を閉じて苦しそうに声を出した。
「ごめん…ごめん…ごめん、シンジ君…僕は君に取り返しのつかない事をしてしまった…」
「…何の、こと…?」
とめどなく流れるカヲル君の涙。
何がどういう事なのか。
ここはどこなのか。
僕は何故ここに寝かされているのか…
思い出されるのは、暗い、薔薇の温室と丸い月…
そこに佇むカヲル君の姿
***
「まただ…」
僕は温室内を眺めてため息を吐いた。
「一体誰がこんな事を…」
目の前には、一年生の時から大事に世話をしてきた薔薇が咲いている。昼休みを利用して水をやりにきたのだ。
ここは唯一『まともな』園芸部員である僕が管理している、僕だけの庭。
中学生になって間もなく、何部に入ろうか迷っていた僕は、担任の加持先生に半ばムリヤリ園芸部へ入部させられてここへ連れて来られた。
加持先生は園芸部の顧問だった。土を弄るのが大好きらしく、学校の校庭の一角を陣取ってスイカを育てていた。
それはそれは楽しそうに、そして愛情を込めて育てていたみたいなんだけど、今年、部員が全員卒業してしまって園芸部存続の危機が訪れた。
そこへ気の弱そうな僕が現れたわけだ。見るからに押しに弱そうだったんだろう。(実際に頼まれたら断れない性格だけど…)各部活のレクリエーションが始まる前から加持先生はしつこく僕につきまとって園芸部への勧誘をし続け、最初はどうにか逃げていた僕だけど、君が入部しなければスイカ畑が没収されてしまう、と仕舞には泣きつかれ、結局入部させられてしまったのだ。
そうして入らされた園芸部…。実は僕の他にあと何人か部員がいる。どう見ても加持先生目当てで入ったと思われる女子五人と、僕みたいに無理矢理入らされたっぽい男子が三人…。最初の集まりで顔を合わせて以来、次の日から早速全員が幽霊部員となった。
三年生になった今も、実際活動している部員は相変わらず僕一人…
まぁ、活動内容は薔薇を世話するだけなんだけどね。
…と、いうか、この園芸部。
表向きは薔薇を世話する、という園芸部らしい活動を掲げつつ、その実加持先生がスイカ畑を確保する為だけのオマケでしかない。つまり加持先生がスイカを育てたいが為に存在する部なのだ。
ただオマケと言っても、薔薇はキチンと育てないといけない。
でも僕は薔薇に関してまったく知識がない上に加持先生は丸投げするものだから(加持先生は実はスイカに関してだけしか知識がない事がここでわかった)初めて薔薇の温室を任された時はどうしようかと思った。…けど、自分なりにいろいろ調べて、何とか今まで世話できている。…今までこの薔薇を育ててきた先輩方もきっとこんな感じだったのだろう。
ある日僕が薔薇の世話をしている時、フラリとやって来て君ならやってくれると思ったと、してやったり顔をした加持先生は、他の部員はもともと人数合わせで、活動をするのは僕だけだと初めから見抜いていたと話した。
思い切り水をかけてやろうかと思った。
でも、最初は嫌々任されていたけど、こうしてずっと世話していると何だか薔薇たちがとても可愛く思えてくるし、今ではこの温室は僕の癒やしの場所となっている。
部員そっちのけでスイカの世話ばかりする加持先生を自分勝手で無責任な人だと思っていたけど、今はその気持ちも少しはわかるようになった。
残念ながら二年、三年の始めに行われた部活勧誘で部員は得られなかったので、中学を卒業するその日までは僕が薔薇の世話をしていこうと決めている。(さすがに薔薇を世話をする人が誰もいなくなれば、加持先生もスイカだけ可愛がるわけにはいかないだろう。そうして来年の春には一年生だった時の僕と同じ運命を辿る気弱な男子がここに立つ羽目になるのだろう。)
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