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靴とバッグ、だったはずのアスカとの約束は実際買い物に出かけると、靴とバッグと洋服とアクセサリー、それから食事代とソフトクリーム代等々に進化した。

その上僕はアスカの荷物持ちと化した。それを見かねたシンジ君も手伝ってくれている。(悪いので軽い物だけお願いした)

一応覚悟はしていたのだけど、アスカは僕らをこき使う事に容赦がなかった。

ショッピング街を我が物顔で歩くアスカから数歩遅れて僕らは歩く。

今は失恋や、溜まったストレスやらのせいもあるのだろうけれど、それでも、将来アスカと付き合う事になる人は苦労するに違いない。

よっぽど心が広いとか、底無しに優しい誰かが(だが彼女の場合、優しいだけの男ではつまらないとか言いそうだ…)アスカの前にできるだけ早く現れる事を祈る。




少し大変ではあるものの、まぁ、それなりに楽しい時間が過ぎていく。

ただ気にかかるのは晴れ晴れといったアスカとは対照的に、シンジ君が複雑そうな表情をしている事。


「まだ気にしてんの?馬鹿ねぇ、気にする事ないわよ。コイツいっぱいお金持ってんだから」
「そうだよシンジ君」

「でも…悪いよ。ただでさえずっとお世話になってるのに。」

先ほど食事が終わった後、財布を取り出したシンジ君に僕とアスカで必要ないと引っ込めさせたのだ。

どうやらその事をまだ気にかけているらしい。

「読書中無理に連れ出したんだ、これくらいさせてくれないか?」
「でも…」

シュンとなるシンジ君もとても可愛いけれど、できれば笑わせてあげたい。

どうやったら笑顔にする事ができるだろう。

「ね、お願い…シンジ君」
「…でも」

「だあああああ!しつこいわねっ!!本人がいいっつってんだからいいのよっ!!それにあんまり人の厚意を断り続けるのもシツレーにあたるのよ!!」

なかなかウンと言わないシンジ君に痺れを切らせたアスカが人差し指をシンジ君に向けて叫んだ。


「え、あ…そ、そうなんだ、ごめん」

アスカの言葉にショックを受けたらしいシンジ君はますます落ち込んでしまう。

「アスカの言う事は気にしないで。…とにかく今日は僕が財布係なんだから、シンジ君は何も気にする事はないんだよ」

ずっと我慢していたが、その落ち込み様にたまらず大量の紙袋を床に預け、僕はシンジ君の両肩に手を置いてしまった。

小さな肩だ。

抱き寄せてしまいたい。

ここがどこだってかまわない。




今すぐ抱きしめてキスしたい…




「そんなに悪いって思ってんならさぁ」

妄想の世界に片足を踏み入れたところで、アスカの声に引き戻される。

あ、危ない。

困った事に、最近の僕は事ある事に妄想するのがクセのようになっていた。

「あんたもお返しにカヲルが喜ぶ事してやったら?」
「カヲル君が喜ぶ事…?」

僕が喜ぶ事…?

シンジ君が…僕に?

再び妄想の世界に行ってしまいそうになるが、シンジ君のまっすぐ僕を見つめる瞳が僕を現実の世界へと留まらせた。

「カヲル君、僕が何をしたら喜ぶ?」


何をしたら、なんて。

「え…」

そんな事決まってる。

けれど口に出して言えるわけがない。

「僕に何かできる事、ある?」

僕だけのものになってほしい、なんて…

「あんたバカァ?いきなり本人に聞いてどーすんのよ!こういうのは真心で返すものなの!自分で考えなさいよねぇ」

アスカの呆れたような声にシンジ君の視線があちらへ向いてしまう。

困ったようなシンジ君の横顔。

「あ、そ、そうだよね!ごめん」
「まっ、バカシンジだけにまかしとくのは心配だから特別にあたしも一緒に考えてあげるわよ」

「ありがとうアスカ。…じゃあ、後で楽しみにしててね、カヲル君」

再び僕に戻る視線。

「あ…でも大した事はできないと思うんだけど」
「シンジ君がしてくれる事ならどんな事でも嬉しいさ。楽しみにしているよ」

そう、どんな事でも嬉しい。例えば僕が期待しているようなものでなくとも、シンジ君が僕の為に何かしてくれるという気持ちだけでも既に嬉しい。

アスカがこちらをチラ、と見てウインクしてきた。

『これでまた貸しひとつ』と言われているような気がした。…気のせいであってほしいのだけど…。




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