Long

□I need you 前*
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***




冬の空はすぐに暗くなってしまう。




まだ夕方だというのにすでに辺りは真っ暗で。

僕はコートを羽織り、マフラーを巻いて学校を出て、そのまま予備校とは真逆の方向へと足を向けた。









キラキラとイルミネーションが輝く街中をいろいろな種類の人が流れて行く。

何をするわけでもなく、道端の植え込みを囲うコンクリートに座ってそれを眺めた。

遊びたかったわけじゃない。ただ、嫌だったんだ、自分が与えられた環境でそれに従うように生きることが。
今日だけ、どうしてもそこから逃げてしまいたかった。今日だけだ。

「はぁ」

白い息を吐き出して、目の前の店の、壁に掛かる時計をガラス越しに見てみた。予備校はとっくに始まっている時間だった。

ついにサボってしまったんだ。

などと、ぼんやりそんな事を考えていると


「待ち合わせ?寒くないの?」

突然、全く知らないサラリーマン風の男に声を掛けられた。

「え…別に」

少し驚きながら応えると男は僕の隣に腰掛けた。

「学校帰り?何してるの?」
「…何も…。」

「じゃあさ、俺とこれからどこか遊びに行かない?おごってあげるし」
「…あの」

これってもしかしてナンパだろうか。僕、男だけど。…わかってる、よな…この人。

「あっ。別に変なとこに連れ込もうってわけじゃないよ?ただ俺も今ヒマでさ。…ね、ダメかな」
「…でも僕…」

「じゃあ…お小遣いあげるからさ…ね?」

お小遣い、ね。

要するに援助交際だ。

「普通に遊んでお小遣いまでもらえるんだよ。こんな良い話ないだろ?」

男は財布から札を三枚取り出し、僕の手に握らせた。

「………………。」


いつもなら、多分、相手にもしなかったと思う。

「…いいですよ」

けど今日は、どこか墜ちてしまいたい気分だったから、だから握らされた札ごとポッケに手を突っ込んで、僕は頭を縦に振ってしまったんだ。




***




男は僕をまず食事に連れて行った。

さして美味しくもない店だったけれど男によるとオススメの店らしい。

そこで僕についてしつこく聞いてくるので、ご飯を食べながら今のこの環境が嫌なのだと話すと、笑いながら酒を渡された。大丈夫、ちょっとだけ。たまには息抜きをしないと、なんて言いながら。…僕は言われるがままそれを飲んだ。

苦くて不味い。

大人は、金を出してこんなものを飲むのか。僕も、いつかこれが美味しく感じる時がくるのだろうか。

その後、酒のせいか急に眠くなってきたので帰ろうとすると、男は僕を心配する言葉をかけながら肩を強く掴んだ。

それから自分の方にもたれかけさせながら僕をどこかへ歩かせる。





「具合が悪そうだね、ここで少し休もうか」

しばらくしてそんな言葉が聞こえてきたけど眠くてしょうがない僕は黙って聞き流した。

その時だった。

突然、男とは別方向から手首を掴まれてかなり強引に引っ張られた。

「何してるんだ!!」

聞き覚えのある声だった。

うつむいていた顔を上げると、真っ正面からは久しぶりに見る、見覚えのある顔があった。

息を切らせて僕を睨んでいる。

「………カヲル…君?」

大嫌いなカヲル君だった。




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