Long
□I need you 前*
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※現代パロ
カヲル君が嫌いなシンジ君
憂鬱。
毎日が同じ事の繰り返し。
友だちはいるけど、それが別に毎日を楽しくさせるような事はなく。
受験生という立場。
今年に入ってから教師は同じ事を僕らに叫ぶ。
嫌になる。
言われなくたって頑張ってる。
「………………。」
僕は今し方返ってきたばかりの答案用紙を、視界から追いやるように鞄へとしまい込んだ。
最悪の気分だった。
でも、最悪、という言葉は最も悪いと書くわけだから今の気分には不適切だったらしい。だって、その後更に嫌な気分になったんだから。
「シンジ君、今回のテストどうだった?」
隣の席から声を掛けられ、僕はチラ、とだけ顔をそちらへやる。
「…今、授業中だけど」
その際さりげなく、彼の机の上にある答案用紙を見てみると、予想通り、彼の氏名欄の横には満点を表す『100』の文字。
「そうだね、ごめん…」
冷たくあしらえば今日もまた彼は笑顔を曇らせた。
隣の席の、彼の名は渚カヲル。
カヲル君はアルビノで、普通の人よりもかなり色素が薄く生まれてきた。
肌は雪のように白く、髪の色は普通、15歳では考えられない、銀色。目も、カラコンでしか見たことがないような赤色。とても自分と同じ人間とは思えない色合い。
ただでさえ目立つ彼は更に美しい容姿を持ち合わせていて、文武両道、性格は温厚。非の打ち所がなかった。
そんなだから男女関わらず、彼に関わった人間はみんながみんな彼を好意的に捉えてしまう。…僕を、除いては。
僕はカヲル君が嫌いだった。出逢った時からずっとずっと嫌いだった。
笑顔で接してくる彼に僕はその度冷たく返した。…それなのにカヲル君は毎日、僕に笑顔で話しかけてくる。
空気が読めないのか、それとも自分が誰かから嫌われているなんて思いもしないのだろうか?
どちらにしろ不快感は日に日に募るばかりで、もう僕はカヲル君と話す時に目も合わせなくなった。
誰かをこんなに嫌いになったのはこれが初めてだったし、これからもここまで嫌いになるのはカヲル君だけだと思う。
もう、構わないでほしい。
ただでさえ最近、鬱が酷くなってきたんだから。
「あの…シンジ…君?度々ごめん…。でも、君、顔が真っ青だよ…大丈夫?」
今、僕の顔は真っ青らしい。
「保健室に…行った方が良いんじゃないかな…?」
気遣うようなセリフ。
優しいカヲル君。
「………………………。」
それはともかく、僕は今度こそカヲル君を完全に無視した。
それなのに。
「シンジ君、これから予備校、行くなら一緒に行かないかい?」
放課後になって時計を見上げればあと二時間で予備校が始まるという時間だった。
「…何で…」
教室を出るところでまたカヲル君が話しかけてきた。僕はカヲル君の足元を見つめた。
「何でって…それは勿論、一人で行くよりシンジ君と行く方が楽しそうだからさ」
楽しそう?
冷たくされて、無視されて。
そんな相手と一緒にいるのが楽しそう?
カヲル君の頭の中は、一体どうなってるんだろう。
僕のカヲル君に対する、悪意を込めた態度はどう受け止められてるんだろう。
「悪いけど一人で行きたいから」
…ちょっと、頭のどこかがおかしいんじゃないか。
「そう…。それなら仕方ないね。じゃあまた、予備校で」
残念そうな声と共にカヲル君の足が視界から消えた。
僕は再び時計を見上げる。
「………。」
カヲル君と一緒の予備校。父さんが選んだところだから仕方なく通ってるけど、その事に関してずっとイライラしていた。学校だけでなく予備校でまで彼の姿が視界に入るなんて。
「………………もう、やだ」
唐突に、心に限界を感じた。
ダメだ、ムリだ。
…今日はサボって、しまおう。
1日くらい、いいだろう。
今日は予備校に行きたくない。どうしても。
カヲル君に『じゃあ、また』などと言われた後の予備校なんか。
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