Long

□青春を始めよう
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「わかんない事があったら周りの子に聞くといいわ」
「は、はい」

「みんなシンジ君と仲良くしてねー!」

ハーイ、という声が教室中に響いた。僕はもういいかなと自分の席に向かった。

僕が席に着くと葛城先生はこのクラスの今日の予定を話し始めた。

最後列なのでもう見られる心配はないと、ホッとしながら葛城先生をぼんやり眺めていると、何故か右側から異様なプレッシャーを感じた。

「?」

振り返ると、渚君が僕を見ていた。…しかも…何て言うか、凝視、という感じで。転入生の顔が珍しいのはわかるけど…い、いかにしても見過ぎじゃないか?

僕はとりあえず話しかけてみる事にした。

「ぁ…えと渚、君?」
「カヲルでいいよ、シンジ君」

目が合うとまた笑った渚君。近くで見ると同じ男の僕でもドキリとするくらい綺麗だ。しゃべり方もとても穏やかで、人を落ち着かせる効果がありそうな感じ…。

「え、あ、じゃああの…カヲル君」
「何だいシンジ君」


何となく『何でそんなに見るの』とか言えない雰囲気だ。悪気があった訳じゃなさそうだし…。えーとどうしよう。何か、何か言わなきゃ。

「こ、これから、よろしくね」
「こちらこそよろしく」

初対面なのにいきなり下の名前で呼ばれて少しビックリしたけど(先生はかなり年上だから別として)彼はとても良い人そうだ。良かった。

「シンジ君、君さえ良ければ暇な時にでも学校を僕に案内させてもらえないかな」
「ぇ…えっ?い、いいの?」

「勿論さ。…じゃあ決まりだね」
「っていうか、カヲル君…それを頼むのは僕の方だと思うんだけど…」

「そうかな」

違った。良い人、じゃなくて凄く良い人だ。僕が遠慮しないように気を回してくれたんだ。外見が良いだけじゃなくて中身も良いだなんて、何だか同じ人間じゃないみたい。






***




チャイムが鳴って休み時間になるとクラスメートの女の子二人が僕の机にやって来た。

一人は普通に大人しそうな子で、髪を二つ縛りにしてる。そしてもう一人は顔立ちが日本人じゃなさそうだ。オレンジ色の長い髪をサラリと流している。スタイルも良くてモデルみたいだ。

「碇君、私洞木ヒカリ。このクラスの学級委員長をやっているの。それで、こっちが」
「惣流・アスカ・ラングレーよ」

洞木さんはよろしくね、と言って柔らかく笑った。…その隣の惣流さんは腰に手を当てて…仁王立ち…してフン、と鼻を鳴らす。名前からしてやっぱり日本人じゃないんだろう。もしかしたらハーフかな?…まぁそれはいいとして、何かやたら気が強そうで怖い。

「よろしく、洞木さん、惣流さん」

僕も笑い返した。…うまく笑えてるかな。

「しょーがないからあたしたちが学校を案内したげるわ!アンタ、有り難く案内されなさいよね!」
「えっ?」

な、な、な、何?

一瞬惣流さんが上から目線で何を言ってるのかわからなかった。


「もうっ、アスカ!…ごめんなさい碇君、アスカ本当は凄く優しい子なのに素直じゃなくて…」
「あ…ええと…」

とにかく、ええと…つまり…よく考えると今の、学校を案内してくれるって言ったのかな?…だ、だよね。…多分学級委員の洞木さんに付き合ってわざわざ申し出てくれたんだろうな。お礼、言わなきゃだ。

「ありがとう、惣流さん」

…ツンデレって言うんだっけ、惣流さんみたいな人の事。

そっか、怖そうだけどこの子も良い人なんだ。

惣流さんが僕のお礼に対してパカリと口を開けたところで、突然両肩に誰かの手が置かれるのを感じた。

「でも悪いけど、シンジ君を案内する役はすでに僕という先約があるんだ。ね、シンジ君?」
「カヲル君…」

カヲル君だった。

斜め上を振り返るとカヲル君のニッコリが見えた。

「べっ、別に悪いも何もあたし、案内なんて面倒な事やりたいわけじゃないし!」
「そう、渚君が案内してくれるの。じゃあ任せたわね」

このクラスの人たちは葛城先生が言ってた通り、本当に良い人たちばかりみたいだ。

そんな事を考えていると一時間目のチャイムが鳴った。




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