Long
□青春を始めよう
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※現代パロ
つかつかと僕の目の前を歩くのは、これから僕が転入するクラスの担任、葛城先生だ。長い黒髪は結わえられることなく彼女の歩調に合わせ背中で右へ左へ大きくゆれている。とても明るくて屈託がない人、というのが僕の第一印象だったが、教師のくせにミニスカートというのはどうなんだろうと思った。
知らない廊下を彼女に着いて歩く。窓からは青空を穏やかに流れる雲が見えた。
緊張する、ここでうまくやっていけるだろうか。
9年ぶりに帰って来たこの町は懐かしい、というより、どこもかしこも初めて行く所ばかりで、以前ここに住んでいた分逆によそよそしく感じた。
もっとも、この町にいた時の特別な記憶といったら公園で友だちと遊んで楽しかった、とかそれくらいだけど。
「緊張してるの?」
突然、葛城先生が止まった。
「ぁ、いえ、あ。はい」
突然思い出の中から現実に引き戻された僕は一瞬どもってしまった。
「ほらほらしっかりしろ!オットコノコでしょ!」
そんな僕の様子に、どうやらガチガチに緊張していると思ったらしく、葛城先生はバシンと背中を叩いて励ましてくれた。
「大丈夫!ウチのクラスの子たちはみーんないい子ばっかりだからすぐ馴染めるわよ」
「は、はぁ…」
「じゃ、頑張ってね」
「え?」
葛城先生は言うなり目の前のドアを開けた。気付かなかったけど、今立っているのはどうやら僕が入るクラスの前らしかった。
「おっはよーみんな!もう知ってると思うけど今日は転校生を紹介するわよ〜!!」
転校生のウワサ、で僕がこのクラスにくる事を他の生徒たちは知っていたようだ。あぁあ、どうしよう、何か恥ずかしい。
「シンジ君、カモン」
ドアの外で突っ立っている僕を葛城先生が手招きした。僕は意を決して教室にに入った。床を凝視しながら。…極度の緊張のせいか足がフワフワする。
クラス全員の目が一斉に僕に集中する…気配がする。こういうの慣れてないから余計に緊張するよ!ああ、見ないで、お願いみんな一瞬でいいから外でも机でも僕以外を見てて!
「い…碇、シンジです…よろしくお願いします…」
蚊の鳴くような声とはまさにこんな感じ、なんじゃないかと思う。最前列の子でさえ僕の声が聞こえたか自信がない。
「えぇと…じゃ、碇シンジ君は渚君の隣の席ね」
葛城先生はちょっと苦笑いしながら僕のフルネームをさりげなく言って、それからどこかを指差した。僕はこの教室に入って初めて顔を上げた。…最後列の窓際に誰も座っていない席がある。
「…!」
あそこが僕の席か、と認識した後、あまりクラスの人たちと目を合わさないように床に視線を戻そうとした。…けれどその途中でどうしても無視できない視線を僕は捉えてしまった。
それは僕の隣の席の男の子の視線だった。目を引かずにはいられないくらいとても目立つ男の子だ。綺麗な顔立ちというのもあるけど、目の色が赤くて髪の毛色は銀色。…えーと、何かこういうの聞いた事がある。凄く珍しい…アル、ビノ…とかいうのかな?
まだ転入したばかりの見慣れない顔が物珍しいのか、僕をジッと見つめている。
「!」
目が合うと赤い目がフワッと笑った。…うわ、笑った顔もすごく綺麗だ。…この子がどうやら渚君らしい。
*