僕、アイドルになります!

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「あ、そうそうコレ聴いて」

ミサトさんがMDプレイヤーの再生ボタンを押す。




『迷うなぁ♪アダムなの?リリスなの?どっちがタイプよ〜〜〜♪』




すると途端、車内に聞き覚えありまくりな歌が大音量で流れた。

「うわぁあああああああああッッ!!!!」

僕は大絶叫して、慌てて停止ボタンを押す。

「び、びっくりするじゃない!どうしたのよシンジ君…」
「どうしたのよじゃないですよっ!!びっくりしたのはこっちですっ!!!」

「何でシンジ君が驚くの?自分の曲なのに」

…そう…

今一瞬流れた歌は僕が初めてユイとなった時、いきなり出演させられた番組で歌った曲…




『キュートなシトのココロ』




である。

アダムとかリリスとか…意味がさっぱりわからない単語がボロボロ出てくる曲。これを書いた作詞家の『T』って言う人はミサトさんから聞いた話だと感性が凄く独特らしい。…ただ、独特すぎるらしい。歌詞に出てくるよくわからない単語の意味は常人が理解しようとするだけ無駄だと言われた。


それでも凄く人気の作詞家さんで、あの渚さんの曲の歌詞も全てこの人が書いているんだそうだ。

ところで今、何故その『キュートなシトのココロ』が車内に流れたのかというと、実はこの間…今か今かと恐れてはいたんだけど、いつものように気絶させられた僕が目覚めた時いたのはレコーディングスタジオだった。(女装はしてなかった)

CDを発売するから歌えと言われた。

勿論嫌だと即答した。CDなんか出された日には、仕事が増えてユイが今以上に大忙しになる。それでまた変に人気が出たりしたらまた強制的に働かされる!悪循環だ!冗談じゃない!もうユイはやりたくないって言ってるのに!!

女装させられてなかった僕はこれ幸いと一目散にその場を逃げ出そうとした。…するとそんな僕の顔の前に一枚の紙が突きつけられた。

読んでみるとそれは契約書だった。

内容をおおざっぱに説明すると、『キュートなシトのココロ』に関する仕事が終わるまではユイとして活動する事。ただしそれが終わればネルフは今後一切碇シンジに対して仕事を要求しない…そんな感じだ。


どうせこの契約書を突っぱねたところで、僕は何だかんだと無理矢理ユイをやらされてしまうだろう。…ならば『キュートなシトのココロ』に関する仕事だけは何とか我慢して、平和な日常を約束させた方が得策だ。

僕は契約書にサインして、レコーディングを終えた。

………それが一週間くらい前。

その帰りにスケジュール表を渡された。今まで仕事の予定は気絶させられたその日に、しかもギリギリになって伝えられていたが、こうして前もってスケジュールがわかっていると気分的にも楽だ。

ほぼ毎日仕事が入ってるのにはびっくりしたけど。

でも僕が学生である事には一応気を遣ってくれてるらしくて、仕事の時間は放課後からがほとんどだった。(時々学校を休まなきゃならない時間の仕事もあったけど)

そんなワケで僕は今、合意の上でユイの仕事をしているのだ。




「自分が歌ってる声なんて聞きたくないです」
「変声期前のたまらない美声って、巷じゃ評判なのよぉ?」


「僕は好きじゃないんです。あの歌も、歌ってる僕の声も」
「つくづく、今一番輝いてるアイドルのお言葉とは思えないわねぇ」

ちなみに今日は、『キュートなシトのココロ』のジャケットに使う写真を撮りに行くところ。




どんな写真を撮るんだろう。不安だ…




***




着替えとメイク済み…つまりユイとなった僕が向かった先には、照明があてられている小さな空間が在った。

ピンク色のファーが敷き詰められた床に、赤い色のハート形クッション、可愛らしいお菓子のレプリカも転がっている。うわぁ、何て乙女チックなんだろう。素敵だなぁ。

僕は思わず回れ右した。

「ユ〜イちゃん。どこへ行くのかしら」

その僕の肩をガッシリとミサトさんが掴む。

「はっ?!…あ、足が勝手に…」
「バカな事言ってないでほら、行くわよ!」

スタッフさんやカメラマンさんに一通り挨拶を終えて、いよいよ僕は撮影に入る事となった。

頑張って早く終わらせて帰ろう…




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