僕、アイドルになります!
□ 4
1ページ/15ページ
※女の子のパンツをはかされる
学校が終わった後、僕は学校から少し歩いた道の端に停まる、一台の車に近付く。
「………。」
辺りを見回して、誰も見ていないのを確認してからその車の助手席のドアを開けた。
「おはようございます」
「おはよ、シンジ君」
運転席に乗っていたのは葛城ミサトさん。顔見知り程度だった彼女は現在、アイドルである僕の…ユイの、マネージャーをしている。
会社側から腕っ節を買われているのかは知らないけど、とりあえず僕がアイドルの仕事を嫌がって逃げようとする度に気絶させたり、脅したりして僕に無理矢理仕事をさせる(本人曰わく)敏腕マネージャーだ。
ズボラでだらしないとこもあるけど、基本的には明るいし人情味もあって良い人だ。
「僕、ずっと気になってるんですけど、業界用語での挨拶って、何で夜になってもおはようなんですか?」
「挨拶の中で敬語になりうるのがおはようだけだったからってどこかで聞いた気がするわ」
「ああ…確かにこんにちはもこんばんはも敬語にならないですね」
今日はこれから生放送の歌番組に出て、歌ったりトークしたりする。まぁ、トーク、って言ってもあらかじめ台本が用意されてるから僕はそれをしゃべるだけでいい。
「はい、これ台本。」
信号で停まっている時、ミサトさんが僕に黄色い表紙の本を渡してきた。表紙には番組名だけが書かれている。
もうすぐ、ユイのファーストシングルでありラストシングルにもなる『キュートなシトのココロ』が発売するので、僕の台詞は主にCDの事についてだ。司会者がここに書いてある通りに聞いてくる質問に対して、ここに書いてある通りに答えて、それから買ってね!ってカメラに向かって笑顔で手を振る。…それから歌って、後は番組終了までニコニコ笑って座っている。
これが今日の仕事。
「………………。」
何度も何度も自分のパートを睨みつける。仕事前も仕事中も、いつも緊張している僕だけど、今日は特別緊張していた。何故なら今日は、生放送。絶対失敗できない。
その上綾波や渚さん、惣流が一緒に出るんだ。
綾波とはすっかり友だちみたいになってるから一緒に出られて嬉しかったりするんだけど、惣流は僕も綾波も嫌いらしいし、思ってるだけならともかく打ったり、露骨に態度に出すからあまり近寄りたくない…。それと渚さんは…
渚さんは…。
ちょっと前まではただただ怖いっていう印象が強かったけど、この前渚さんは仕事で僕を助けてくれた上に誉めてくれて、『期待してあげてもいい』とまで言ってくれた。…だから渚さんの前では失敗したくない。期待を裏切りたくない。
あと今日こそ、渚さんに怒られないように自分からしっかり挨拶するぞ。(僕は渚さんに会う度、基本的に挨拶の事で怒られていた)
「ユイ」
「はい」
だいぶ『ユイ』と呼ばれる事に慣れてきていた。
少し前までは、ユイは母さんの名前でもあるし違和感があったんだけど、この頃はユイ=僕だという自覚が出てきた。
「今日はあなたに私からプレゼントがあるの」
「プレゼント…ですか?」
ミサトさんからの意外な言葉に思わず運転席の方を見ると、でも、ミサトさんは真面目な顔を崩さないまま前だけを見ていた。
「つっても、仕事に必要な物だからあんまり喜んでもらえないかもだけど」
「そんな事ないですよ。嬉しいな、プレゼントなんて」
そう、プレゼントなんて、贈ってもらえたらそれだけで嬉しい。例えそれがどんな物でも贈ってくれる気持ちが嬉しいんだ。
「楽屋に着いたら渡すわね」
僕は緊張した心がほんの少しだけ解れるのを感じながら楽屋に着くのを待った。
*