僕、アイドルになります!

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※学校での話




「あっ、ちょ、やめてよケンスケ!」
「なぁ…シンジ、頼むよ…良いだろ…頼むよ…」

「イ、イヤだったらっ!」

僕はケンスケが向けるカメラの、レンズ部分に手のひらを押し付けた。

「ちぇーっ、いいじゃないかちょっとくらい…」

いじけたように唇を尖らせるケンスケに、それでも僕は折れなかった。

「僕の写真なんて売ったってしょうがないだろ!」

何に折れなかったかというと、それはケンスケが僕の写真を撮る事について。

ケンスケは時々、人気のある女子生徒の写真を(本人の了承無く)撮ってはこっそり校内で売りさばいていたりする。
そういう事をするのは大概プラモデルか何かを買うのにお金が必要な時だ。

それで今回もお金が必要になったらしくて数日前から常に右手にカメラを持っている状態。…まぁ、それは別に良い。誰かから止めさせろと言われればやんわり注意する事もあるかもしれないけど、今のところそういう話はこないし僕に被害が及ばないなら何も言わないよ。


けど、僕に被害が及ぶなら話は別。

何故か今回、ケンスケはやたらカメラのレンズを僕に向けたがる。もともと写真とか苦手だから(僕程芸能界に向いてない奴はいないと思う)その度にそっぽを向いたりして何とか逃げてるんだけど、ケンスケはめげずにしつこく僕を捉えようとする。

だんだんそのやり取りにうんざりしてきて理由を聞いたら、ケンスケは僕の写真を売りたいのだと言った。断った。




朝のホームルーム前の教室。




席に着いて机の横に鞄を引っ掛けている僕のところへカメラ片手にやってきたケンスケ。………を警戒していたら早速この有り様だ。




「それがしょうがなくないんだって。あ、これやるよ。お前甘いの好きだろ?」

ケンスケは僕の機嫌を取ろうとしているのか、ニコニコ笑いながらカスタードメロンパンを僕に寄越した。…購買で買ったんだろう。

「………もらうけど写真はやだからね」

僕はそれを受け取って袋の口を開けた。…実は昨日も夜までユイの仕事があって疲れていて、今朝は寝坊をしてしまったのだ。そして朝ご飯は抜き。僕はお腹がすいていた。


「ゥウン、シンジィ…頼むよぉ〜」
「やだって言ってるじゃ…うわ!!」

メロンパンを頬張る僕に、突然ケンスケが抱きついてきた。

「な、ちょっとだけ、な?シンジィ、シンジ様ぁ」
「ちょ、ちょっとケンスケ近いよ!」

「撮らせてくれよぉ…。撮らせてくんないとほっぺ舐めちゃうぞぉ」
「!!!!!!!」

ザワッと肌が粟立った。

いくら冗談でもそれはキツい。

間近にあるケンスケの顔を見ると、チロッと赤い舌を出して僕を見ている。…あれ?…何か目が冗談ぽくないんだけど…

「撮らせて」
「…やだ」

ケンスケの顔が、近付いてきた。

「う、うわぁああっ!!!」

メロンパンを机に投げてケンスケの髪を掴み、額に手を置いて突っ張った。

「シ〜ン〜ジィ〜」

けどケンスケは尚も近付いてこようとする。い、嫌だ、絶対嫌だ!!

そろそろ殴って止めてもいいだろうかと思い始めた時、でも先に誰かがケンスケの頭に拳を振り下ろした。

「ええ加減にせんかい!」
「いてっ!」

見上げると、そこには見慣れた、年中無休の黒ジャージ。


「トウジ!」
「おはよーさん。自分ら朝っぱらから何しとんのや。ごっつ目立っとんで」

トウジは僕からケンスケをひっぺがして、その額にデコピンを食らわせた。

いてっ、とケンスケが顔をしかめる。

「っとにしょーもないのぉ。まだ諦めてへんかったんか」
「だってしょうがないだろ!シンジのがダントツで人気だったんだから!!」

そこまでされてケンスケはようやくカメラを机に置く。

ん?ちょっと待って。今何かさりげなく聞こえたような。

「………ケンスケ。今、何て言ったの」
「だから、シンジのがダントツで人気………あ」

僕の…何が…ダントツで人気?




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