僕、アイドルになります!

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「それで?」
「え?」

チラッと視線だけで見上げると、渚さんは腕組みをして僕を見下ろしていた。

「あるのかい?これから」
「な…何が…ですか…?」

「楽しい事が、さ」

ドキッとした。

え…?あれ?叱るんじゃないの?

いや、それより何でそんな事聞いてくるんだろう…

「どうなんだい」
「え…えっと…その」

僕も何、口ごもってるんだろう。別にやましい事なんてないんだから普通に綾波とイルミネーションを見に行くって答えればいいものを。

「生放送の本番中にも関わらず、つい浮かれてしまう程に楽しみな事って何なの?」

どうしてだろう。何だか…何でかはわからないけど後ろめたい…ような…。あんまり答えたくないような…

「ユイさん」

でも、いつまでも黙ってるわけには…

「あ…僕…」

その時だった。

「カヲル、あんまりユイをいじめないで」

すぐ側で綾波の声がした。

顔を上げると、綾波が渚さんの隣にぼんやりと立っていた。


「レイ。人聞きの悪い事を言わないでくれないか。僕がいつユイさんをいじめたんだい」
「いつもいじめてる。今も」

いじめてるとかいじめてないとか。

二人の交わす会話に僕は落ち着かなくなって、思わず口を挟んだ。

「ち、違うんだよ綾波。僕が悪いんだ」
「ユイは悪くないわ。だってカヲルは―――…」

渚さんが何か口を開きかけた。するとでも、全く別の方向から聞き覚えのある声が先に割って入ってきた。

「いやぁお疲れお疲れ、渚君、レイちゃん、ユイちゃん、みんなお疲れさん!」

僕たち三人が声のする方を振り返ると、スーツを程よく着崩した(けどだらしなく見えるどころか、逆にちょっとカッコいい感じに見える)男の人が手を振りながら近付いて来るのが見えた。

この間初めて会った人だ。

長めの髪を後ろで一括りにした、無精髭のある大きな男の人。ミサトさんとリツコさんの知り合い。

多分惣流のマネージャーさん。


確か名前は…加持さん…だったはず。あの日舞台裏で、ミサトさんとリツコさん、そしてこの人が話をし始めた時に、話の内容はわからなかったけど、やたらミサトさんが加持、加持、と嫌そうに呼んでいたのは聞こえていた。

「ユイちゃんはこの間初めて会ったよな。自己紹介が遅れたけど、俺は加持。加持リョウジ。アスカのマネージャーをやってるんだ。よろしく」
「あ、ど、どうも…ユイです…」

ニコニコ顔の加持さんが手を差し出してきたので、僕も手を伸ばして握手した。

すると、急に加持さんの表情が神妙なそれになる。

「あとアスカの事なんだが、この間はすまなかった」

この間…。

思い出したくもないけど、パンツ丸出し事件の事だ。

「意地悪な子じゃないし、根はいい子なんだ。…いろいろあって少し気が強い風に振る舞ってたりするんだが、本当は優しい普通の女の子なんだよ。だからどうか、あの子を嫌わないでやってほしい。」
「は…はぁ…」


加持さんはそう言って握手する僕の手にもう片方の手も重ねてきた。

「ありがとうユイちゃん。俺からもアスカによく言…」

その時だった。

「あ―――――――――ッッ!!何やってんのよッッ!!!」

今話していたまさにその惣流・アスカ・ラングレーの叫び声がスタジオ内に響き渡った。

加持さん越しに、真っ赤なワンピースを激しく揺らしながら早足でズンズン近付いてくる彼女が見える。その突進はなかなか止まらず、僕の目の前までやってきて、そして

「この泥棒猫ッッ!!!」

僕は惣流に左頬をひっぱたかれた。




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