僕、アイドルになります!

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※クリスマス




クリスマスって言ったら、毎年母さんと二人でコタツにあたりながらご馳走を食べたりケーキを食べたりして、ダラダラとテレビを観て過ごすのが常だった。

だけど今年、僕は家でダラダラテレビを観て過ごすわけにはいかなかった。

何故なら『テレビ画面の中』にいなければならなかったからだ。

一年後、観る側ではなく観せる側の人間になっているだなんて、去年の僕がどうして想像できたろう。




しかも女装してアイドルになって。




その上更に、CDまで出してるなんて。




実は今日、12月25日。

僕の、ユイのファーストシングル『キュートなシトのココロ』が発売された。

今はその宣伝の為に歌番組の生放送に出ている。


初めて生放送に出た時文字通りオオゴケしてしまった僕はかなり緊張していたけど、今回はバッチリ。さっきインタビューと歌、それからちゃんと宣伝も終わらせた。…無事に!

あとは適当にニコニコしてれば終わるので、後ろの方の席で大人しくしている事にする。

自分の番を終えたから気が抜けて、それで今更気付いたけど僕の今日の衣装は雪みたいに真っ白なノースリーブワンピースだった。全体的にファーが着いていて触るととても気持ち良い。猫を撫でてるみたいな感じでとても和む。

僕はスカートのファーをいじりながら、綾波の歌う『私がいっぱい』や惣流の『恋する☆MAGMA☆GAL』、渚さんの『月から見てるよ』を聴いた。

三人の歌も他のアーティストさんたちの歌も、当たり前だけど凄く良くて感動した。

クリスマスの日に仕事なんて最悪、とか思ったけど、テレビ越しに見る人たちの歌を生で聞ける仕事なんて、実は凄く贅沢な事だなと思った。


それに、この生放送が終わったら僕は綾波と二人でイルミネーションを見る約束をしている。

勿論『いつも通り』のまま外に出るわけにはいかないから、変装する予定だ。

昨日までどんな風に変装しようか、なんて笑いながら話し合って、結局厚着して、いつもと違う色、髪型のウィッグとカラコン、ついでにマスクなんかを着けちゃったりする方向で落ち着いた。

綾波には他に好きな人がいる事、知ってるけど、可愛い女の子とクリスマスに二人きりでイルミネーションを見て回れるなんて、僕としてはまるでデートみたいで嬉しい。

…まぁ、綾波の方は僕の事を女の子友だちとして見てるんだろうけど…

そんな事を考えていたら、ふと、司会者の人たちがカメラに向かって手を振っているのが見えた。

ハッとして見回せば周りの人たちも手を振っている。

番組が終わったんだ!

慌てて僕も手を振った。




「ユイさん」


番組に出演した人たちがぞろぞろと席を立ち、あちこちでお疲れ様、と挨拶が交わされる中、渚さんが僕に話しかけてきた。

「あっ、渚さんお疲れ様です」

渚さんが『お疲れ様』を言わない内に素早く頭を下げる。うん、よし、やったぞ。先に言えた。

「お疲れ様は良いんだけど、ユイさん。君、最後に手を振るタイミングが少し遅れたね」

ギクリ。

あ…まずい。見られてた…

「本番中にぼんやりするなんて、この後よっぽど楽しい事でもあるのかな?」

す、鋭い…!!

「…す、すいません…っ!」

頭を下げたまま、僕は仕事中に気を抜いてしまった事を今更ながらに後悔した。

叱られる…!!

ああ、どうしてこう、僕は顔を合わせる度に渚さんから叱られてしまうんだろう。




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