Short

□ 4*
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※シンジ君高校生活スタート




笑わない奴

しゃべらない奴

何考えてるかわかんない奴

…それがクラスメイトからの、僕に対しての評価だった。




高校生になった僕は、また渚カヲルの存在に怯えながら日々を過ごさなければならなかった。

入学式の日、新入生歓迎の言葉を渚カヲルが体育館の壇上で読み上げているのを見てため息が出た。そういえば生徒会長になったと、この間夜中にアイツのベッドの中で聞いた気がする。アイツはいかにも優等生の顔をして体育館中から拍手を受けていた。




次の日の昼休み、早速渚カヲルが僕に会いに来た。

僕にしてはなかなかはやくにできた友だちと教室で、同じ机の上に弁当箱を並べていた時だった。

渚カヲルは我が物顔で教室に入って来ると、やぁ、と、似合わない『お出かけ用の』笑顔を張り付けて僕の真横に立った。教室内がざわめく。…まぁ仕方ないだろう。コイツの容姿は目立つし、その上昨日壇上で挨拶をしていた生徒会長なのだ。昨日入学したばかりの新入生の教室にいたら誰だって何事かと思ってしまう。

「こんにちは、渚先輩。何か用ですか」

思い切り他人の顔をして言えば渚カヲルはニヤリと笑って首を傾げた。

「碇君、もう友だちができたんだ。良かったね」

おかげさまで。

応えながら僕は渚カヲルが変な事を言い出しやしないかとヒヤヒヤした。すると渚カヲルは、今度は僕の目の前にいる、友だちに向かって笑いかけた。

「碇君と仲良くしてね」

友だちは緊張した様子でハイと応える。

「先輩、僕に何か用があるんじゃないんですか」

せっかくできた友だちに下手な事を言われてはかなわない。僕は渚カヲルの意識をこちらへ向けた。

「大した用事じゃないから後にするよ。お昼を邪魔したら悪いから」

渚カヲルはそう言って出口の方へ歩き出した。

「また後でね、碇、君。」

他の人からしてみれば何の事もないといった言葉だろう。…でも、僕にとっては体中を悪寒が走るには十分過ぎる言葉だった。

『また後で』

それはつまり、放課後の事なのだから。

渚カヲルの玩具になる、放課後の…

「碇君、生徒会長と知り合いだったんだ」

友だちがホッと息を吐きながら聞いてきたので、僕はお決まりの表情とお決まりの言葉で機械的に応えた。

「知り合いって程のものでもないよ…」




その日の放課後、渚家に帰るなり僕はアイツの部屋に呼び出された。

中学生だった時と違って呼び出されれば5秒で部屋に行けるようになった。何故なら今や僕の部屋は渚カヲルの部屋の隣にあって、しかもドア一枚隔てて繋がっているのだから。

元々この部屋もアイツの部屋の一部で、自分じゃ使わないし呼び出すのにも便利だから、と最近僕に与えられた。

前の狭っ苦しい部屋に比べて、広いし綺麗だし、使用人には有り得ない豪華さだけど、僕は勿論嬉しくなどなかった。

気軽に行き来できるようになり、渚カヲルがしょっちゅう入り込んで来てはなんだかんだとちょっかいを出してくるようになったのだ。夜中だろうが僕が寝ていようがお構いなしに。

「新しい友だち、できてよかったね。…シンジ君。」

あの日、

僕が初めて渚カヲルに抱かれた日。

あれ以来、僕は何度か体の相手をさせられた。それは決まって渚カヲルが不機嫌な時に行われる。そして今、目の前で笑いながら話す渚カヲルが不機嫌であると僕は気付いていた。

「嬉しい?」

嬉しくない、と答える方が良い気がしたが、僕の嘘など渚カヲルにはすぐバレてしまうだろう。…ならば、どうすれば。

「嬉しいんだ?ふーん」

今日学校で何かあったのだろうか。

コイツは何かあって不機嫌になると、まるで僕が何か仕出かしたからだという雰囲気にして、悪い子にお仕置き、とでも言うようにそっちの展開へと持っていく。

今だってそうだ、僕に友だちができる事が、嬉しいのがいけないかのような雰囲気だ。

それとも自分の玩具が楽しそうにしているのが気に食わないのか。

「よかったね、シンジ君」

何も答えない僕に、渚カヲルは笑顔のままベッドに腰掛けて首を傾げた。

「脱いでこっち来て。」
「………。」

ああ、やっぱり。

僕は気持ちがガクンと沈むのを感じた。また、アレをしなきゃならないのか。

「はやく」

少し低くなった声にチラと渚カヲルの顔色を伺うと、顔からは笑顔が消えていた。僕はやたら体が重くなったような感覚を覚えながら服を脱いでベッドに向かった。

学校で何かされなかっただけまだマシだと自分に言い聞かせた。




***




「シンジ君、これからは学校であんまり喋っちゃダメね」

セックスが終わった時、辺りはすっかり真っ暗になっていた。

暗闇の中で渚カヲルの穏やかな声がする。コイツはセックスの後やたら機嫌が良くなる。抵抗できない人間相手に無理矢理体を開かせるというのは本当に良いストレス発散になるのだろう。…僕はしてみたいなんて思わない。

それから、僕を抱きしめて頭を撫でる。これも必ずだった。不本意だが、その、頭を撫でられる事だけは嫌いではなかった。

「わかった?シンジ君。学校であんまり喋っちゃダメだからね」

だるくて、声を出すのが億劫だったが僕は何とかハイと応える事ができた。




次の日、絶対に喋るなと言われていなかった僕は友だちと話をしながら移動教室に向かっていた。

「男子校って本当に男子しかいないよね」

不意に友だちがつまらなそうに言った。まぁ、男子校だからね。と応える。

「ああ、むさ苦しい。高校生活三日目にして何だけど、多少レベルが低くても共学に通う奴らが羨ましくなってきた。こうなったら知り合いに頼んで合コンとかやっちゃおうかな。碇君も来るだろ?」

合コンか。緊張しそうだけどちょっと興味ある。…まぁ、行くなんて無理な話ではあるけど。

でもいきなり断ると怪しまれる。誘われたらその都度用事やバイトを理由に断れば良い。とりあえずは頷いておこう。

「誘ってくれるなら、行ってみようか」

な。

と、言い終えた瞬間だった。突然手首を掴まれた。

「碇君、ちょっといい?」

かけられた声に思わず青ざめる。

何でこんなところに。

「あ、渚先輩こんにちは」

友だちが後ろを振り返って丁寧に挨拶をする。

怪しまれちゃダメだ、

動揺を隠し、僕も振り返って挨拶した。

「あの、先輩、僕たち今移動教室で…」
「すぐ済むから」

僕の返事を聞かない内に渚カヲルは僕を引きずるようにどこかへ連れて行く。友だちがキョトンとして僕らを見送るのが見えた。

「渚先輩っ、」

絶対に放さないと言う風に掴まれた手が、骨が折れるんじゃないかというくらい痛い。




僕は生徒会室に連れて来られた。




どんな部屋なのか見渡す暇もなく、乱暴にソファーに投げ出される。

「何で約束破ったの、シンジ君」

僕を見下ろしながら、恐ろしく低い声で渚カヲルが言った。え、と声を出すと

「昨日!!喋っちゃダメって言っただろッ!?」

怒鳴られた。

…怒鳴る程、渚カヲルが怒るのは珍しい事だった。しかも学校でなんて。

僕が友だちと口をきいたというだけで、どうしてこんなに怒るんだ。それに絶対喋るなとは言われていない。

「そんな…僕、少し喋っただけで…」

余りにも理不尽だったから、ちょっと口答えをしてしまった。その瞬間だった。

僕は左頬を平手打ちされた。

「口答えするな!僕の所有物のくせにッッ!!」

打たれるなんて、初めてだった。僕は突然の事に呆然としてしまって、覆い被さって来た渚カヲルに一瞬反応が遅れた。

「生意気なんだよ…!所有物は所有物らしく僕だけ見て、僕の言う事だけ聞いてれば良いんだよ!!…言っとくけど外出なんか絶対許さないからね…」

僕は多分、その時の渚カヲルの顔は一生忘れられないと思う。

殺されるかもしれないと本気で思った。

今まで玩具扱いされはしていても、少なくとも嫌われてはいないと思っていた。…でもそれは間違いだったかもしれなかった。

心底憎んでいる相手を見るような目で見下ろされていた。

怖い、

思わず体が震えた。

言われた言葉に関して考える余裕なんて全くなかった。

渚カヲルは構わず僕のベルトに手をかけた。そこで我に返った僕は、慌ててもがく。

「な、何考えてるんですか!やめて下さい!やだ!や…ンン!!」

大きな手が僕の口を塞いだ。

片手でズボンを脱がされた。

「ウルサいな、黙れよ。静かにしないと人来るよ」

下着を剥ぎ取られた。

「ンン…ンンン―――!!!」

僕はせめてもと両手で、渚カヲルの目的である場所を隠して塞いだ。こんな場所で、学校で、絶対に入れさせるものか。

「あー、そう。そういう事するんだ。よっぽど酷くされたいわけ」

渚カヲルは僕の口から手を放すと、両手を使って僕の体を反転させ、うつ伏せにした。

「カヲ…っ!?」

そして、腰を持ち上げられ、尻に固いものを押し付けられる。ズボン越しでもそれが何かなんてわかりきっている。僕は青ざめた。

「やだ、やだ!やめて下さいカヲル様!!学校はやだ!!学校はや…っン!!」

再び喚きだした僕の口を塞いで、そして、渚カヲルは信じられない事に

「ンゥッッ!!!!」

僕の首に思い切り噛みついてきた。

まるで発情期のオス猫が暴れるメス猫を押さえつける為にそうするように。

顔をソファーに押し付けられ、腰だけ突き上げさせられるという、恥ずかしい格好をさせられた。

こんな、獣みたいな格好をさせられるのも、獣みたいな事をされるのも、ましてや学校でキス以上の事をされそうなのも初めてだった。

僕はひたすら恐怖した。

「ン…ンン…」

やめて、と、口を塞がれながら、言葉にならないとわかっていながらも懇願した。

腰の方からカチャカチャとベルトを外すような音が聞こえてきた。思わず身を捩ろうとすると噛まれたままの首が更に激しく痛んだ。

熱い何かが僕の入り口にあてがわれ、そして―――…




***




僕は仰向けに寝かされ、大きく開脚させられていた。

渚カヲルの指が僕の中に入っては濡れた音と共に出し入れが繰り返される。

「切っちゃったね、血、出てる」

ドロリとした何かが出て行く、

僕は今所謂、事後処理というものを受けている。

「もう、学校では絶対喋っちゃダメだよ。」

何もかもどうでも良くなっていた。渚カヲルがそう望むなら、そうすれば良いのだろう。

心を、もっともっと殺して生きれば良いだけだ。

「ああ、でも先生からの質問に答える時は喋っても良いよ。…僕って優しいね」

もう、絶望すら感じない。

僕が僕でいられる場所は、穢されて、無くなってしまった。




僕はその日、身支度を整えてから頭痛を理由に放課後まで保健室に避難した。移動教室の時間はとうに終わり、次の授業が始まっていたから保険医の先生以外には腫れた目を見られずに済んだ。




次の日、朝から挨拶もそこそこに友だちが僕を心配してくれた。昨日はどうしたの、という問いを僕は無視した。

それからも何度か話しかけてくれたが、全て無視した。

その内話しかけて来なくなって、他のクラスメイトも誰も話しかけて来なくなった。

僕はまた、ひたすら勉強に入れ込んで学年トップになった。

誉めてくれるのは専ら教師と、それから渚カヲル。

嬉しくなどなかったし、中学生の時に感じた『生きている』という実感もあまり沸かなかった。

ただ数字だけが、嘘も誤魔化しもない数字だけが僕の頑張りを認めてくれているようで、下がるのは嫌だった。




「笑わない奴、しゃべらない奴、何考えてるかわかんない奴…。知ってますよ、みんなが僕の事をそう言ってるって」

夜、渚カヲルの部屋で、渚カヲルに抱かれながら応える。

別に機嫌が悪い訳ではないようだったが、求めて来たので抱かれた。

「別に良いですよ…友だちなんていらないし…」

嘘を言えば、渚カヲルは僕の上で、良い子、と言って笑った。




オワリ。

+++

(^▽^)次回完結!

10.07.11
 

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