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※嫌がらせがエスカレート
夜の11時ともなれば、もういい加減寝かせてくれたって良いと思う。ただでさえ学校にいる以外の時間はほとんどアイツの為に裂いてるんだ。
朝は寝間着からあの白黒のピラピラに着替えてアイツを起こしに行って朝食を運んでお見送りして、それから慌てて制服に着替えて簡単な朝ご飯を5分で済ませてから登校。
放課後は寄り道なんてしている暇はなく、友だちとの下校すらもうできない。アイツより早く帰って来てあの白黒のピラピラを着てお出迎えしなければならないからだ。
その後は屋敷内で顔を合わせる度(あんまり避けてると捜されるか呼び出される)くだらない申し付けを何度も受けなければならない。例えば、膝枕しろだの耳掃除しろだの肩もみしろだのお菓子をアーンで食べさせろだの、本当にくだらないものだ。暇潰しに使用人で遊ぶなんて本当に良い趣味してる。僕はアイツのおかげで金持ちが嫌いになった。もう、金持ちと聞くだけで反吐が出そうなくらいに。
金持ちがそんなに偉いのかよ。なんて叫びたくなるけど、実際この世の中は沢山金を持った人間ばかりが生きていく上で何事も有利なのが現実なのだ。それは今、身をもって体験中であり、これからも一生味わいながら生きる事になるのだろう。
…そんなこんなで屋敷内では自由がほとんど無い。宿題やる暇があるなら睡眠時間にあてたいくらいだ。(だから宿題は学校でやってる)
けれどついこの間から、僕は自分の部屋の、ベッドのすぐ脇に取り付けられた忌々しい存在のせいでその、睡眠時間すら削られ始めた。アイツの新しい玩具みたいなものだ。…いや、正確に言えば玩具の新しいパーツみたいなものか。
ソレは夜中になると警報のような音を出して僕を苛つかせる。
ビ―――ッ!!ビ―――ッ!!
「〜〜〜…っ。」
これが鳴ったらアイツの部屋に行かなくてはならない。…つまり呼び鈴みたいなものだ。昨日も一昨日も呼び出された僕は、どうせ今夜も呼び出されるだろうと白黒のピラピラを着たままベッドに仰向けに寝転がっていた。
思いっきりしかめっ面で体を起こすと、それでも早足でアイツの部屋に向かった。
「…お呼びでしょうか」
ノックして、中から返事が聞こえたのでアイツの部屋のドアを開ける。当然だが中は、僕の部屋とは全く違う。広くてやたら高そうな家具が並んでいる。
「うん、こっち来て」
アイツは部屋の真ん中に立って僕を待ちかまえていた。昨日もそうだった。
一昨日は、座ってた。そしてわざわざ呼び出しておいてこう言った。「別に用はないんだけど。」………真面目な話、前歯全部折ってやりたくなった。
そしてアイツはその後、せっかく来てくれたんだから何かしないと、とか楽しそうに呟いて何故か「動くな」と命令した。
言われた通りその場にただ突っ立っていたら、アイツは突然僕の顔を舐め出した。それが気持ち悪くて顔を背けようとすると、再度「動くなよ」と命令される。…その日は結局、訳もわからず10分くらい顔を散々舐め回されて解放された。
次の日、つまり昨日は、やっぱり「動くな」と命令されてまた顔を舐められるかと思ったら、今度は首筋を舐められた。異様な感触に鳥肌が立った。制止の意味も含めて思わず何故こんな事をするのかと聞いてしまったが、アイツはただ意地悪そうに笑うだけで何も言わなかった。
「動くな。」
今日も、同じ命令。
僕は嫌な予感がしていた。そしてその予感が見事的中したのだと知るのはすぐだった。
アイツの手が、僕のブラウスのボタンにかかったのだ。
「え、ちょっ、と」
思わず制止の声を上げるがまた「動くな」と言われて容赦ない手つきでブラウスの前を開かれた。それから邪魔、とでも言うように、首の辺りで結ばれた赤いリボンをぞんざいに解いて床に落とす。
アイツは、少し屈んで僕の胸に舌を這わせた。
「っ。」
昨日より、更に異様な感触だった。
自分でも意識して触った事がない場所を、ましてや人に触られた事がない場所を、しかも舌が。自分と同じ男の舌が触れている。在る、という程度にしか思っていなかった、男には使い道がない胸の突起を重点的に。
気持ち悪い、何なんだコイツ。男の胸をそんな風にして何が楽しいんだ、変態野郎。
僕は今きっと嫌悪感丸出しの顔をしていると思う。その証拠に、夢中で僕の胸を舐め回していたアイツがふと僕を見上げてきて、目が合った途端ニタァと意地悪そうに笑ったからだ。アイツは僕が嫌そうな顔をするとやけに楽しそうな顔をするのだ。
それから、軽く歯を立てられる。
「んっ」
気持ち悪いのに、この変態の緩慢な舌の動きに何故か上がりそうになる息を抑えていた僕は、けど突然走った刺激に思わず声を上げてしまった。
赤い瞳が嬉しそうに細められたのが見えて、悔しくて顔を背けた。
「!?」
でも直後、アイツの舌が、スルスルと下に向かっていく感覚に慌てて視線だけ戻す。
やがて舌は、へそのところで下りるのを止めて、今度はへそを執拗に舐め出した。何が楽しいのかはわからないけど本当に気持ち悪い。
その日は舐め回す範囲が広かったからか昨日より長い時間変態趣味に付き合わされた。
部屋に戻って来た僕は、既に一度お風呂に入っていたけどアイツに舐め回された体を洗う為にシャワーを浴びる事にした。
屋敷内には風呂場が無意味に6つもある。その中で一番使われない、一階の風呂場に向かう。住み込みで働いている使用人は僕だけなので、誰かと顔を合わせる事はない。
明日も早いので軽くシャワーだけ浴びようと考えながら脱衣場で服を床に落とした。
「…何で」
そして僕はある事に気付いて愕然とした。
視界に、下着を押し上げる僕自身の姿が入ったからだ。
あんな変態じみた気持ち悪い事をされてこうなるなんて、僕ももしかしたら変態なんだろうか。………冗談じゃない、違う!
自分のプライドにかけて僕は、絶対に自然におさめると決めた。
***
次の日、僕は朝から憂鬱だった。
学校で友だちから体の具合を心配された程だ。何が憂鬱かなんて、勿論あの変態野郎の事で、に決まってる。
顔、首、胸、腹。
夜中に呼び出されて受ける変態行為。段々舐められる箇所が下に向かっている事に気付かなかった訳じゃない。
もし、今夜も呼び出しがあったら、かなりヤバい事になるんじゃないだろうか。…まさかとは思うけど…いや、そんな事は流石にしないだろうけど…。でもあんな変態の考えてる事なんて僕にわかりっこない。
それに、今まで僕の期待が裏切られなかった事なんてあったろうか。
来なければ良いって思う放課後も毎日やって来るし、事故にでも遭えば良いって思っていても、アイツは今日も何事もなく屋敷に帰って来る。鳴らなければ良いって思っていても、
ビ―――ッ!!ビ―――ッ!!
今日も呼び出し音は鳴る。僕の期待を裏切って。
ビ―――ッ!!ビ―――ッ!!
「………。」
いつもなら、すぐに部屋を出てアイツの部屋に向かうところだが、今日は体がそれを拒絶していた。寝転がっていたベッドから上半身は起こしたものの、足が床に降りようとしない。
まさか本当に今日も呼び出されるなんて。
多分、無抵抗な使用人に嫌がらせ目的でするお遊びなんて、冗談で済ませられる範囲で終了する。
ビ―――ッ!!ビ―――ッ!!
そう、思っている僕。そう、期待している僕と、
ビ―――ッ!!ビ―――ッ!!
鳴り止まない呼び出し音。
だって、だって嫌がらせする方だって自分と同じ男のモノなんて口にしたくないだろう!?嫌がらせしたいだけでそんな事まで普通しないだろう?!
嫌だ、行きたくない。行ったら、僕は、僕は…
ビ―――ッ!!ビ…
「…!」
呼び出し音が、止んだ。
「………。」
また鳴るかもしれないと、身構えてみるもなかなか次は鳴らない。
諦めて、くれた?
いや、疲れて寝てしまったと、思ってくれたのかも。…とにかくよかった、と息を吐いた。
ガチャッ、
「!!」
その時だった。誰かがノックもなしにドアを開けようとして、でも鍵がかかっていてしくじる音が聞こえた。…しかも明らかに、この部屋の。
まさか、と思うのとカチャリ、と鍵を開けたような音が鳴ったのは同時だった。
「何やってんの?呼んでるんだけど。」
嘘だ嘘だと頭で否定しても、視界に入る現実は僕をどん底に突き落とした。
屋敷の主が使用人の部屋にわざわざ鍵を開けて押し入って来たのだ。…恐らくは僕に嫌がらせをしたいが為に。
「あ…っ、僕」
強引な行動と不満気な言葉の割に、アイツは楽し気に僕を見ていた。理由なんてわかりやすいものだ。僕は今、主人の絶対命令に堂々と背いてしまった後ろめたさと、これからされるであろう行為に対する恐怖からかなり情けない顔をしているだろうからだ。
アイツはベッドの上から動けないでいる僕の所に近付いて来た。
「!」
僕はとっさにベッドから降りると、アイツと距離をとった。…といっても、もともと狭い部屋なので高が知れているけれど。
「何で逃げんの?」
クックッ、と笑いながらアイツは足を止める。
「動くな」
そして、余裕綽々というのがぴったりの表情で昨日と同じ命令を僕に下した。淡々とした言い方だった。
そうやって僕を動けなくしたところで、ゆっくりアイツは近付いて来る。
「ご主人様の命令を無視するなんて、悪いメイドだね。」
心底楽しそうに言って、何も言い返さない僕に唇を押し付けてきた。…そして当たり前のように唇を割って舌を入れてくる。気持ち悪い。何度されても慣れない。
「あは、シンジ君えっちな顔。」
訳がわからない事を言って、次にアイツは、目の前で跪いた。体が硬直する。アイツの銀色の頭が、僕のスカートの中に潜り込むのが見えた。
「や、やだっ!!」
反射的に体が動いていた。スカートを押さえて身を引くと、スカートの中からアイツの顔が出てくる。
「動くなって言っただろ。また命令に逆らう気?」
「でもっ、こ、こんな事…変、です」
流石に少し眉を寄せたアイツに、僕は恐る恐る言い返した。
「僕、男だし、あの、カヲル様ならこういう事、とか喜んでしたがる女の子、いっぱいいると思うし、だから、」
けどアイツはそんな僕を鼻で笑った。
「借金のカタの君がそんな態度だと、君の父親もどうにかしないといけないかもね」
「え…っ?」
「だってそうだろ?君の父親から身も心も僕の所有物にして良いって言われたのに君、思い通りにならないんだもん。詐欺じゃないか」
「…。」
父親。僕を売り飛ばした憎い父親。アイツが酷い目に遭う。僕のせいで、酷い目に遭う。…遭えば良い。そうだ、遭えばいいんだ、僕が今どんな思いをしてるか思い知れば良い!
「…下着、自分で下ろして、スカート持って上に捲って。」
「え…」
「聞こえなかったの?下着下ろして、スカート捲り上げろって言ったんだよ」
は?何でまた命令するんだ?
だって、どうしてそんな事を僕がする必要がある?僕は父親を恨んでるんだ、むしろ命令を無視した方が僕には特があるのに。…馬鹿なの?
「そう、良い子。やればできるじゃないか。」
…馬鹿なの?…馬鹿だろ、僕は。
「え?泣いてんの?…あはっ、シンジ君が泣〜いちゃった」
何で馬鹿みたいに言う事聞いてんの?父さんの事なんかどうだって良いはずなのに何でこんな、何で!
「大丈夫だよ、シンジ君がゆーことちゃんと聞いてくれてたら君のお父さんには何にもしないからさ」
僕はせめて、アイツの顔が視界に入らないように両手で持ったスカートを広げた。
+++
ごめん楽しい。意地悪渚君楽しすぎる。
この渚君の精神レベルは甘やかされて育った超ワガママなガキンチョとお思い下さい。んで生意気なツンジ様が権力によって無理矢理言う事聞かされて屈辱を味わうとかそういうとこに萌えて頂ければ幸いです。
…まだ不完全燃焼だなぁ…
10.04.22