Short
□見ない、聞かない、絶対、言わない。
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※嫉妬
「何すんだよ!」
シンジ君は僕を突き飛ばして距離を取った。
シンクロテストが終わった後、更衣室に入ったところで僕がいきなりシンジ君にキスしたからだ。
「だって今、いかにも過呼吸になりそうな顔してたから」
嘘だけど
「そんなわけないだろっ!!」
うん、その通り。そんなわけない。
したかったからした。
ファーストを見る君の目に苛ついたからした。
「そんなに嫌がる事ないだろ」
「嫌だよ!」
僕を見る君の目はいつもだいたい怒ってるかつまらなそうにしているか。…何が気に食わないんだよ。
「男が男にキスするなんて普通じゃない!」
「普通じゃないと何がダメなの?」
「僕が嫌だ!!」
もう君が知ってるファーストはいないのに、いつまでも新しいファーストの中に前のファーストを追い求めてる。
気に入らない。
僕が側にいるのに。
もういない奴の事なんかさっさと忘れればいいのに…
「もう、いいから僕に構うのやめてよ…」
「僕は君が好きなのに」
「僕は好きじゃない」
「………………。」
シンジ君はロッカーから着替えを出すと、僕から一番離れた壁際でプラグスーツを脱ぎ始めた。
「…何見てんだよ」
「見るのもダメなの?」
上半身裸のシンジ君は、僕からの視線を感じて全部脱ぐのをためらっていた。
「ダメだよ。あっち向けよ」
「男同士なんだから別にいいじゃないか」
「他の人ならともかく…君だけは嫌だ」
「………………………。」
僕だけは、嫌。
「ふーん…」
だめだ。苛々が酷くて頭痛がする。
「触るのもダメ、見るのもダメ、他の人なら良いけど僕だけはダメ」
「そうだよ、だからあっち向け」
「…っ。」
シンジ君の返事は些細な物だったけど、くすぶっていた僕の苛々に、火を点けて爆発させるには十分だった。
不思議な事に、その瞬間、何もかもがどうでも良くなった。頭の中は真っ白だ。
「な…っ?!」
気が付くと僕は勢い良くシンジ君に突進していた。
思いもよらぬ僕の行動に驚愕したシンジ君の顔が妙に心地よかった。
「なぎ…っ」
逃げようとするシンジ君の腕を捕まえて、壁に押さえつけた。
「ゥ…ッ!」
何をどうしようとか考えるより、体が勝手に動いてシンジ君にキスしていた。
「ウゥ…っ!!」
口を閉じられる前に舌を入れた。すぐに噛まれて痛かったけど、抜いてやらなかった。
ディープキス。
深いキス。
雑誌で見て知っただけのやり方。こんなキスもあるのかと流し読みしてたけど、シンジ君としてみたいとは、思った。
想像しただけでドキドキしていた。
実際、舌を入れた後どうすればいいのかわからなかったけど、シンジ君の舌や口内をなぞったりしていたら変な気分になってきた。
血の味がするキス。
シンジ君はその後も何度か僕の舌を噛んだけど、僕が全く止める気配を見せないから諦めたのか、しばらくしたら大人しくなった。
それを良い事に夢中で、好き勝手にシンジ君の唇を貪った。
だいぶ長い間、そうやっていて、でもふと、唇を離した。うっすら目を開けてみたらシンジ君の目から涙が流れていたからだ。
「シンジ君…ないてるの」
シンジ君は壁を背にあずけたままズルズルと床に崩れた。
「ひど…酷いじゃないか…っ僕は、僕は好きじゃないって言ってるのに…っ」
「…。」
嗚呼。
シンジ君を見下ろしながら僕は唐突に理解した。
僕は、シンジ君を泣かせたかったんだ。
「…ぐすっ」
僕の足元で静かに泣くシンジ君。
君が泣いているところを見るのは二度目だ。一度目はファーストの為に。
…今は僕が原因で…
ウレシイ…
僕はしゃがんで膝立ちになると、シンジ君に今度は触れるだけのキスをした。
「ごめんね、シンジ君」
謝って、もう一回。
「ごめんね、ごめん」
シンジ君は顔を両手で覆った。
「君なんか好きじゃない…好きじゃない…っ好きじゃないんだ…っ!!」
好きじゃないと言われているのに、まるで咎めるように、自分に言い聞かせているようなそれはどうしてか心地良く耳に響いた。
END...
09.03.13