Short

□迷惑な人
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※ヒトの振り見て心配になる使徒



「シンジ君…僕…ウザいかな…」

恐々聞いてみると、ベッドの上で僕が買ってきたアイスを食べようとしていたシンジ君が口をパッカリ開けたまま僕を凝視した。

「お見舞い来たのも…迷惑だったりした…?」
「な…何、突然」

「…」

まるで珍しいものでも見るような顔で。

「どうしたんだ渚…」

僕がシンジ君にとってウザい存在かもしれないだなんて今まで考えた事もなかったけど、今日、つい一時間ちょっと前にもしかしたらそうなのかもしれないと思ってしまったのだ。




***




一時間ちょっと前ともうちょっと前。

僕は遅刻ギリギリで学校に行った。別に授業を受けに行くわけじゃない。シンジ君に会うためだ。

けど、いつもならとっくに来ているはずのシンジ君が教室にいなかった。チャイムが鳴ってホームルームが始まっても姿を表さない。

…理由は出席をとる時に分かった。風邪で休みだった。先生が出席簿を見ながらさして興味もなさそうに教えてくれた。

「風邪…」

シンジ君が学校に来ない。

…ならば僕がここにいる理由もない。

僕はホームルームが終わるのと同時に鞄を持って席を立った。勿論シンジ君家に行く為。途中で何か買って行こう。プリンなんかどうかな。アイスもいいかもね。シンジ君甘いもの好きだから…

そんな事を思いながら教室を出ようとすると

「渚君!」

誰かに呼び止められた。

「なに」

振り返ると、知らない女の子が僕のすぐ後ろに立っていた。

「渚君、帰るの?」
「うん。シンジ君いないし」

でも教室にいるって事はクラスメイトかな。…シンジ君しか見てないから、シンジ君の近くに来るような人(鈴原君とか相原君)じゃないと視界に入らないんだよね…。

「碇君と仲良いよね渚君て…」
「………?まぁね」

当たり前だよ。僕ら付き合ってるんだから。…そう言いたかったけどやめる。そういう事を知らない人とかに言うとシンジ君が目を釣り上げて怒るから。

「いいよねぇそういうの…」
「そう?」

「碇君が羨ましいなぁ…」
「何で?」

「………………」
「………?」

彼女は何故かもじもじしてうつむいた。何なんだろこの子。

「ねぇ、それで僕に何か用?帰りたいんだけど」

早くシンジ君に会いたいのにいつまで引き止める気なんだよ。…僕はイライラしてきた。

「あっ、待ってあの…わ、私も行っちゃダメかな…」
「は?」

「私も碇君のお見舞い行きたいな…渚君と一緒に」

えへ、と笑う彼女。な、何言ってんの…ほんと。

せっかく二人きりになれるってのに邪魔する気!?

僕はイライラが増したのを感じた。

この子は今までシンジ君と別に仲良くなかったハズ。…だけどシンジ君のお見舞いに行きたいと言う。

ん?こ、これってもしや秘められていた恋というやつだろうか。

気のない素振りをしてたけど実はシンジ君が好きでした☆そして今大好きなシンジ君が風邪で弱ってる!チャーンス!甲斐甲斐しく看病して女の子アピールしちゃうぞ☆みたいなアレか!?

そ…そうはさせるか!

「ダメ」

僕は簡潔に言って彼女に背を向けた。

「ちょ、ちょっと待ってよ渚君!」

廊下を歩き出すと彼女が追いかけて来る。しつこいな。

「何。ダメって言ってるだろ」
「何で!?私…」

「ダメなものはダメなんだよ。シンジ君の看病は僕がやるから君はいらないよ」
「で、でも私だって何か役に立てるかもしれないじゃない!ねっ?渚君…」

イライライライライライラ。

早足で振り切ろうと思うのに彼女も負けじと駆け足で着いて来る。

本っっ当にしつこいなぁ。そんなにシンジ君が好きなのか!でもね、君より僕の方が断然シンジ君が好きなんだよ!!

「渚君待ってよ、渚君!」

彼女は結局げた箱まで追いかけて来た。あくまでシンジ君の看病がしたいらしい彼女に僕のイライラは頂点に達した。

ごめんシンジ君、僕、限界です。臨界点突破。

だってここでビシッとハッキリ言わなきゃ彼女はシンジ君の家まで着いて来そうなんだもん。…そうはさせない。シンジ君の家を誰が教えるもんか!

「ねぇ、ハッキリ言うけど」

僕は靴を取り出しながら彼女の方を振り向いた。かなりイライラしてたから顔が怒ってたんだと思う。彼女が僕の顔を見てビクリと怯えた。

「シンジ君は僕のだよ。」
「え…」

「君にも誰にも渡すつもりないんだ。だからシンジ君に近付かないでくれない」
「な…渚君のって…え…どう、いう…?」

彼女は僕の言葉にかなり戸惑っていた。半笑いでまさか、という顔をしてる。フフン。そのまさかだよ君。

今まで誰にも秘密だったけど、教えてあげるよ。

「わからない?恋人同士なんだよ僕とシンジ君。だから手ぇ出さないでね」

シンジ君と僕の関係を知った彼女は半笑いから打ちのめされたような顔になった。まっ、当たり前か。失恋だもんね、ご愁傷様。

でもしょうがないだろ?シンジ君は既にぼ・く・の・恋人なんだから。

君は早くシンジ君を忘れて他の誰かを好きになりなね。

「そういう訳だから、じゃあね」

僕は言って、呆然と立ち尽くすクラスメイトに背を向けて学校を出た。




それからコンビニに行ってプリンとかアイスとかスポーツ飲料なんかを適当にごっちゃり買って歩いてたんだけど、どうもスッキリしなかった。

あんなに素っ気なくして、不機嫌全開で接したのに笑顔でしつこくつきまとってきた彼女。その彼女の事がいつまでも胸の辺りでモヤモヤしていた。何故、だろう。あの図々しい性格?彼女がシンジ君を好きだという事が嫌だから?…違う、それ以外に何かが引っかかっている。

そう…あの状況だ。

イライラしてる人、つきまとう人。この図がどうも引っかかるのだ。

「…ん?」

その時たまたま喫茶店のガラスに映る僕自身と目が合った。

「あ"っ。」

そして僕は気付いてしまった。

さっきと立場こそ違えど、これはシンジ君と僕に似ているのだ。

彼女は僕と似ていたのだ。

「………………………………………………………………………。」

途端に僕は真っ青になった。

イライラしてるシンジ君にいつもまとわりついている僕。抱きついたり隙をついてチューしたり、そんなのしょっちゅうだ。僕はシンジ君に、あの彼女より凄いまとわりつき方をしてる。どうしよう…もしかしてシンジ君も僕の事…いつも本気でウザイとか空気読めよとか思ってんのかな…

今まで考えた事なんてなかった。

ただシンジ君が大好きでいつも触れていたかった。それでくっつくと嫌がるシンジ君を見ると凄く可愛いとか、それくらいにしか考えてなかった。

…シンジ君は…いつも迷惑だったのかも。

付き合う事になったのも僕が毎日しつこく好き好き言うから仕方なく付き合い出したのかも。




「…」

気が付くと僕はシンジ君の家の前だった。

鍵がかかっていたから合い鍵で入った。シンジ君は自分の部屋で寝ていたけど僕に気付いて起きた。

「な、渚…?お前学校は…」

少し赤い頬。冷えピタか何かが張り付いたおでこ。ダルそうだけど凄く悪いという訳じゃなさそうだった。

「お見舞い来た。…あ…お土産あるから食べて」

学校は、という問いは無視して、僕はコンビニ袋をシンジ君に渡す。

いつもなら怒るとこだけど、今日のシンジ君は不思議そうな顔で僕の顔を見ていた。









***




「…いろいろ…言いたい事が沢山あるんだけどね…渚」
「うん…」

僕の話を聞いたシンジ君は2個目のアイスを食べながら何かに耐えるように目を瞑った。

「その…僕らの事バラしちゃった子の事とかね…君が鈍感だとかね…もう言いたい事はいっぱいありすぎるんだけどもね…」
「う…ん?」

シンジ君が僕の話に『うん、そう思ってた。できれば別れたい』と言うかもしれないと、僕はビクビクしながらしおらしくしている。

「今は疲れるから、そういうのは風邪が治ったらたっぷり説教してやる」
「え…」

うわぁ、シンジ君怒ってる。

あれだけ秘密にしてって言ってたのに僕がシンジ君との関係をバラしちゃったからだ。

だって、だって。嫌だったんだ。シンジ君は僕のなのに、誰かがシンジ君を狙ってるなんて。

いつもなら怒られながら怒ったシンジ君も可愛いなとか思うとこだけど、今日は違う。自己嫌悪モードに入ってるからひたすらうなだれるしかない。

僕、シンジ君が嫌がる事しかしてないのかな…?

「おいで渚」
「え?」

そんな風に鬱々していたら、何故かシンジ君がアイスを傍らに置いて両手を軽く広げている。…僕に向かって…

「ほら、風邪うつしてやるから来いよ」
「う、うん…」

風邪をうつす?

なんて不思議に思ったけど、かなり珍しく(っていうか初めて)シンジ君が抱きしめてくれるらしいので少しドキドキしながら素直にシンジ君の胸に顔をうずめた。

「僕が渚をウザがってるかもしれないって思ったから、ずっと情けない顔してたの?」

シンジ君は僕の頭をやんわり抱きしめてくれた。それに、何か優しい声でしゃべってる。うわぁ、うわぁ、シンジ君どうしたんだろう…

「馬鹿だね渚は。僕よりよっぽど具合悪そうだったから何事かと思ったよ」

いつもより高い体温。いつもより優しいシンジ君。風邪のせい?

「僕…変な顔してた?」
「してたよ。まるで世界の終わりみたいな顔しちゃってた」

「…シンジ君、僕って迷惑?」
「ははは、変な渚」

シンジ君は何故かすこぶる機嫌が良い。…どうしてだろ。

「調子狂うなぁ、しおらしい渚なんて」
「ごめん…」

「ふふっ、何謝ってるのさ」
「だって」

「反省するなんてらしくないね?」

だって、だって。気づかない内に僕はずっとずっとシンジ君に嫌な事ばかりしてたかもしれないのに。

「君にとってのクラスの女の子と、僕にとっての君、立場は全然違うだろ」
「え?」

「だから………話した事もない子と、付き合ってる奴じゃされる事一つでも全然感じ違うだろ?」
「…う、ん?」

「渚は話した事もない子と僕、両方からキスされたとして、その感想は両方とも同じ?」
「違うよっ!シンジ君からされるのは嬉しいけど他の人じゃヤダ!!」

「ね?」

じゃあ、じゃあ、シンジ君は…?

「僕は、渚は渚らしくしてて良いと思うよ。そりゃあ、人前とかで抱きつくのとか好き好き言うのは控えてほしいけど。…でも僕はいくらしつこくされたからって嫌いな奴と仕方なく付き合ってやる程お人好しじゃないよ」
「シ…シンジ君…!」

それってつまり…あれ?シンジ君、今僕に告白した?…好きって事だよね今の!?

「シンジ君、シンジ君、シンジ君!!」
「わああ!!!」

しょぼくれていた気持ちが一気に膨れ上がって、勢い良く溢れた。

僕はシンジ君を力いっぱい抱きしめて、そのままベッドに押し倒した。

「大好きシンジ君!!」
「こ、こら渚苦しい!!」

「大好き、大好き」

それで、シンジ君の顔中にいっぱいキスした。嗚呼。シンジ君大好き過ぎる。どうして僕はこんなにシンジ君が大好きなんだろう!

「渚、本当に風邪うつるぞ」
「いいよ、シンジ君の風邪なら。…あ、そうだシンジ君。風邪って汗かくと治るんだよね?一緒に汗かこうか!」

「ったくも−…すぐ調子に乗る…」
「嫌?」









「………………………風邪が治るんならいいよ…」









END...と思わせてちょっとおまけ。




次の日、シンジ君の風邪は本当に治った。

「僕の精液がシンジ君の体に効いたんだよきっと!座薬みたいに!」
「そんなわけあるか!!汗かいたからだよ!!」

「まぁともあれこれからは風邪ひいたら速攻僕に電話ちょーだいね!すぐ治しに行くから☆」
「………アホ」









END...;

09.03.20
 

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