Short

□玩具
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※女装
金持ち意地悪な渚君×貧乏シンジ君





「やめて下さい!!」

僕は目の前の男を、両手を突っ張る事で引き剥がした。

少し僕より背が高いその男は僕を見下ろしてニヤニヤしている。

「学校は…学校ではこういうのナシって約束でしょう…」

声を低くして言えば、表情を変えないまま再び僕に顔を近付けてきた。

「うん、そうだね。だから今はただの渚カヲルとして行動してるんだよ。…碇クン」

碇クン。…気持ち悪い。

「やめてって言ってるじゃないですか!」

昼休みの屋上で、僕は壁と男…渚カヲルに狭まれながらもがいた。渚カヲルは僕の顔を両手で掴んで二度目のキスをしてくる。

その瞬間、つい、僕は手を出してしまった。

乾いた音が辺りに小さく響いて、渚カヲルが呆けた顔で僕を見ている。しまった、と思ったがもう遅い。

「あ…だから…学校は…本当に、勘弁して下さい…僕、嫌なんです…」

謝る気にはなれなくて、でもついひっぱたいてしまった僕は自分がしでかしてしまった事が怖くて、どうにかそれだけ伝える。すると渚カヲルはニタァ、と不気味に笑った。

「あは、振られちゃった。…でも、学校終わったら仲直りしよーね、碇クン」

ぞく、と悪寒が走った。

放課後…。

放課後なんてこなければ良い。









「おー、シンジ、どうしたんだ?」

教室に戻ると、友だちが心配そうに話しかけてきた。

昼食の最中に普段全く関わりない先輩から直接呼び出しを受けたからだ。それもただの先輩ではなく、校内一目立つ先輩から。

「うん、えっと…大丈夫、大した事じゃなかった。」

笑顔を張り付かせて、胃に鉛が落ちたような気分を悟られないようにする。

「っていうかさぁ、お前渚カヲルと知り合いだったの?意外〜」
「いや、知り合いって程のものでも、ないよ」

ああ、でも、渚カヲルと接点がある事を友だちに知られてしまった。最悪だ。

ほんの少しでもアイツと関わりある事を知られたくなかったのに。




今時借金のカタに、なんて笑ってしまう。

父親の会社が失敗し、大量の借金だけが残り、にっちもさっちもいかなくなった末に息子である僕が身を売られる羽目になったのだ。

売られた先は父親が借金した先の会社だった。

その会社の名前はこうなる前から元々知っていた。14歳の僕が知っているくらい大きくて有名な会社だ。

そして、その跡取り息子が自分の学校にいるという事も知っていた。何せ金持ちというだけでなく成績も優秀で、容姿がとてつもなく目立つのだ。普通では有り得ない銀色の髪、赤い瞳、雪のように白い肌。その上美形だった。

性格は爽やかで明るく、人気者。…そういう噂が、別に興味はなくとも自然と耳に入ってきていた。

僕はその、跡取り息子の身の回りの世話をする仕事をさせられる事になった。

いくら話した事もない間柄とはいえ、同じ学校の、しかも大して歳の変わらない人間の世話なんて、と不満はいくらでもあったがそんな事は言ってられない。

僕は人生を売られたのだ。

父親を一生恨みながら、ここで生きていくしかない。…当然義務教育を終えたらここに永久就職、という事だ。

まぁ、決まってしまった事は今更文句を言ったってどうしようもない。

将来特別なりたい職業や夢があったわけでもないし。きっと天国の母さんも優しく見守っていてくれる。だから、頑張ろう。

そう決意して、一番最初にアイツの部屋に挨拶に行った日。早くも僕は挫けそうになった。

9月13日の事だった。

「へぇー、君が。」

アイツの部屋で、自己紹介と挨拶を終えると、アイツは僕を見て赤い瞳を興味津々、といった風に輝かせた。

「君同じ学校だよね、何回か見かけた事があるよ。」

僕みたいな地味な後輩を見かけた程度で記憶に残せるなんて、随分記憶力が良いな。

そんな風に思いながら頷くと、ニコ、と人の良い笑みを浮かべて握手を求めてきた。

「僕は渚カヲル。いろいろ大変だろうけどこれからよろしくね、シンジ君。」

噂通りの爽やかな人間だ、僕はとりあえずホッとして握手に応じた。けど、それは束の間の安堵だった。

直後渚カヲルは部屋に備え付けてある電話でどこかに連絡を取ると、他の使用人に何か持ってこさせた。

そして、それを僕に渡した。

「それ君の制服ね、家に帰って来たら必ずそれに着替えて」

僕は目を疑った。

渡された"制服"は、秋葉原なんかでウロウロしていそうな、女の子が着るような服だった。

ハンガーに吊された新品の、黒と、白の布で出来た…所謂…メイド服。それも短いスカートにフリルがあしらわれた。

ちょっと待って、僕が異議を唱えようとするとでも、先に鋭い声がそれを遮った。

「僕の命令が聞けないの?君は人権すら僕に捧げる事になった筈だけど。」

…言い返せなかった。

そう、僕は、どんな扱いを受けようとも文句を言える立場ではないのだ。

「口答えなんかできないよね?…じゃあ早速着てみせてよ、シンジ君」

渚カヲルはと言えば、そんな僕を見てニヤニヤしている。…面白がっているんだろう、コイツにしてみたら生きた玩具が手に入ったんだから。




………。ちくしょう、




僕は黙って頷いた。頷く事しかできなかった。

何が爽やかだ、性格悪いじゃないか。ストレス解消に、僕を意味もなく辱めて遊ぶつもりなのだ、コイツは。もし純粋な趣味なのだとしたら尚悪いけど。…だってそしたら変態だ。

…けど、僕はその時更にもう一つの可能性がある事に気付けないでいた。




両方、という可能性に。




一旦他の部屋で着替えてからお望み通りのメイド姿でアイツの前に立つと、満足そうに軽く拍手をしながら僕に近付いてきた。

「あはっ、シンジ君かーわいー。」

そして上から下までジロジロと眺め回し始める。

屈辱感で死ねそうだ。

男なのに、こんな、馬鹿みたいな女の子の服を着せられるなんて…

「ねぇ、お誕生日おめでとうございますカヲル様って言ってみてよ」

え、と聞き返す。何?

「だから、お誕生日おめでとうございますカヲル様って言ってみてって言ったんだよ。あ、あと今日から僕はあなたのものですっていうのも付け足して」

セリフが増えてるじゃないか。…いや、そうじゃなくて。誕生日?

「こんな気の利いたプレゼントは初めてだよ。明日じいさんにお礼言わなきゃ」

プレゼント?…誕生日、プレゼント?

「ほらはやく、シンジ君言ってよ」

僕はどうやら金持ちのジジイに、孫への誕生日プレゼントにされていたようだった。

一番最初に"へぇー、君が。"と言った渚カヲルの様子を思い出した。

目眩がした。

「シーンージー君、ご主人様の命令だよー」

身が押し潰されそうな程の屈辱感に震えながら、僕は心を殺す。

誰が泣くもんか。こんな奴の前で誰が。

「お…誕生日、おめでとうございます、カヲル、様…僕は、今日から…あなたのものです」

ニタァ、と笑って渚カヲルは良い子、と言った。

「良くできたご褒美に学校でだけは主従関係から解放してあげる。いつも通りでいいよ。…ただし」

鼻先がくっつきそうなくらい顔を近付けて、僕の頭をヨシヨシと撫でる。

「家に帰って来たら君は僕のものだよ。僕の言う事は絶対。逆らっちゃダメ。君の第一優先は僕。…わかった?」

頷く事ができないので小さくはいと返事すると、途端、唇を押し付けられた。

「ン…ッ?!」

あまりの事に頭がついていかなかった。

何をしてるんだ、コイツは!?

思わず顔をずらそうとすると両手で顔をガッシリと固定された。

男が、男にキスしてる!!何で?!

「ハイハイ、ご主人様を拒まないんだよ」

困惑していると、少しだけ唇を離して渚カヲルが言った。

「ご主人様がする事は、ちゃんと受け入れなきゃダメだろ?」

押し返そうとしていた手を取られ、腕を、アイツの首に回させられた。

…何だ、これ。何だよこれは。

「僕がキスしたら、君は、こう。…わかる?」

変だ、コイツ。絶対変人だ。

「お…男にこんな事させて楽しいんですか」

心底楽しそうな目の前の顔を少しでも崩したくて言えば、渚カヲルは予想外な事に更に楽しそうな顔になった。

「あは、君のそういう、睨み上げてくる目、僕結構好きだな。…いじめたくなっちゃう…」

え。と口を開けた時、再び唇を押し付けられる。




あの日僕は渚カヲルにファーストキスを奪われ、更にその直後大人のキスまでされた。

校内一有名な先輩、渚カヲルは実は変人で変態で、そしてかなり性格が悪かった。(学校でバラしてやりたい。…けどそれは同時に僕の立場も危うくなるので悔しいができない)あれからも毎日、僕の自尊心を傷付ける事ばかりやらせるのだ。

そう、まるで玩具。

女の子と付き合えば良い。そうすれば女の子とするような事をわざわざ男にやらせる必要なんてなくなる。新しい玩具を手に入れて面白がっているだけならはやく飽きてしまえば良い。




放課後、辺りを見回して人通りがないのを確認してから、重い足取りで渚家の裏門をくぐる。

そのまま裏のドアから家に入り、廊下を歩いてすぐの小さな部屋に直行する。

窓すらない、物置みたいな部屋だ。机とベッドが置いてある以外、特に何もない質素な。ここは僕が与えられた、僕専用の部屋である。

鞄を机に置くと、クローゼットを開けて、ハンガーにかけられた忌々しい黒と白の服を取り出す。

これからアイツが帰って来る前に玄関に立ち、お出迎えをしなくてはならない。

ちなみに少し過ごしてみてわかった事は、渚家の使用人でメイド服を着せられてるのは僕だけだという事と、渚カヲルの両親は家に居着かないという事だ。僕は未だに他の渚家の人間に会った事がない。

成る程、やりたい放題な訳だ。

僕がこんな格好をさせられていてもこの家で働く人間は誰もアイツに注意しないし、僕も何も言われなかった。(ちょっと複雑な気分だった)

この家で一番エラいのはアイツなのだ。

しかめっ面で、悪夢のような自分の格好を鏡の前で確認すると、正面玄関へ向かった。

すると実にタイミング悪く、正にアイツがご帰宅したところだった。

「お帰りなさいませご主人様」

丁寧に頭を下げると、足音と共に、床しかなかった視界にアイツの足が映った。

「シンジ君」

顔を上げると、いつものあの、不気味な笑顔があった。

「キスして」
「…は?」

「お帰りなさいのキスして」

いつもの事だが、コイツは顔色一つ変えず、突然とんでもない命令を僕に下す。

辺りを見回すと、幸い今はキッチンで夕食を作るシェフが動き回っている音がするだけで、玄関付近には誰もいない。

「シンジ君からキスしてよ。今すぐ。」
「………………。」

仕方がない。これは仕事。

僕は嫌がる心を押しやって渚カヲルの、黙って見ているだけなら文句ない、端正な顔に顔を近付けた。

こんな時だけは、コイツがせめて綺麗な顔で良かったと思う。

「学校での事は僕、気にしてないからね?」

けど唇が重なる瞬間、そう言って目を細めた渚カヲルのこの顔を、もう一度ひっぱたいてやりたくなった。

いちいちそんな事を言うなんて、気にしてるって言ってるようなもんじゃないか。本当に性格悪いな。

僕は黙れ、という風に唇を塞いで、すぐに離れた。

けどそれでも、言う事をきかせた事が満足なのか渚カヲルは機嫌良さそうに笑った。




「ただいま、シンジ君。」




おわり。

+++

本当は甘々純愛路線の方で長く書く予定だったものを趣味変換してこっちにもってきちゃいました。

(*^p^*)意地悪な渚君、大好物です。

あと一回続くかも。

10.04.12
 

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