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□ある冬の朝
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※庵&貞双子設定。
庵ペアが兄、貞ペアが弟


ある朝僕は体を締め付けられる感覚に目を覚ました。

体がポカポカしていて暖かく、やけに喉が渇いている。それは多分ここがいつも寝ている自分の部屋のベッドの中じゃなくて、下半身がリビングのコタツにあるだからだ。

実は昨日の夜にカヲル君と渚君がやってきて、僕と弟のシンジと四人でコタツにあたりながら鍋をしたりゲームしたりして遊んだのだ。

次の日は休みなんだし、と、帰ろうとするカヲル君たちを引き止めて朝方まで遊び続けた挙げ句にコタツが気持ちよくてそのまま寝てしまった。

引き止めておいてコタツで寝かせちゃうなんてカヲル君たちに失礼だったな…。朝ご飯はうんと美味しいものを作ろう。…っていうか、今何時だろう?

段々と覚醒してきた頭でそんな事をつらつらと考えながら、時計を確認するべく起き上がろうとすると、でもなかなかそれはできなかった。

まず目を開けたら白い喉が見えた。

そして体の自由がきかない。そういえば僕は今、何かに体を締め付けられている。

この感覚には覚えがある。…腕だ。

僕はカヲル君に抱きしめられていた。抱き枕みたいな感じで。

スゥスゥと寝息を立てて、カヲル君はよく眠っている。

「………」

うわ、どうしよう。

嬉しい、けど…このままじゃシンジや渚君に見られちゃうかも。雰囲気から察するに今はまだ二人とも寝てるみたいだけど…。起きたら真っ先に見られちゃう。恥ずかしい…。でも、よく寝てるカヲル君を起こすのも悪いし…

どうしようどうしよう。

そっと抜け出そうにもカヲル君、かなりガッチリ抱きしめてるし…。

…ん?

そういえば…ちょっと珍しいな。カヲル君がこんな風に僕を抱きしめるなんて。カヲル君て、いつもは凄く優しく抱きしめてくれるんだよね。例えるなら羽毛みたいなイメージ…

僕の部屋かカヲル君の部屋で一つのベッドで寝る時の話、なんだけど…、寝てる時だって例外なくその腕は優しくて、トイレに起きた時なんかも簡単に抜け出せる。けど今、カヲル君の腕の力は凄く強い。…寒い…のかな?

もう少しだけ…こうしていようかな。たまにはこんな風に強く抱きしめられるのも新鮮で嬉しい。それにやっぱり、カヲル君を起こすのは悪い気がするし。

僕は自分も寝やすいように体の位置を少し修正して、静かに目を閉じた。

「………?」

今起きたばっかりだったからすぐに眠気がやってきた。そのまま意識を手放してしまおうとしてでも、何故か、背中に異常なまでにプレッシャーを感じて再び目を開ける。

な、何だろうこの感じ。実態の無い何かに背中を押されているような感じだ。

首を捻って背後を振り返ってみる。

「!!!」

渚君と目が合った。

たまたま目が合ったという訳じゃない。渚君は僕を、ジッと見つめていた。




見られていた。




そりゃあ、僕たちが恋人同士である事は知られているし、シンジと渚君だってそうなんだから恥ずかしがる事もないんだろうけど。

でもこういうところはやっぱり人に見せたりするものじゃないから、見られると恥ずかしい。

一瞬で頬に熱が集まる。

「ぁ…の」

おはよう、と、目が合ったのでとりあえず何か言わなければと挨拶をしようとしてしくじる。

渚君は腕に顔を乗せた状態で優雅に、それはそれは優雅に微笑んだ。

まるでカヲル君みたいな笑い方。

いつもは子どもっぽい笑い方をする渚君も、たまにはこんな風に笑うのか。

綺麗。

思わずドキ、と胸が高鳴った。

「…………」
「…………」

渚君はその笑顔のまま僕を、何故か何も言わずに見つめ続けた。

完全に話しかけるタイミングを逃した僕も、目をそらす事が出来ずに無理な体勢で見つめ返す事しかできない。

…ど、どうしようどうしたら。

渚君は普段シンジに夢中で、僕らになんて興味を持たないんだけど。

「………」

今日は何でこんなに興味深そうなんだろう…

「…シンジ君…」

どのくらい経ったのか、突然渚君が小さく僕の名前を呼んだ。

「ぇ…」

その声にまたドキ、と胸が高鳴った。

しゃべり方までカヲル君みたい。




…カヲル君、みたい?




「あ」

カヲル君みたい。と、思った僕はその瞬間、ある可能性が脳裏を掠め、頭の中がジワジワと冷たくなる感覚に襲われた。




カヲル君の、いつもと違う抱きしめ方。

渚君の、いつもと違う笑い方、しゃべり方。




シンジしか興味がない渚君が僕を抱きしめるわけがないと、そういう考えがあるから僕は勝手にカヲル君だと思ってたけど…。もし渚君が寝ぼけて、外見だけは瓜二つのシンジと僕を間違えてたら…

そして実は、今僕を見つめてる渚君だと思ってる人が『みたい』じゃなくてカヲル君だったら…

待って待って待って、あれ、待って。カヲル君は昨日、コタツのどの位置にいたっけ。………………右だ。僕の右にいた。右…




渚…君…右…に…い…る…




「…カヲ…ル…君…」
「…やぁ、おはよう」

カヲル君は相変わらず綺麗な微笑みを浮かべている。

それが逆に怖い。

これまでの付き合いからカヲル君が実は結構ヤキモチ妬きだと言う事を僕は知っている。

前に何の気なく渚君の口の端についた食べかすをティッシュで拭ってあげた時、それを見ていたカヲル君が、あのカヲル君が一時間もへそを曲げてしまった事があるのだ。僕としてはただ食べかすが気になっただけなのに…他には何の気もなかったのに。

あと、こんな事もあった。昨日みたいにカヲル君と渚君が遊びに来た時の事だ。渚君が僕のお箸とお客様用のお箸を間違えて使っちゃった時、まぁいいかってお互い笑い合ってそのまま食事を続けていたら、気付いた時にはカヲル君が深海の底まで落ち込んでいたって事が。

それにこんな事もあった。体育の授業の前に着替えをしていて、その時シンジのパンツを間違えてはいていた事に気付いた。まぁ、いいかって着替えを済ませた後校庭に行く途中、突然カヲル君にトイレに連れ込まれてパンツを無理矢理脱がされたって事が。何で気付いたのかは未だにわからない…。(ちなみに僕はその後家に帰るまでパンツ無しだった…)

とにかくカヲル君は、ヤキモチの対象が家族であるシンジにまで及ぶ程ヤキモチ妬きなのだ。

こんなところを見て、カヲル君が怒らないはずがない。

僕はついさっきまで渚君をカヲル君と勘違いして、腕から抜け出そうとしないばかりかそのまま二度寝しようとまでしていたのだ。

「あ、あの…違うんだよ…こ、これは、あの」
「うん、寝ぼけて抱きつかれたんだね」

「僕、あの、てっきりカヲル君だと思って」
「わかっているよ」

………アレ?

「君も寝起きだったものね」

もしかして…怒って、ない?

「君の事だから朝食を作ろうとして、腕から抜け出せないでいたんだろう?無理に起き上がって、僕を起こすのは忍びないと」
「…うん」

あ…大丈夫そう。今回はカヲル君、怒ってないみたい。

「優しいんだねシンジ君は。…よし、手を貸すよ」

カヲル君は起き上がると、僕たちのところまでやってきて、渚君の腕の中から僕を易々と引きずり出してくれた。

「あ、ありがとうカヲル君」
「…みんなで仲良くコタツで眠るというのもたまには良いかと思ったけれど…やはり、今度からはキチンとベッドで寝た方が良いようだね」

「そうだね」

引きずり出された僕は、今度はカヲル君の腕の中にすっぽりと収まる。優しい腕の感触。僕もカヲル君の背中に腕を回した。…うん、カヲル君の腕はやっぱりこうだよね…。

「………ところで」
「ん?」

カヲル君の吐息が僕の耳朶に軽く触れる。くすぐったい。




「僕以外の男の腕の中は、心地良かったかい?」




………………え?

「どうなんだいシンジ君」

予想外すぎる質問に驚いて、思わず肩にもたれさせていた顔をカヲル君の方へ向けてしまった。

「さぞ心地良かったんだろうね?そうでなければ二度寝なんてしようと思わないだろう?」

カヲル君は笑っていた。

最初笑った時と同じ、綺麗な綺麗なあの笑顔で…

けれど、その口から出る言葉にはチクチクと棘がある。…間違いない。怒ってる。

「あ…あの…カヲル…君…?」

カヲル君のその綺麗な笑顔が怖い、と、また思った。

「…驚いているね。僕が妬かないとでも思ったのかい」
「ご、ごめん、ごめんね」

僕はすぐ、素直に謝罪を口にした。いつもはそんな事で怒るなんて、と思う事も結構あるけど、今回は僕も悪い。もし逆の立場だったら多分僕だってヤキモチ妬くと思うし。

「変だなって、思ったは思ったんだ。いつもと抱きしめ方が違うなって、けど、カヲル君寒いのかなって思ってそれで…」
「………」

ニッコリ。

カヲル君の笑顔はピクリとも崩れない。

「渚君がこんな事するなんて思わなかったんだ…だからあの…絶対カヲル君だと思って…」
「…言いたい事は、それだけかい?」

「あ…う」

スル、と、カヲル君の形の良い指が僕の頬を撫でた。

「愛する人が自分ではない誰かに抱かれているところを目の前で見せつけられた僕の気持ち、わかるかい…」
「ごめん…」

「いくら寝ぼけていて僕と間違えていたとはいえ、君が他の男の腕の中で嬉しそうに二度寝をしようとしていた事実は今後も僕の頭から消えそうにないよ…」
「そ、そんな…っ、ぼ、僕あの…ごめん、カヲル君、本当に…ごめんね…」

カヲル君は相当怒っているようだった。

僕を責めながらその場面を思い出しているのか、段々目つきが怖くなってきた。

うう、怖いよぉっ!!

「僕、カヲル君を傷つけるつもりなんて全然なかったんだ…。いくらでも謝るから、だから」
「…口で謝るだけ?」

「え…?」

頬を撫でていたカヲル君の、指が少しずれて僕の耳朶を弄りだした。

「僕への"ごめん"は唇でだけ?」
「カ、カヲル君、あ、ちょ…と」

ゾク、と背中に電流のようなものが走る。耳朶は、耳朶を弄られるのは、好きじゃない。すごくくすぐったいし、あんまり弄られ続けると変な気分になってくる。

「ん…、カヲル、く」

カヲル君の指から逃れるように頭を動かしてみるけど、カヲル君はしつこく耳朶を弄り続ける。

「本当に謝る気があるなら、君の体全部で謝罪の気持ちを見せて」
「カヲル君…」

ああ、ちょっと予想はしてたけど、やっぱりそうなるのか…

「わ、わかったよ…」

僕に拒否権なんてない。カヲル君の怒りを鎮める為にはもう、これしか手段は残されていないのだから。

朝からするなんてちょっと抵抗があるけど…。この際しょうがない…

「君の部屋に移動するかい?…それとも、ここで…?」
「僕の部屋、で…」

時計を見上げると、もうすぐ6時になるところだった。

どうかシンジが、あんまり早く起きませんように。渚君も…

チラ、と渚君の方を見ると、いつの間にかその姿はさっきまでいた場所になく、シンジの寝ているところにあった。

「………」

今度はシンジをガッチリと抱きしめて寝ていた。シンジも慣れているのか、まったく起きる気配はなくすやすやと気持ち良さそうに寝ている。

…今初めて渚君のほっぺをつねってやりたいと思った。

「誰を見てるの?」

カヲル君の苛立った声にハッとする。まさか、こんな事でまでヤキモチを妬かれるなんて。

「ぇっ、ち、違うよ」

急いで視線をカヲル君に戻すと、顔からは完全に笑顔が消えていた。

「謝罪を口にしたそばからまた君は…」
「ご、誤解だよ!僕はただ…」

「これは、お仕置きが必要かな」
「待ってよ僕…っ」

「言い訳はベッドの上で聞くよ」

そうして僕の訴え虚しく、僕は自分の部屋に『連行』された。

結局その日の朝ご飯を作ったのはシンジだった。

お昼過ぎになっても部屋から出てこない僕たちを「ねぼすけだね」とリビングで呑気に話す渚君の声を、カヲル君の腕の中でグッタリと聞いた。




終。

+++

庵シンジ君乙!
\(^0^)/

10.02.13
 

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