Short

□ 2
1ページ/1ページ

※ひたすら変態カヲル君と可哀想なシンジ君




日曜日の朝。

あたしは普段なら絶対しない早起きをして、念入りに髪をとかしていた。

この日の為に買っておいたワンピースを着て、鏡の前でクルクル回ってみる。うん、ビショージョ。

「カンッペキ。」

鏡の中でニッコリ笑う絶世の美少女を確認したら、次に机の上の綺麗にラッピングされた箱を丁寧にバッグにしまい込んだ。

箱の中身はチョコレート。昨日の夜シンジに習いながら作った本命チョコ。ハート型のミルクチョコにホワイトチョコで『LOVE』の文字を入れて、イチゴ味のホイップ型チョコとか小さなハート型チョコをいっぱいあしらった。所謂デコチョコってやつね。ラッピングだってシンジに習いながら自分でやったのよ。

ここまでは完璧。

今日のあたしは壮絶可愛いし、渡すチョコだって過ぎるくらいの良い出来。

あとは…あとは、このチョコを加持さんに渡すだけ!

「行くわよ、アスカ」

自分自身に言い聞かせてから部屋の引き戸を引くと、同時に向かいの物置き部屋―…もとい、シンジの部屋も開いた。

「あ、アスカおはよう。もう出かけるの?朝ご飯は?」

出てきたシンジは完璧すぎるあたしをまず誉める事もせず、朝ご飯なんかについて聞いてくる。

ったくこれだからバカシンジなのよ!

普通女の子がオシャレしてたら誉めるでしょ!?加持さんだったら絶対誉めてくれるわ!!だいたいこんな大切な日に何が朝ご飯は?なのよっ!!

「いらない。」

素っ気なく言い放って玄関に向かうと、シンジの声が追いかけてきた。

「ねぇ!今日、帰りは?」

こーゆーの何てぇの?世間一般ではオカーサンみたいって言うんじゃないかしら。

もう、いちいち確認してうざったいわね!

「遅くなるに決まってるでしょっ!!」

話しかけてこないで!!というように叫ぶと、シンジが最後に小さく頑張ってね、と言うのが聞こえた。

気が立ってたとは言えちょっと冷たくし過ぎたかしら。何となく悪い気になったけど、でも、と頭を振ってその考えをどこかへやる。

だってあたしと違ってあのバカは今日緊張もオシャレもする必要がないんだもの。

生意気な事に、あいつには恋人がいる。相手はシンジと同じ男で変態でナルシストだけど、シンジをめちゃくちゃ愛してるのは確かだし、ナルシストなだけあって見た目がいいのも確か。シンジは別にホモって訳じゃないのに、いつしかあいつの変なオーラに当てられてメロメロになってしまった。そんで完成したのが見てらんない程のバカップル。

どうせ今日もあいつと約束でもしてるに違いない。昨日あたしに教える横で楽しそうにチョコのお菓子作ってたから間違いない。ハン、勝手にイチャイチャしてれば良いわよバカ!!

あたしにとっては決戦の日!

いつものらりくらりかわされてうやむやにされてきたけど!

今日こそ加持さんにこの想いをガツンと伝えてラブラブになってやるんだから!!

「よし!!」

あたしはグン、と足を前へ踏み出した。




***




「………サイアク」

朝、帰りは遅くなると豪語したあたしは、数時間後には玄関の前に戻ってきていた。まだお昼にもなってない。

バッグの中のチョコも渡せなかった。

数時間前意気込んでネルフに乗り込んだあたしは加持さんの仕事部屋に真っ直ぐ向かって、そして撃沈した。

いつもなら簡単に開く加持さんの仕事部屋のドアがウンともスンとも言わないから(他の部屋なら蹴っ飛ばしてやるんだけど)仕方なく右往左往していたら、たまたま通りかかったリツコさんに衝撃的な事を聞かされた。




昨日から出張。

帰るのは三週間後。




何よ何よ何よ!何もこんな時に出張なんてさせなくたっていいじゃない!誰よ!加持さんに出張なんてさせたのは!!

今日の為に使ったあたしの労力返してよ!!

ああ、もうサイアク!!

あれだけ自信満々に帰りが遅くなると言ってしまった手前帰り辛い。

時間を潰すにも、今日ヒカリは鈴原と約束してるし、お小遣いもチョコの材料やラッピング代で今はほとんどないからゲーセンもダメ…。それに、こーんな可愛い女の子がバカップルだらけの街を一人でブラブラするなんて侘びし過ぎる!ナンパされたらウザイし!!

こうなったら静かに、シンジに気付かれないように部屋に行こう。

帰る途中、もしかしたら出かけたのでは、と期待したあたしはさっき、ドアに鍵がかかってない事…つまりシンジがまだ家にいる事を知り、ガッカリした。

そして家に一歩入って、シンジ以外の白いスニーカーが玄関に綺麗に揃えられているのを見て更にテンションが下がった。




あいつが来てる。

シンジの恋人………っていうか変人。




今日、どうやらシンジたちはどこかに出かけるんじゃなくて家でイチャイチャするつもりらしかった。

げぇ、どうしよう。部屋の向かい側から変な声が聞こえてきたら。特にあの変人の歯の浮くようなセリフの数々。鳥肌が立つ。

かといって今更また出かける気も起きないし、そうしてやる気もない。

「………。」

抜き足差し足忍び足。

とにかく部屋に戻ろう。部屋に戻って、それでイヤホンでもして大音量で音楽でも聴いてれば今日1日くらいやり過ごせるわ!

ああ、もうほんとサイアク!!何であたしがこんな…

『…も、もうやめようよ、カヲル君…こんなの、変だよ』

ああ…もう…サイアク…早速何か聞こえてきた…

部屋の引き戸に手をかけたところでシンジの弱々しい声。

『どうして?とても可愛いよ、シンジ君』

それから、あの、変人の声も。

『でも…こんな…』
『フフ、さぁ、手伝うと言ってくれたのは君だよ』

『あ…ッ!』

………。

な…何、を、してるのかしら。

いつもならこんな事しないんだけど、今日は何故かやたらシンジたちが何をしているのか気になって、そっと、二人がいるシンジの部屋の前に立った。

「………」

音を立てないようにそろそろと少しだけ戸をスライドさせてみる。

そうしてできた僅かな隙間に顔を寄せると、途端、甘ったるいニオイが鼻をくすぐった。…これは多分、バニラエッセンスのニオイ。

狭いシンジの部屋、まず見えたのは変人、渚カヲル。フィフス。さして仲良くもないどころか、むしろ仲が悪い私と奴は番号で呼び合っている。

珍しく私服姿のフィフスはベッドの方を向いて立っていた。…何故か銀色の、大きなボールを抱えて。

ボールって言っても投げるボールじゃなくて材料をかき混ぜたりする時に使う、調理器具の方のボールね。

フィフスはいつものニヤニヤ笑いを浮かべながら、ボールを抱える腕とは反対側の手で泡立て器をボールの中でクル、とかき混ぜた。

そしてその泡立て器を持ち上げて、ベッドの方めがけて振り下ろす。ペチャ、と言う音と

『う』

シンジが呻く声がした。

よく見えないけど、ベッドの上にシンジがいるらしい。もう少しだけ戸をスライドさせてみると、裸足が二本見えた。

『ねぇ…これ、ベトベトしてきたよカヲル君…』
『フフ、それじゃ、そろそろ完成が近いかな?右足を出して、シンジ君』

『え…』
『さぁ、はやく』

右足が躊躇いがちについ、と持ち上がった。

フィフスがその足に、ボールの中身をトロリと垂らした。

中身は真っ白な、多分、ホイップクリーム。

『カヲル君…』

不安気なシンジの声、フィフスの笑みが深くなる。

『よし。完成だシンジ君。ありがとう、君が手伝ってくれたおかげでとても美味しそうなお菓子が完成した』
『カ、カヲルく…』

右足がプルプルと震えている。多分足を上げ続けてるのが辛いんだわ。

『シンジ君が足を下ろしてしまったら、生クリームが台無しになってしまうね』
『ティッシュ…』

『違うだろうシンジ君…。せっかく完成したお菓子を、ティッシュなんかで拭って捨ててしまうつもりかい?』
『でも』

『お菓子は食べるもの。愛情がこもっているならなおさらね』
『でも、でも』

『この場合、強請るのはティッシュなんかじゃないよね?』
『…でも…』

『遠慮せずに言ってごらんシンジ君。足を舐めろって』
『や、やだよ!』

………あンの変態………っ!!!

SMプレイ、まだ諦めてなかったのね…!!!

『じゃあ、脇の方からが良いかい?』
『ダメェッ!!!』

『それとも、こっちの可愛らしい果実からかな…』
『や、や、やだ、恥ずかしいよこんなの…っ!うぅ…』

シンジの足の震えが酷くなる。いよいよ限界が近いみたい。

フィフスはニヤニヤしながらシンジの右足首を掴んだ。

『シンジ君、さぁ、僕に命令して…』
『やだ、やだ、やだやだ…』

『恥ずかしがり屋さんな女王様。なら、仕方ないから今回は』
『え…』

『下僕が勝手に舐めさせていただくよ』
『やっ、やぁっ!!!』

『愛らしい足だね』
『やめて!嫌!嫌だカヲル君!!嫌―――!!』

左足はジタバタしているのに、フィフスに足首を掴まれた右足はほとんど動いてない。フィフスが馬鹿力なのかシンジが非力なのか。

フィフスの変態はウットリしながら顔をシンジの右足に近付ける。

『やだ、やだ!やめて、本当に、ダメェ!!』

聞いた事もないくらい悲痛なシンジの叫び。本気で嫌がってるみたい。

こういう事って顔を突っ込むべきじゃないってわかってるけど、あたしは思わず引き戸を勢い良く引いていた。

「何やってんのよこの変態ッッ!!!」

フィフスのニヤニヤ顔がゆったりとこっちを振り返る。次にシンジの驚愕した顔―――…そんであたしも今シンジと同じ顔してると思う。

だってそうせずにいられない。

さっきまで足先くらいしか見えなかったシンジは、見えないところでとんでもない事になっていた。

まずシンジは素っ裸。

腰辺りにピンク色でレースが付いた、ハート型の布(エプロンかしら?)を唯一纏っているだけの姿だった。しかも両手を赤い紐で一括りにされて壁に、金具か何かによって頭上で縫い付けられていた。

その体中に、大量の生クリームがベットリとかけられている。

「ア、ア、アス…ッアス、アスカ何で…っ」

シンジはあたしが遅くなると思ってたから、突然現れたあたしに困惑して、それから

「見ないで…見ないでぇっ!!」

もともと赤かった顔を更に真っ赤にしてうつむかせた。

「どうして君は最後まで静かに見ていられなかったんだい」
「!!」

フィフスの冷ややかな声。

き、気付いてたの!?こいつ?!

「少しはファーストを見習ってほしいものだよ。」
「ファースト?」

フィフスは人差し指を上に向けた。

そこにあるのは天井…

『碇君レーダーが反応したの』

そしてそこから有り得ない、人の声。ファーストの、何を考えてるかわかんない、声。

って

「ファースト!?」
「あ、あ、綾波?!」

シンジも思わず声を上げる。その声に反応したのか天井の一部が動いてファーストの顔がヌッと現れた。

「こんにちは」

こ、こ、こ、こんにちはじゃないわよ!!人んちの天井から何普通に挨拶してんのよ!?

「あんたは忍者か―――ッッ!!」

あたしのツッコミと同時に、シンジがすすり泣きを始めた。

「ぅ…ぅ…も…やだ、うぅ…みんな出てってよ…」

フィフスはそんなシンジの生クリームまみれの体にシーツを被せた。

「やれやれ、せっかくのバレンタインが台無しになってしまった。セカンド、自分の方がうまくいかなかったからといって他の恋人たちの仲を邪魔するのはどうかと思うよ」

悔しいけど、今は何となく言い返せなかった。…っていうか何でうまくいかなかったって知ってんのよ!?

「その、役目を果たせなかったプレゼントは、せっかくだからファーストにでもあげたらどうだい」

だから何でチョコ渡せなかったって知ってんのよ?!

「!」

見上げると、上でファーストがじっとこっちを見ていた。

「あげないわよっ!!!」





おわろ

+++

何かいろいろ申し訳ない感じ。シンジ君には常に恥辱難の相が出てると良い。

何はともあれハッピーバレンタイン!!(無理くりシメタ)

10.02.11
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ