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※現代パロ
ひたすら流されるシンジ君




最近僕はカヲル君を避けていた。

いつも一緒だった登下校も、お昼の時間も、その他休み時間の時もカヲル君が僕のところへ来る前に逃げた。

逃げる先は僕の幼なじみの女の子、アスカのところだ。気弱であまり言いたい事が言えない僕と違って気が強く、何でも口に出せる逞しい彼女にこの間助けを求めた。

アスカは元々カヲル君と仲が悪かったし、カヲル君と仲良くなる前はアスカと行動をよく共にしていたので、一緒にいる事を理由も聞かずに二つ返事で了承してくれた。

カヲル君から逃げてアスカのところへ行けば、寄ると触ると喧嘩になる(というかアスカが一方的に怒鳴ったりする)のでカヲル君は無理に近寄って来なかった。

僕とカヲル君は一週間くらいそんな調子で過ごした。




カヲル君とは中学に入ってから出会った。

たまたま同じクラスで席が隣同士になって、これから始まる中学生活に緊張する僕にカヲル君から話しかけてくれた。

カヲル君は俗に言う"美少年"というやつで、しかも物腰も柔らかくて大人っぽく、とにかく存在自体がちょっと現実離れしているというか、キラキラしている人だった。

優しい笑い方をするカヲル君に、かなり人見知りをするタイプの僕が心を開くのにもそう時間はかからなかった。

一年生の時に別のクラスになってしまったアスカは、胡散臭い奴だと眉を寄せていたけど、カヲル君はとにかくカッコ良くてアスカ以外の女子はみんなカヲル君に夢中になった。

僕はカヲル君と友だちになり、やがて親友になった。

いつも二人で一緒だった。

カヲル君といるととても楽しかったし、カヲル君も楽しそうだった。二人でいるのが楽しくて、僕は放課後や休みの日はよくカヲル君の家に遊びに行っていた。

アスカが、そんな仲の良過ぎる僕たちをしょっちゅう気持ち悪いと言っていたのを思い出す。

中学二年生になると僕とカヲル君はクラスが離れてしまい、逆にアスカとは同じクラスになった。




カヲル君と離れ離れになって凄く寂しかったけど、今の状況ではそれだけが救いだった。




僕らはクラスが離れてしまっても登下校やお昼休み、ちょっとの休み時間は一緒にいたし、放課後、カヲル君の家に行って今日あった事を話したり一緒にテレビを観たりして過ごすのも相変わらずだった。

そんなある日、僕はある事を知ってしまった。僕らの日常が壊れるくらいには十分過ぎる事実を。

放課後になって、カヲル君の家に行った時だった。

カヲル君は広いマンションに一人暮らしをしていて、最初それを知った時はこんなところで一人で暮らしてるなんて凄いなぁと感心したものだった。

その、広いマンションの部屋で遊んでいる最中、僕は時々、本当に時々だけど急に物凄く眠くなる時があって、ふと気が付くと数時間経っていて、カヲル君のベッドで寝ている時があった。

そう言う時はカヲル君が寝てしまった僕をわざわざベッドルームまで運んで寝かせてくれているらしくて、申し訳なさに起きた後何度も謝っていた。




あの日もそうなるはずだった。




あの日、僕はカヲル君の部屋で、出された紅茶を美味しく頂いていたら急に眠くなって、そして意識が途切れた。

そして、次の瞬間、口の中を荒らされる感触に目を覚ました。

「…?」

目を開けると、カヲル君の伏せられた目が目の前にあった。睫がとても長い。

寝ぼけていた僕は最初夢か何かだろうと思ったけど、でも口の中の感触はやたらリアルで、時間が経つにつれて段々と覚醒してきた頭はジワジワと、これは現実なのだと告げてきた。

「ン…ッ、」

声を上げると、途端、口の中の何かが出て行って、少し頬を赤くしたカヲル君の顔が現れて、そしてばつが悪そうに笑った。

「…失敗したな、少し夢中になりすぎた」

カヲル君の言っている意味がよくわからなかった。

その、カヲル君の背後に天井が見えた。

背中がフカフカしているから僕はまたベッドに寝かせてもらったのだろうと思った。

カヲル君が僕の上にいるのは、僕を今まさに寝かせてくれたところなんだろうと思った。

「ごめんねカヲル君、僕、また寝ちゃったんだ…ね…」

謝りながら上半身を起こして、そこで僕はおかしな事に気付いた。

「え…?」

何故か、僕のシャツは左右に開かれ、中に着ているTシャツが首の辺りまで捲れ上がっていた。そしてきっちり締めていたはずのベルトは外れ、ズボンのチャックも、全開に開いていて下着が丸見えになっていた。

「あれ、何、で…」

カヲル君は、その、僕の体を狭むように四つん這いになっていた。

え、何、だろう…これ…。何か、変だ。これって、何だか、

「カヲル…君…?」

カヲル君は少し困ったような顔をしながら、ごめんねと言った。

「どうして…謝る、の」

その、カヲル君の"ごめん"に、僕は体が突然強張るのを感じた。

頭の中で何かがせめぎ合い始めた。

こんな事考えたくないのに、勝手に頭の中で『嘘だ』『違う』と誰かが叫び出した。

何が、『嘘』で『違う』んだ、何を考えてるんだ僕は。

そんなはずない。そんなわけない。

だって、カヲル君は僕の親友だ。

親友なんだ。

そうだ、カヲル君に聞こう。聞いて、誤解だって、きっとカヲル君は言ってくれる。そしたら僕はカヲル君を信じよう。

「ね…ねぇ、カヲル君、何、してたの…」

さりげなく、笑いながら。

いつもの調子で話しかけようと思うのに、なかなかそれは難しかった。頬が不自然に引きつり、声が上擦ってるのが自分でもわかる。

「ごめんねシンジ君。僕は時々君を眠らせて、寝ている君にこうして悪戯をしているんだ」

カヲル君が申し訳なさそうに、でもハッキリとそう言って、その瞬間僕の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

「いけない事だとわかってはいたのだけど、どうしてもやめられなかったんだ」

何が崩れ落ちたのかはわからない、

けれどその日、その瞬間から僕は今までのようにカヲル君と接する事ができなくなった。




もう、目を合わせる事もできない。カヲル君を前にしたらどうして良いかわからない。

友だちだと思っていたカヲル君からあんな事をされていたなんて、僕は考えたくなかったし、思い出すのも嫌だった。

カヲル君はいつも優しくて、爽やかで、あんな、あんな事を。あんな変な事、するイメージなんて全然なくて。

僕が知ってるカヲル君はあんな事をしない。きっとああいう事にそんなに興味も持ってなくて。とにかくどこもかしこも綺麗で。あんな、事、絶対しない人で。

普通に過ごしている内にふと頭がカヲル君の事を考えそうになる度、僕は頭を左右に振ってそれを阻止した。




でも、カヲル君を避け出して一週間後の放課後の事だった。僕はついにカヲル君に捕まってしまった。

アスカが帰る前に、と、トイレに入った時だった。げた箱でアスカを待っていた僕の手首を後ろから突然誰かが掴んだ。

振り返るとそこには真剣な顔をしたカヲル君がいた。一週間ぶりにまともに顔を見た。

「やっと、捕まえた」
「カ…カヲル、く…っ」

体が強張った。

「話がしたいんだ、シンジ君」

怖かった。

「で、でも僕、今、アスカを待ってて」
「知っているよ、…でも、それでも話がしたい。それには彼女がいると不都合だ」

カヲル君はそう言ってから僕を引き摺って学校を出た。

最初は掴まれた手をどうにかして解こうとしていた僕だけど、カヲル君の力は見た目によらず物凄くて、すぐに諦めた。

「シンジ君、君が僕を避けるようになってしまって、一緒にいられなくなって、僕は、とても悲しい」

カヲル君は僕の手を掴んだまま歩いた。一歩遅れて歩く僕はカヲル君の後頭部を見つめる。

「君が来ない部屋は凄く広く感じて、毎日、死んでしまいたくなる程寂しいんだ…」

聞こえてくる声は本当に寂しそうで、悲しそうで、僕は気まずくなってしまう。

大好きだったカヲル君にこんな声を出させてしまったのは、僕だ。

罪悪感に胸が痛んだ。

「カヲル君…」

思わず名前を呼んでしまうと、ゆっくりカヲル君が振り返った。

驚いてしまう。

カヲル君は、泣いていた。

「君にあんな事をしておいてこんな事言う資格がない事はわかっているのだけど…以前のように、また、僕と仲良くしてはくれないだろうか…」

いつも穏やかに笑っているカヲル君の、初めて見た泣き顔に、僕の判断力は完全に狂わされていた。

「君が嫌だと言うなら、ああいう事は絶対にしないから」

でなければ、そのままカヲル君の部屋に、あんな事があった部屋に、着いて行ったりなどしなかったはずだ。




カヲル君の部屋に着いて、僕はカヲル君と座って向き合った。まだ手首は掴まれたままだ。

「シンジ君…もうわかってしまっているだろうけど、僕は、君が好きなんだ。勿論、友情もあるよ。…けれど、性的な意味でも君に好意を抱いている。」

性的、という言葉に困って僕はカヲル君から目をそらす。掴まれたままの手首を見つめた。

「僕、も…カヲル君は好きだよ。でも、僕は友だちとしてカヲル君が好きなんだ」

しばらくの間沈黙が流れた。

気まずくて、息をするのさえ苦痛だった。

「シンジ君。君の、僕に対する、友情の"好き"はどれくらいの"好き"?僕がする事を、どこまで許してくれる?」

ふと、静かな部屋にカヲル君の声が響いて、え、と聞き返した時、僕は手首を引かれてカヲル君にキスをされた。

「ちょっ、カヲル君っ?!」

慌てて顔をずらし、掴まれてない方の手でカヲル君の体を押して、体を離そうとしたら、そのまま僕の体は床に倒れた。

カヲル君がその僕に覆い被さってきて、掴まれた手首は床に縫い付けられる。

僕は血の気が引くのを感じた。

「なっ、どうして!?こういう事はしないって、さっき言ったじゃないか!嘘吐いたの!?」

暴れる僕の体に自分の体重を乗せて、カヲル君は笑った。

「嘘は吐いていないよ。…まだ、ね。」

まだ?

まだって何なんだろう。キス、したのに。今だって、変な体制だ。怖い。

「シンジ君は嘘吐きな僕と嘘吐きでない僕。どっちが好き?」

ふいにカヲル君がおかしな質問をしてきた。

僕はすぐに

「嘘を吐かないカヲル君だよ」

と応えた。だから、やめてほしい。

「ねぇ、シンジ君。僕が嘘吐きになるかどうかは君次第なんだよ。」
「え?」

わけがわからず見つめ返すしかできない僕にカヲル君は続けた。

「僕の事を許してほしい。僕のする事全てを。それで、僕を嘘吐きにしないでくれないか」

カヲル君は、額を、僕の額にぶつけた。

「どうか、拒絶、しないでほしい」

そうして僕の口を、空いている手で塞いだ。

「嫌だと、言わないでほしい」

僕は目を見開いてああ、と思った。

カヲル君の"まだ"を理解した。

そんな頓知な、と思った時、僕の足の間にカヲル君が突然グイグイと体を押し込んで来た。

何事かと思ったら、カヲル君自身を、僕自身に、ズボン越しに擦りつけてきた。

「ンンッ!」

ゾクッと鳥肌が立って身を捩るも、カヲル君に押さえつけられている為にほとんど身動きが取れない。

「お願い気持ち良くするから」

気が付くと、僕の上のカヲル君は少し息を荒くしていて、そして声にはいつもの余裕がなかった。

こんなカヲル君は知らなかった。

知りたくなかった。

どうにかやめてほしくて頭を振るも、僕の口を覆うカヲル君の手が離れたのはそれから一時間くらい経った後だった。




僕は馬鹿だ。




泣き顔に絆されて、ノコノコとカヲル君の部屋までついてきて、犯されて、そして今、泣いて謝るカヲル君に縋られて怒る事もできないでいる。

親友からこんな酷い仕打ちを受けて、それなのにまた明日、と手を振っている。

嘘吐きと、罵る事もできなかった。

僕は、結局、カヲル君のした事を許してしまったんだろうか。

許しているんだろうか。わからない。




けれど僕はまた明日、と言ったのだ、カヲル君に。




終わり。

+++

カヲル君が性欲旺盛すぎてすいません。

っていうか我慢できなさすぎる子ですいません。

ちなみにこのカヲル君、泣いて縋ればシンジ君は許してくれるとちゃんとわかってる腹黒い子です。

10.07.28

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