Long
□青春を始めよう
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一時間目は古典だった。授業が始まると、まだ教科書を持ってない僕の為にカヲル君が席をくっつけて教科書を見せてくれた。
黒板を見てノートをとったり、先生の説明を聞いたりしていると、ふと視界の端に赤色が見えた。
「………!!」
目だけ動かしてその赤を確かめて見ると、それはカヲル君の瞳だった。
また見てる。僕を物凄く見てる。しかも至近距離で。
そんな綺麗な顔に見つめられたら、例え男の子だって解っててもドキドキしてしまう。落ち着かない…
「な…何…?」
小声で聞いてみると、カヲル君も小声で『あぁ、ごめんね』と笑って、それから視線を黒板に戻した。
…何だろう。カヲル君、やたら僕を見てる気がする。いくら僕が今日来たばかりの転入生だからってそろそろ珍しくもなくなって来ただろうに。…もしかして誰かに似てるとかだろうか。それで、誰に似てるんだっけ思い出せないなうーんとか思ってたりして。
一時間目の中頃ふと思っただけのその疑問は、しかし四時間目が終わる頃には僕の中で頂点に達していた。
***
「カ…カヲル君…」
「何だいシンジ君」
僕とカヲル君は屋上でお弁当を広げていた。
そして僕は今日気付いただけで何十回目になるだろう…カヲル君からの強すぎる視線を受けている。直撃している。
「あ、あの…カヲル君は…」
「うん」
い、言うぞ。
いかにしても四時間の間あれだけ(ほとんどずっと)見られたらあんまりこういう事言わない僕だって聞かないわけにはいかない…
「何でそんなに僕を見るのかなって…。あの…気のせいかもしれないけど授業中も凄く視線を感じていた…というか…見てた…よね…」
机をくっつけてかなり顔と顔とが至近距離だったにも関わらず、カヲル君は教科書ではなく僕ばかり見ていた。証拠に、僕が耐えられなくなって振り返るたびに目が合った。
その後カヲル君はごめんと言って一旦視線を教科書なり黒板なりにやってくれたけどすぐまた僕を見ていた。
そのやり取りを一時間目から四時間目が終わるまでの間何回も繰り返したのだ。
僕がその質問をする事で、カヲル君が怒ったらどうしよう、と思ってビクビクしていたけど、カヲル君はただああ、と言って笑った。
「悪いけどこればっかりはしょうがないんだ、ごめんね」
しょうがない?しょ、しょうがないって何?つまりやっぱり見てたって事?
「えーと…しょうがないって…?」
別に怒ってる訳じゃないよって調子でおずおず聞いてみると、カヲル君からとんでもない言葉が返って来た。
「…君が大好きだからさ」
「………………………え?」
「好きな物は知らず知らずつい視線で追いかけてしまうものだろう?…無意識なんだ、ごめんね」
「え?…ええ?」
そ、それってどういう事?
目の前には相変わらず綺麗に微笑むカヲル君の顔。
顔に熱が集中するのを感じる。
でも、だって、えええ?僕らつい数時間前会ったばかりだよね?それで何でいきなり大好き?
「迷惑かな…」
何か言おうとして何度も失敗して口をパクパクするばかりの僕に眉をハの字にしたカヲル君が尋ねてきた。
「めっ迷惑なんかじゃないよっ?!」
僕は思わず叫んでいた。
「だ、だけど僕、別にカヲル君みたいに綺麗とかじゃないし…まだ会ったばっかりだし…まだ話とかも全然…なのにカヲル君は何があの…」
頭の中が混乱している。だって人から大好き、なんて言われたの初めてだから。でも理由がわからない。どうしてか聞きたくて、上手く言えないけど途切れ途切れに思いつく言葉を口から出してみる。
「君はとっても魅力的だよ、十分に」
そんな僕の頬をカヲル君のスラリとした形の良い手が撫でた。
思わず体が強張る。
な、何、何、何!?何この手?!
「ぁっあっあっあの…っ?!」
「ところでシンジ君、学校を見て回るのは放課後でどうだろう?」
「えっ?あっはい…っ!」
「ふふ、じゃあ放課後にね」
あ、あれ?
カヲル君は僕の頬を撫でた手をそのままサンドイッチに持っていき、普通に食べた。
普通に食べてる。
普通に食べてる。
普通に食べてる?
え、ええと…?何、だったのかな今のは…?えーーーーーーーーーと…?
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